|
| 放送日 | 1972/4/22 |
| 監督 | Gene Leavitt |
| 原案 | John Thomas James |
| 脚色 | Sy Salkowitz |
| ゲスト | Burl Ives:マクレディ[ Big Mac McCreedy ], |
| | Edward Andrews:ピーターソン[ Ralph Peterson ], |
| | Cesar Romero:アルメンダリス[ Armendariz ], |
|
眼鏡をかけた恰幅のいい初老の紳士が二頭立ての馬車を操って町へ入ってきた。
「やあ、どうもマクレディさん!」
居合わせた町の人々が次々に挨拶をする。老紳士も手綱を手に挨拶を返す。
馬車を止め、ステッキをつきながらブレイクという名の男とサルーンへ。
カウンターではヘイズとカーリーがバーテンダーからグラスをもらったところだった。ボトルの口がヘイズの手にしたグラスにあてがわれる。ところがすぐにボトルは引っ込められた。
「あ、これこれはいらっしゃいませ。ブレイクもいらっしゃい」
「ああ、商売繁盛かね」
「もう、おかげさまで順調に、はい」
グラスを手にしたまま、ヘイズとカーリは無言で顔を見合わせた。ブレイクが一気にグラスを干すと、マクレディが言った。
「おかわり注いでやってくれ」
「こっちも、一杯欲しいんだけど」とヘイズ。
「ご都合のよろしいときにね」とカーリー。
「マクレディさんが終わってからね」
バーテンダーの返事にカーリーが二つのグラスをマクレディたちのところへ滑らせて言った。
「すいませんねえ。別のビンでいいからさ、哀れな二人に注いでやってよ。取りに行きますから」
するとブレイクが二つのグラスをカーリーの元へ勢いよく滑らせ返した。滑ってきたグラスを受け止め、ブレイクを見返すカーリー。だみ声でブレイクが言った。
「ガツガツするなって。おとなしく待ってりゃそのうち注いでくれるからよ」
ヘイズと顔を見合わせたカーリーは無言で歩き出すとボトルをつかんでヘイズの元へ戻った。ヘイズのグラスに酒を注いでいると、
「おいこら」
ボトルを手にカーリーは軽く目を見張って、
「おれ?」
「そう、おめえだ。おめえ、ふざけたマネするんじゃねえよ」
「別に」
カーリーは微笑って、
「飲みたいだけ。それだけさ」
「それだけじゃすまねえよ」
「あ、そう」
「そうよ。人の気に障るようなマネしといてそのままですむわけねえだろ」
「そうだなあ、その通りだ」
ヘイズが言った。
「けど、もめたかねえなあ」
「てめえに言ってんじゃねえ、黙ってろい。勝手に酒注いだのが気にくわねえってんだ。店の決まりを破ってる。酒はバーテンダーが注ぐもんだ」
「いや、おれだってこんなことはしたくない」
グラスを掲げ、にこやかにカーリーが言った。
「しかしのどがひりついてっからしょうがないだろ?」
そして二人がグラスに口をつけたとき、
「それ置け。下に置くんだ」
ブレイクの穏やかならぬ声に、ヘイズはグラスを手にしたまま、カーリーは一口飲んでからゆっくりと相手を振り返った。
「なに?」
「下に置けってんだい。酒はバーテンさんが注いでくれたものだけを飲む。これがここの店の決まりなんでえ。マクレディさんにも訊いてみろ、店の持ち主だ」
「その通り」
葉巻を口から離してマクレディが言った。
「この店ではバーテンダーが注いだ酒だけを飲むことになっておる」
軽くうなずきながらしばらく相手を見つめていたカーリーは、やがてヘイズのほうを向くと加勢を頼むような顔で言った。
「ねえ・・・のど乾いてんだろ?」
「非常に、乾いてる。ヒリヒリしてる」
こたえたヘイズはマクレディたちのほうへ向かって言った。
「じゃ、どうだろう。バーテンさんがこっちへ来て注いでくれるってことに、どうだろ」
「それがいい」
ブレイクがうなずいて、
「こっちがすんだら行くから待ってな。マクレディさん、今度はおれがおごります」
「そうかい。それはすまんな」
ヘイズとカーリーがとりあえずお互いのグラスを乾杯させたとき、その音にブレイクがサッと振り向いた。腰に手をやって銃を抜こうとした。
それより先にカーリーの拳銃が火を噴いた。店内に悲鳴が上がった。自分の銃をホルスターごと吹っ飛ばされたブレイクは呆然とした顔でカーリーを見た。
グラスを手にしたまま、険しい表情で銃をホルスターにしまうカーリー。マクレディの顔つきもにわかに変わった。じっと二人の顔を見つめるマクレディ。
口に含んでいた酒を飲み下したカーリーはやおらバーテンダーに向かって、
「いくらかしら」
するとマクレディが大きな笑い声を立てて言った。
「いや、いらん。それよりもう一杯飲みなさい。わしのおごりだ」
「こらどうも」
ボトルを手にカーリーが言った。
「いただきます」
ふたたび自分たちのグラスに酒を注ぐカーリー。なお呆然としているブレイクにマクレディが言った。
「腕が違う。恨むなよ。今のはお遊びだ。みんなが楽しんで終わった。わかったな。おまえが調子に乗りすぎたんだ」
「わかってますよ。反省します」
ブレイクはホルスターを拾って店を出て行った。
「きみたちもあいつのことは水に流してやってくれ」
ヘイズとカーリーに向かってマクレディが言った。
「わしと一緒にいると虎の威を借るなんとやらでな。つい格好をつけたがるんだなあ」
「あんなことを根に持つほどこせついてないつもりです。気にしないでください」
ヘイズが言った。マクレディは二人に近づいて、
「いやあ、嬉しいことを言ってくれるね」
葉巻をくゆらせながらしばしじっと二人を見つめていたが、
「通りすがりかね」
「職探しです」
「どんな」
「どんなんでも。手っ取り早く稼げるものなら、何でも」
「そう」
カーリーもうなずいて、
「カードの胴元なんか」
「いやあ、今んとこ間に合ってるから。ポーカー、やるかね」
「いや、今はやれません。またいずれ」
ヘイズがこたえた。マクレディは葉巻をふかしながら鷹揚に言った。
「ま、ここの勝負はケチくさいからな。よく動いて一晩50ドルだ。大きい勝負をやりたけりゃ土曜の晩にうちに来なさい。徹夜でやる。まあ1万も握ってくりゃいい。歓迎するよ」
「はあ」
ヘイズは微笑って、
「どうもお招きいただきまして。しかし1万ドル持ってればポーカーなんて危ないものに使いませんよ」
「いいねえ。まじめでいい」
保安官に向かってまくし立てるブレイク。
「いや、あいつら何もんか知らねえけど、いやもうガンだけは早(はえ)えの早くねえのって。おれだって遅くはねえの知ってんだろ?それでもあっというまにこの始末だよ、保安官。見てくれよ、これ」
ホルスターを保安官に手渡す。
「保安官としちゃあやっぱり一応、調べたほうがいいぜ、ありゃあ」
ブレイクのホルスターを調べながら保安官はうなずいた。
「よし。ま、今日、明日にでも一応顔見とこうか。それから手配書も当たっとくよ」
サルーン。マクレディとテーブルに着いているヘイズとカーリー。葉巻の煙を吐き出しながらマクレディが言った。
「わしゃねえ、前からきみたちのようないい青年を探しとったんだ。ひとつ、稼いで
みないかね」
カーリーに視線を投げてから、ヘイズが言った。
「マクレディさん。そういう話はたいてい、銀行強盗のお誘いなんですが」
「銀行は持ってる。株の37パーセントではあるが」
するとカーリーが、
「じゃあ、列車強盗」
「鉄道も株主だよ」
「土地争い」
ヘイズが言うとマクレディはギロリと目を向けて、
「必要ない。大地主だ」
椅子の背にもたれてカーリーが言った。
「じゃ何やるんです」
「盗まれたわしの財産を取り返してもらいたいんだよ」
「何を」
「二、三年前だったが、ヨーロッパへ行ったときに買い物をした。まあいろいろと美しいものをな。それで牧場の家を飾ったわけだ。その中にシーザーの胸像があったんだ。千七百年代、なんとかって人が作ったんだそうだが、イタリアの有名な芸術家ってことだ。それがわしゃ大好きだった」
「で、どうなったんです?」
「盗まれた。家(うち)から盗み去られた」
ヘイズが言った。
「この町の者(もん)じゃないですね」
「違う。国境の向こうのメキシコ野郎なんだ。名前はアルメンダリスという」
「盗(と)ったあとは?」
「別に。置いてある」
二人を交互に見つめてマクレディは期待するような口調で言った。
「きみたちでそれを取り返してくれ」
ヘイズが訊いた。
「で、報酬はいかほどのもんで」
「その石像を買ったときは1万ドルだったが、取り返せば同じだけ払うよ」
「いい金だ」
カーリーがうなずきながら言った。
サルーンを出たヘイズとカーリー。
「わかってるよ」
ヘイズが言った。
「口で言うほど楽な仕事ならあんなに出すわけねえじゃねえか」
「みんながみんなおまえほど手癖が悪いわけはないしなあ」
「そうさ。こいつはわけありだぜ」
そして二人はブレイクを見つけた。ヘイズが声を掛けた。
「よお」
二人に近寄られ、おっかなびっくりのブレイク。
「何だよ」
「いやあ、ちょっと友好的に話をと思って」
ブレイクが脇に抱えていたホルスターを手にとってヘイズは言った。
「あーあ。どうこれ、ホルスターをギタギタにしちゃって」
ブレイクは両手を上げて、
「だから丸腰だよ」
「おいおい、手は下ろしてくれよ。さっきのことなんざ根に持っちゃいねえんだからよ」
不安そうに二人を見つめるブレイク。ホルスターを手にしたまま、ヘイズがカーリーに言った。
「これ直すのにいくらくらいかかるんだ?」
「ふーん、1ドルだな」
「そうかなあ。もっとするかも」
ヘイズはブレイクに向かって、
「直してくれるとこあるのかい?」
「ああ、その向こうで」
「じゃあ行こう。直しを頼んでおいて、待ってるあいだに飲もう」
「ほんとか?」
「ああ」
それまでこわばっていたブレイクの表情がとたんに明るくなった。
「そりゃありがてえ。そこの店の隣に、いい飲み屋があるから」
飲み屋ですっかりできあがったブレイク。空になったワインボトルを前に、ヘイズとカーリーを交互に見ながら笑い声を立てて言った。
「山賊?アルメンダリスは山賊じゃねえよ。あいつはリオグランデ河の向こうで大きな牧場をやってんだ。いやあ、しかし見込まれたもんだな。それだけ出すって言ったのかい?1万ドルだって?へーえ」
酔っぱらったブレイクはなおも笑って、
「へへへ、今までにも四人、それやってんだ。三人まではどうなったかわからずじまい。四人目は今でも寝込んだまーんま」
ブレイクの笑いに乗ってヘイズも微笑って見せたが、カーリーと視線を合わせて硬い表情に戻った。
「アルメンダリスの手下は二百人だぜ」
しゃべり続けるブレイクのグラスに黙ってワインを注ぐカーリー。
「大物なんだよ。紳士だよ。あの御大よ。よく祭だか宴会だかやるがねえ、そのときは必ずそのシーザーの石像を真ん中に飾ってるってよ」
念を押すようにヘイズが言った。
「二百人?」
「いやあ、もっといるかなあ。タフなのばかりよ。えり抜きだい。向こうもマクレディが取り返したがってるのは承知してら」
「宴会か」
ヘイズのほうを見てカーリーが言った。
「じゃあ大勢来るなあ」
「そうなると、1万じゃ引き合わねえかもな」
「そいでよ。宴会やってねえときはその石像、大事にしまって見張りつけてるってさ。でけえ金庫に入れてよ」
「金庫?」
ヘイズが訊ね返した。
「そうよ。鋼鉄の1トンもあるような金庫だい」
「なんとね。まるで銀行だ」
「ああ。フィラデルフィア製だってよ。わざわざ送らせたんだ」
「フィラデルフィア?こいつはいいや」
笑ってこたえたヘイズは立ち上がって、
「やあどうも。いろいろと情報ありがとうよ。助かるよ」
椅子を引いたヘイズはブレイクのそばに近寄って言った。
「だけどよ。こんなことをおれたちに話してくれて、マクレディにどやされやしないか?」
「なあに、町中の人間が知ってることさ。その辺の誰に訊いたって教えてくれっからよ」 ヘイズは満足そうにうなずいた。するとカーリーが、
「ああ・・・ホルスターのこと、ほんとにごめんなさいよ」
「いいってことよ。こっちで礼を言いたいくらいだ。あんないい腕前を見せてもらってよ」
「いやあ、腕はよくねえよ」
手袋をはめながらヘイズが言った。
「あれ腹狙ったんだ」
それまで機嫌良くにやついていたブレイクの表情がこわばった。カーリーが挨拶代わりに帽子に指を当てて見せた。
二人が酒場を出て行ったあと、ブレイクは神妙な顔つきで手にしていたグラスを一気に飲み干した。
店を出て歩き出したヘイズとカーリー。カーリーが言った。
「まさか恩赦をふいにする気じゃないだろうな」
「ないない。盗品を取り返すんだ、まっとうな仕事だよ」
「しかしあんた、屋敷に忍び込んで金庫破るんだよ?」
「現場はメキシコ、大丈夫。それに知事が決めた条件は法律を守ってきれいな暮らしを一年ってことだろ?」
二人は銀行の前までやってきた。表にはマクレディが男と立ち話をしている。それには気づかず足を止めたヘイズがカーリーに向き直って続けた。
「だったら盗まれた品を取り返すなんてのはさあ、かえって点数稼げるよ」
黙って聞いていたカーリーは笑顔になって、
「ヘイズさんよ」
ヘイズは両手を腰に当てて胸を張り、
「ああ?」
「さえてるなあ」
ヘイズの肩に手をやって笑いながらカーリーは言った。
「おまえのひとことでやる気になった」
「よし」
「きみたち」
マクレディの声に二人は振り返った。二人に近づいてきたマクレディは隣の男に向かって言った。
「ピート、紹介しよう。ジョシュア・スミスとサディアス・ジョーンズだ」
「よろしく」
ヘイズとカーリーは男と握手を交わした。
「ピーターソンだ。わしが関係しとる銀行の頭取だ」
「いやあどうも、初めまして」
ピーターソンが言った。
「お噂はマクレディさんからいろいろと。あたしでできることだったら何でも言ってください。ご相談に乗せていただきますよ」
そしてマクレディに向かって、
「じゃ、いつもの土曜日にね」
「せいぜいネギしょって来てくれ」
「おっ?」
言ってくれるなという顔を見せ、高笑いを残してピーターソンは銀行へ戻っていった。
マクレディはあらためてヘイズとカーリーに向き直った。
「どうかね。さっきの話、乗ってくれるか?」
「ええ、いろいろ調べましたが」
ヘイズが言った。
「仕事の内容はあんたの言ってたのと違って楽じゃないですねえ、これは」
「うむ」
口から葉巻を離し、眼鏡の奥からヘイズを見つめて愛想よくマクレディは言った。
「だからこそ報酬をはずんどる」
「あれではずんでるのかな。仕事が仕事ですからね、2万はいただかないと」
マクレディの顔つきが変わった。煙を吐き出すや、
「泥棒だ」
「だめかと思ったらやっぱりだめ」
カーリーが言った。ヘイズはあっさりと、
「それじゃほかを当たってもらうんですね。おれたちは降りますよ」
渋い表情で葉巻を吸い込んでいたマクレディは、
「うーん。どうするかな。じゃあ2万出す代わりに一つ条件がある」
「何です?」
「土曜の晩のポーカーに入ってもらってわしに少しは取り戻せるチャンスをくれる、これだよ」
ヘイズの表情は明るかったがカーリーは違った。ヘイズの背に手を回した彼はマクレディに言った。
「ちょっと、すいません。一応相談を」
「ああ、やってくれ」
マクレディから離れ、ヘイズの肩に手を置いたカーリーは考え込むように言った。
「どうする。万単位の金が動くんだ、素人勝負じゃないよ、これは」
「わかってる。土曜の晩から日曜の朝までだ。スタミナがいるなあ」
「どう?ちびちび賭けてあんまり負けが込まないようにやれる?」
「任しといてくれよ。浮きも沈みもしないようにやるから」
ヘイズがこたえ、二人は笑いながら顔を見合わせた。
「ヘイズさんよ」
「ん?」
「またやる気にさせられたよ」
カーリーはヘイズの腕をたたき、二人はマクレディの前に戻った。
「やらせてもらいます」
すぐに手を差し出してヘイズが言った。その手を握ってマクレディは言った。
「きみたちを見る目に狂いはなかった。この若者ならわしの期待に応じてくれると思っとったよ。じゃあ胸像を持って帰ったらすぐわしに知らせてくれよ」
「こっちにも条件が一つあるんですが」
口を開いたのはカーリーだった。
「ほう、何かね」
「おれたちが取り返したってことは内緒にしてください」
「うんうん、よっしゃ」
放り上げたステッキを小粋につかんで見せたマクレディは満足げに二人の前から立ち去った。その背を見送りながらヘイズが言った。
「キッドよ。2万ドル握ったらどこ行くよ」
「どこったって、まずメキシコ行かなきゃ握れねえだろ、その金」
夜中。アルメンダリスの屋敷。門の外から敷地内の様子を探り、石塀を乗り越えて潜入するヘイズとカーリー。広い敷地の中を素早く横切り、屋敷の中へ忍び込んだ。
立派な調度品に囲まれた豪勢な部屋。
ライフルを手にしたまま椅子に座って居眠りをしていた見張りの前に、銃を抜いてそっとかがみ込んだカーリー。起こした撃鉄の音に目を覚ました口ひげの男に向かって穏やかに言った。
「話のわかるやつなら手荒な真似はしないが、どうだい?」
「ああ、わかっ──」
「シーッ」
「・・・わかるわかる、よくわかる」
「いいこいいこ、おりこうさんね。じゃ立って。手、後ろね」
相手を立ち上がらせ、両手を後ろ手に縛り、猿ぐつわをかませて椅子に座らせるカーリー。そのかんに、ゆっくりと金庫へ歩み寄るヘイズ。金庫の前にかがみ込み、かぶっていた帽子を取って慣れた仕草でダイヤルに手を掛けながら扉に耳を寄せた。
テーブルに足を乗せ、窓の外を警戒しながらヘイズの仕事を見守るカーリー。しかし、ダイヤルはなかなかうまく合わず、扉は開かない。
「ヘイズ」
銃を手に窓の外を見ていたカーリーが押し殺した声で言った。
「あと三十分で夜が明けるぞ。十分たっても開かなかったら諦めよう」
「ああ」
ため息混じりにうなずいて見せたヘイズは疲れたように金庫に頭をもたせかけた。再度ダイヤルを回転させて挑む。
空が白んできた。敷地内ではライフルを手にした見張りが用心深く門の外の様子をうかがいながら歩き回っている。
ダイヤルの音を聞いていたヘイズの表情が明るくなった。ノブに手を掛け、そっと回す。鍵がはずれる乾いた音がしてノブが回った。晴れやかな顔でカーリーを振り返るヘイズ。カーリーも立ち上がって金庫の前へ来た。ヘイズが扉を開ける。
開かれた扉の向こうから白い胸像が現れた。
袋の中へ胸像をしまい込むヘイズとカーリー。ついで、ヘイズがダイヤの入ったケースを取り出した。軽く口笛を吹いて見せるカーリー。ヘイズがダイヤを見つめているあいだに、今度はカーリーが分厚い札束を取り出した。無言で顔を見合わせる二人。物憂い口調でヘイズが言った。
「つれえなあ、こらあ」
「しょうがないだろ、置いてかなきゃあ」
それでもなお、金と宝石を前に二人はしばらく顔を見合わせたまま。が、次の瞬間、思い切ったようにダイヤも札束も金庫の中へ戻した。
「さあさあ、ぐずぐずしない。未練は残さずぴたんこ閉める」
胸像の入った袋を抱え、用心深く部屋を抜け出すヘイズとカーリー。銃を握るカーリーの後を、袋を抱えたヘイズが続く。
部屋を出て庭を見渡していたとき、手すりの上に置いてあった鉢植えを倒しかけた。慌てて抑えようとする二人。が、鉢植えは落下。音を立てて割れた。
二人は一気に階段を駆け下りた。
脱兎のごとく敷地を駆け抜ける二人。奥から家の人間がばらばらと飛び出してきた。
「誰だ!待て!」
「おい!怪しいやつが逃げるぞ!」
「出てこい!みんな出てこい!」
「泥棒だ!」
互いに声を掛け合い、屋敷の中から次々に現れる手下たち。門が開け放たれ、庭先は騒然となった。
「こっちだこっちだ!」
それぞれ馬を引いて駆け出して行く。そばに荷馬車が置いてあった。荷台に布がかぶせられている。その布の下に隠れているヘイズとカーリー。そうとは知らないアルメンダリスの手下はその馬車を駆って走り出した。カーリーは銃を手に、ヘイズは胸像の入った袋を手にしたまま、じっと揺られて屋敷を抜け出すことに成功した。
マクレディの屋敷。ポーカーの部屋。グリーンのテーブルの上には幾枚ものドル紙幣。
「ジャック二枚で?強気だね」
とマクレディ。ポーカーテーブルの向こうではカーリーが椅子に座って本を読んでいる。
「伏せてあるのがキングとは見えないからな。500いっとこうか」
札を中央へ放ったマクレディをじっと見つめるのはピーターソン。
「500つきあって」
ヘイズが言った。
「2000アップと」
その声にカーリーがサッと顔を上げた。
「これはちょっとね」
ピーターソンが言った。
「あたしはこれまで」
「こっちは上げるぞ。バンバン上げて」
マクレディが言った。
「1万といこう」
カーリーはバサッと本を閉じた。ヘイズの表情も硬くなった。マクレディの場札を見る。できあがっているのはジャックのワンペア。残りはダイヤの10とスペードのエースだった。
「いいとこいって、ジャックのスリーカードじゃないですか?」
落ち着き払った声でヘイズが言った。
「こっちがハッタリと見ておしてるのかなあ」
ヘイズの手は2、3、4、5のシークエンス。
「じゃあ1万・・・おっかけて8千200」
ピーターソンが目を見張って身を乗り出した。カーリーも不安そうに見守っている。マクレディのほうを見て、ヘイズが言った。
「勝負したけりゃ張ってもらいます」
「よしきた。ここまできて引く手はない」
マクレディは金を出した。
「引いとくんだったですねえ」
手札を返してヘイズが言った。持っていたのはクラブのエース。
「こっちはストレートなんだ」
カーリーが立ち上がってテーブルに近寄った。ところがマクレディは平然と、
「ジャックのワンペアで勝ちだな」
ヘイズは笑って、
「何をおっしゃってるんです」
「いや、勝ちなんだよ、わしの」
「ちょっと待ってくれよ」
テーブル中央の掛け金に手を伸ばした相手の手を押しとどめるように、同じく手を伸ばしてヘイズが言った。
「冗談じゃねえ」
「いやそれがね」
おもしろそうな顔でピーターソンが言った。
「勝ちなんだよ、ほんとに」
ギロリとヘイズを見やってマクレディが言った。
「文句あるかね?」
ヘイズは信じられないといった顔で、
「こっちはストレートだよ、あんた」
「そうだ。だから負けだ」
「ワンペアにストレートが負けるなんてポーカーがどこにあるよ」
「おまえさんには悪いがそれがここにはちゃんとあるんだな。ピート、規則書を持ってきてくれんか」
笑い声を上げながら立ち上がったピーターソンは一冊の小さな本を手に戻ってきた。そのかん、不安そうに顔を見合わせるヘイズとカーリー。
ふんふんとページを繰っていたピーターソンはやがて、
「あ、ここだ。あー、スタッドポーカーにおいては、ストレートとフラッシュの役は、勝負の開始に際して、“あり”と宣言せぬ限り手役とは認められん」
ヘイズは無言でピーターソンから本を奪い取った。硬い表情で書いてあることに目を通す。マクレディが言った。
「誰か宣言したかね」
ピーターソンが嬉しそうに高笑いした。マクレディはヘイズを見つめ、
「フェアにいきたい。きみは宣言を聞いておるか」
「聞いてないよ!」
腹立たしげに本を閉じてヘイズは言った。
「だいたいこんな規則だって聞いたことねえや。あんたそれを承知で引っかけたってわけだ、そうだろ?」
「そうだな。まあ、正直言って、引っかかってくれりゃいいと思ったな」
するとたまりかねたようにカーリーが言った。
「悪いけどほかの規則書も調べていいかなあ」
「どうぞ。どの本を見ても一八五七年以降はみんなそう書いてある。ただし、それを知っている人間はあんまりいないと思うが」
とたん、ピーターソンがこれまでにない大きな笑い声を上げた。バカ笑いといったところだ。
「わぁっはっはっはっ!あんまりね!」
「まあそうむくれなさんな。そっちの勉強不足なんだ。ま、これをな」
そう言ってマクレディは手元の札をそろえると、
「旅費の足しにでもしてもらうんだな」
差し出された札を、ヘイズは素直に受け取った。
「すいません。どうも」
カーリーの表情がこわばった。屈辱以外のなにものでもない。しかしヘイズは弱々しい笑みを浮かべて、
「助かりますです」
「それじゃあ引き取ってもらおうか。いてもらっても、お互い気まずいからな」
ヘイズは立ち上がった。
「失礼します」
「そのうちにまたお手合わせ願うから」
マクレディの言葉にカーリーが、
「願い下げにしたいですね」
そしてふたたびピーターソンの高笑い。二人の背に向かってマクレディが言った。
「ご苦労さん。おかげでご機嫌だよ、今日は」
二人が出て行ったあと、カード部屋にはひとしきり笑いの渦が巻き起こった。
手配書の束を一枚一枚丹念に調べている保安官。一枚見ては脇に裏返して重ね、次の一枚を取り上げる。
一方、ヘイズとカーリーはスーツに着替え、ピーターソンの銀行を訪れた。部屋をノックする音に続いて現れた二人に、驚いた顔のピーターソン。
「おお、これはご両人。まだいらしたんですか。とっくにお立ちかと思ってました」
マクレディのカード部屋。黒リボンに臙脂色のベストを着たマクレディ。ピーターソンとともに現れた二人に向かって鷹揚に言った。
「まだ町にいるってことは聞いとった」
「そうですか」
「で、まだ何か?」
「ええ。リターンマッチをやってもらわなきゃと思いましてね」
ヘイズの言葉にマクレディはうなずいて、
「そうか。それはこっちもやぶさかではないよ。掛け金さえ握ってくればね」
「持ってます」
こたえたのはカーリー。マクレディはおやという顔で、
「何だと?」
「掛け金はあるってんです」
「1万持ってるのか」
「いや。2万」
「どこで2万も調達した」
「金の出所なんか言っちゃお互いしらけるから」
「この町で金のあるところと言えば──」
「まままま、そうこだわらない、こだわらない」
あいだに入ったのはピーターソンだった。
「いいじゃないの。金は金なんだから。しかもまっとうな金だ。保証するよ」
マクレディは一応納得して見せたものの、
「しかし・・・今日は相手ができそうにないな。ごらんの通りもう八人も集まっとる。
これ以上入れてはおもしろくない。またにしてもらおうか」
テーブルを見回してからヘイズが言った。
「しかし、あれっきりっていうのも寝覚めが悪くてねえ」
「まあそれはわかるがね。とにかく今日はだめだ。悪いな」
残念そうに帽子を頭に乗せ、部屋を出ようとするヘイズとカーリー。
「さあ、ご開帳」
そう言ってマクレディは二人に向けてかかげたグラスの酒を飲んだ。
「それじゃあな」
「マクレディさん」
「何だ」
帰りかけたヘイズがゆっくりと振り返った。
「バクチは“強”がつくほうですか?」
「まあ、それに近いだろうな。どうして」
「五枚めくりの一発勝負で2万賭けてみませんか」
複雑な表情でヘイズとマクレディを交互に見つめるカーリー。ピーターソンもじっと成り行きを見守っている。
「まあ、そういう勝負が威勢がいいと好むやつもいるが、わしゃ嫌いだな。賭博師としての腕を競うゲームでないとおもしろくないよ」
「それじゃあ違う手でいきましょう」
しばし考えたあと、ヘイズはゆっくりとカードテーブルに歩み寄った。
「おれの作る手に掛けてもらうんだ。新しいカードを取って、シャッフルする。おれに二十五枚配ってもらう。それで五つの手役を作る。カード交換なしだ。これができるかできないかに賭ける」
「そりゃあきみ、確率は百分の一か千分の一か・・・とにかく難しいぞ、そんな芸当は」 「おれはできるほうに2万ドル張るけど?」
「・・・わしはいくら出せばいい」
「2万だ。五分と五分」
するとテーブルに着いていた男の一人が、
「あんたが受けないんだったらわしが受けてもいいよ」
マクレディはその男の肩をたたき、
「いやあ、いい」
そしてヘイズに向かって言った。
「確かだろうな。二十五枚配りっきりで五つの役を作る。それに賭けろって言うんだな」
「そうです」
「よし!やれないほうに2万!」
ヘイズとマクレディはそれぞれテーブルに2万を置いた。
先の男がカードの箱を選んだ。箱からカードを取り出したマクレディがその男の前に置く。男は丹念にシャッフルしてテーブルに置いた。マクレディがそれを取り上げ、ひい、ふう、みい、と数えながらヘイズの前に二十五枚配る。
部屋には緊迫した空気が漂っていた。
「じゃ、いきますよ」
配られたカードを手に取ったヘイズが順番に返して並べていく。ピーターソンと目配せするマクレディ。並べられたカードを不安そうに見下ろすカーリー。
「ようござんすね」
ヘイズはカードを次々に並べ替えていった。
「ハート、スペード・・・これでフラッシュだな。さーて、どうする?・・・これでフルハウス」
部屋に居合わせた人間は手際よく並び替えられるカードを真剣な表情で見守っていた。役が作られていくにつれ、顎に手をやって見つめていたマクレディの表情がだんだん厳しくなっていく。
「これもフルハウス・・・これはストレート」
ピーターソンが極めて興味深そうな顔をした。そんなピーターソンにマクレディがちらっと不安そうな視線を投げる。
五つの役がきれいにまとまった。ヘイズは順番に指でテーブルを突いて見せながら、
「フラッシュ、フラッシュ、フルハウス、フルハウス、ストレート」
テーブルから身を起こし、マクレディの顔を正面から見据え、涼しい顔でヘイズは言った。
「はい、あがり」
険しい表情でテーブルを見下ろしていたマクレディ。沈黙が続いたあと、じっとヘイズの顔を見つめていた彼は、ついでピーターソンを見た。
「できると知ってたな?」
「そ。承知の上。やって見せてくれたからね。なんと十回のうち九回できたよ」
「だから金を貸したのか」
「だってあんた、いいじゃないか。おまえさんも規則書でひっかけたんだから。リターンマッチがどういうあんばいになるかと思うと、もう待ちきれなくてねえ」
そして例の高笑を響かせた。カーリーもつられるように含み笑いを浮かべ、ヘイズも穏やかに微笑って見せるとマクレディも吹き出した。
「ははは、気に入ったぞ、若いの」
ヘイズに向かって笑いながらマクレディが言った。
「たいした勝負根性だ。いやあ、見上げたもんだよ。はははは、持ってけ持ってけ、遠慮はいらん」
金をかき集め、ピーターソンに借りた分を返したヘイズは、
「さすが太っ腹ですねえ。ま、とにかくこっちはこれでやっともともとですから。2万ドルでね」
「いやいや。勝負は一勝一敗のタイだよ。まだまだ先がある、先が。逃げないでいてくれよ?来週は取り返すからな」
「ああ・・・そのことは相棒ともよく相談しまして、明日にでも返事しますから」
「そうか」
「それじゃ、ありがとうございました」
サルーンで飲めや歌えやの派手なドンチャン騒ぎをやらかしたヘイズとカーリー。夜も更け、酔っぱらい、ふらつく足取りで店を出る。鼻歌まじりにふらふらと通りを歩く二人。
そこへいきなり闇討ちをかけられる。必死に抵抗するが多勢に無勢、頭からすっぽり袋をかぶせられ、荷台にかつぎこまれる。連れて行かれた先はアルメンダリスの屋敷。
階段をゆっくりと降りてくるアルメンダリス。銀髪をきちんとなでつけ、細身だが貫禄のある男だ。
手下に取り囲まれ、もみくちゃになって椅子に縛られているヘイズとカーリー。その前に立ったアルメンダリスはしばらくじっと二人を見下ろしていたが開口一番、
「あなたに殴り倒された男は不幸にしてまだ意識不明でして。お二人を確認できるただ一人なんだが」
相手の丁寧な物腰に、ヘイズも慎重かつとぼけたようにこたえた。
「確認ていうと・・・どういうこと?」
「お二人がシーザーの彫刻を盗んだときに見張りをしていた男です。はっきり見たと言ってますがね」
「いやあ、覚えがないなあ」
「ほんと」
カーリーも同意する。アルメンダリスは目を見張って、
「そんなはずはない。二、三日前、アメリカ人がこっちへ来てるとうちの者から報告がありました。それが、あなたたちだと思いますね。ま、どっちにしても見張りが気がついてくれればはっきりすることですが・・・今言ってもいいんですよ?彫刻をどこに隠したか」
「なんとでも言ってもらうさ」
ぶっきらぼうにカーリーが言った。
「盗んじゃいないんだから」
と、そこへいきなり平手打ちが飛んだ。
「盗んじゃいねえって──」
言いかけたヘイズの頬にも一発飛んだ。
「さあさ。素直に吐くことですな」
アルメンダリスの言葉にはこたえず、無言で見返していたヘイズにさらに手下が手を上げようとした。ヘイズは慌てて、
「ああ!彫刻のことなら聞いてるよ!あんたのもんじゃないってねえ」
「ほお、そういう話を吹き込まれていたんですか。あれは私のものなんですよ」
ヘイズと顔を見合わせたカーリーが言った。
「詳しく話してくれませんかねえ。なんか・・・おかしいんだなあ」
「いや、これは本当ですよ」
部屋を歩き、アルメンダリスは話し出した。
「七年前でしたかな、よくあることですが、河の流れが変わりましてね。うちの牧場、七万エーカーばかりアメリカ側へ行ってしまったんですよ。すかさず、マクレディさんは自分の土地にしました。これは予期していたことです。また流れが変わればこっちへ戻るんですから。ところが」
アルメンダリスは二人の前へ戻った。
「セニョール・マクレディは変わったことをやったんですな。その土地を売ったんです。こちらの国の者に売っていたんです。去年、流れが変わったときに初めて知りましたが。したがって私は、自分の土地を取り返すのに5万ドル払わされました。そこで私は、マクレディさんの胸像をいただいたわけです。貸し借り勘定の調整にね。以後あの彫刻はうちの大事な財産なんです。それをどうなさったかを知りたいんですがね」
アルメンダリスをじっと見上げていたヘイズが言った。
「・・・友達と話したいが・・・いい?」
「どうぞどうぞ。おい、遠慮しろ」
手下は二人のそばを離れ、アルメンダリスも下がってワインのデカンターを取り上げた。
辺りに気を配りながら、低い声でヘイズがささやいた。
「おれたちがやったってことは先刻承知だぞ」
「じゃあ言っちまえよ、マクレディに借りはない。どうせぶったくりじじいじゃないか、あいつは!」
「こっちだってカモッた」
「・・・そらあ・・・」
「とにかくアルメンダリスは胸像をどうしたかは知ってんだ」
「じゃあなんで訊く?」
「わかんねえよ!でも、吐いちゃお」
「いいだろ。そのかわり釈放だ」
「すぐ返してもらおうや」
カーリーがうなずき、ヘイズはアルメンダリスを呼んだ。
「セニョール!」
アルメンダリスが二人の前に立った。
「協力してもいいと思うんだ」
軽く咳払いしてヘイズは言った。
「その代わり、馬を貸してもらいたい」
「図に乗るのもいい加減にしたまえ。うちの金庫を破って大事なものを持ち出したやつと、なんで私が取り引きしなきゃあならんのだ」
「取り引きに応じないんじゃ協力できないな」
カーリーの言葉にアルメンダリスは目をむくと、
「そっちがそうならやり方があるぞ!」
手下に合図しようとしたのをヘイズが慌てて、
「いえいえ!それはもうたくさん、こたえてます」
そのとき、部屋の奥から一人の男がつかつかと歩み寄ってきた。ヘイズとカーリーを見るなり、アルメンダリスに向かってスペイン語で話しかけた。アルメンダリスは取り澄ました声で、
「スペイン語はおわかりですかな、きみたち」
ヘイズは微笑んで、
「わかんない。でも、今のはわかった」
アルメンダリスは黙って二人を見た。ヘイズは観念したようにため息をついて、
「盗(と)ったのはおれたちだ。マクレディに雇われて、盗みに来た」
「あいつはそれをどうしました」
「知らね。この前行ったとき、飾ってなかった」
ヘイズの言葉にアルメンダリスは満足そうにうなずいた。
「よく言ってくれました。解いてさしあげろ。いいから解いて」
不満そうな手下に指図し、二人を自由にしたアルメンダリスは、
「馬を二頭、お貸ししよう。出て行ってよろしい。意外ですか?」
「しゃべったから?」
カーリーが言うと、アルメンダリスは首を振って、
「いやあ、そんなことで助けはしない。金庫を荒らしてなかったからですよ。マクレディに依頼されたものしか盗(と)っていかなかった」
ヘイズとカーリーは複雑な表情でアルメンダリスを見上げた。
「そうでなければ二人ともメキシコの刑務所で一生を・・・送ることになったでしょうな」
晴れ晴れとした表情になってカーリーのほうを見るヘイズ。カーリーもほっとしたような顔でヘイズを見返した。
あいも変わらず手配書を順番にめくっていく保安官。
荷物を手に馬車へ向かうヘイズとカーリー。
「お二人さん、おはよう」
馬車を前にして声に振り返る二人。
「ああ、マクレディさん」
「まあ、ちょっと待って」
ステッキを突いて二人に歩み寄ったマクレディが言った。
「まさか、立つんじゃないだろうな」
「それが立つことになりまして」
カーリーがこたえた。
「いろいろどうも」
「考えたんですよ」
ヘイズが言った。
「ポーカーは好きだし、腕にも自信はあるんだが・・・でもね、おたくさんらとつきあってると結局バクチになるからなあ」
カーリーもうなずいて、
「おれたちなるべくまともにいきたいんですよ。1万ずつ握って堅実に」
「しかし、もうひと勝負してもらわんと」
「どうして?」
ヘイズが言った。
「貸し借りなしって言ったじゃないの」
「そりゃあそうだがどこの世界に引き分けのままで終わるポーカーがあるかってんだい」
「あって悪いことはない」
カーリーがそう言って、二人は馬車に乗り込もうとした。
「待て」
鋭い声でマクレディが引き留めた。
「とにかく今日立つのはやめとけ」
じっと二人を見つめるマクレディ。ヘイズとカーリーも見つめ返す。三人のあいだに何となく不穏な空気が漂った。
「まあちょっとこっちへ。話がある」
ヘイズとカーリーは黙ってマクレディの後へついて行った。
馬車から離れた所へ連れだした二人を交互に見てマクレディは言った。
「きみが何者かは知らんが銃の腕前で見当はつく。おまえさんのほうは金庫破りの専門家とにらんでおる。アルメンダリスのとこの金庫だって、花火なんぞは使わなかったんだろ?だから今度の土曜日のポーカーにつきあわんと言うなら駅馬車に待ったをかけといて、保安官にご注進といくが、どうだ」
黙ったまま、渋面でマクレディを見つめ返すヘイズとカーリー。ヘイズが口を開きかけたのを押しとどめるようにマクレディは続けた。
「わしのカンではあすこの手配書の山をかき回せばきみらの人相書きも必ず出てくるとにらんでおるがね」
なんともまずい展開だった。
しばしの沈黙を挟んだあと、ヘイズがにこやかに言った。
「そんなことしちゃいけねえよ、おじさん」
「いかん?馬車に乗ったとたんにやるぞ」
「・・・弱いなあ」
「よお」
馭者が声を掛けた。
「乗るのか乗らんのか?」
カーリーがこたえかけたものの、返事はできなかった。ヘイズも馬車のほうを見て心を決めかねている。そんな二人をマクレディはおもしろそうに見つめていた。
「予定変更だ」
マクレディを見つめたまま、やっとカーリーが口を開いた。
「いいから出してくれ」
馭者のかけ声とともに馬車は走り去った。
マクレディのカード部屋。カードの箱を三つ、テーブルに置いたマクレディは、
「諸君、勝負の前にびっくりさせるものがある。まあ見てくれ」
そう言ってキャビネットの扉を開いて見せた。中からからシーザーの胸像が現れた。
「おお!やったね、ついに!」
「これはこれは。どうやって取り返したの、え?買い戻したの?」
「アルメンダリスがやったと同じ手で取り返したんだよ」
胸像を抱きかかえたマクレディが台座の上に置こうとしたとき、部屋のドアが開いてヘイズとカーリーが入ってきた。
「おお、来てくれたか」
胸像を飾ったマクレディが二人を振り返って言った。
「どうしても出したくて」
複雑な表情で胸像を見つめるヘイズとカーリー。マクレディは笑って、
「いいだろう。明日は立つんだから」
「明日は駅馬車がないんで動けません」
カーリーがこたえた。
「じゃああさってだ。それより、勝負、勝負」
テーブルに着いたマクレディが言った。
「ご開帳だ。けどまずいなこれは。九人になっちゃうな。誰か一人抜けてもらわなくちゃ。たいてい一人や二人は現れないもんだが、弱ったな、こりゃあ」
「おれたちのことならお構いなく」
ヘイズが言った。
「勝負はどっちでもいいんだから」
「いやあ、そうはいかん、そうはいかんよ」
すると男の一人が腰を浮かせて、
「じゃあ私が抜けるよ」
「そうか?ああ、いや待て待て。それよりいい手がある」
そう言ってマクレディは立ち上がった。ヘイズとカーリーに向かって言った。
「大きな賭けが好きだろ。早い勝負だよ。あるんだなこれが。まず、カードをシャッフルする。よく混ぜてテーブルに置く。いいな。そこで、わしが一発でスペードのエースをカットして、つまり切って出すが、これができるかどうか、2万でどうだ」
ヘイズとカーリーは顔を見合わせた。
「こりゃあ受けなきゃ損だな」
後ろ手をしてヘイズが言った。ベルトに両手を掛けていたカーリーも、
「まともなカードならいこう」
「好きなカードでいいぞ。自分のを出しても構わん」
「いやいや、そこまでやることはない。ここのカードは信用してますよ」
ヘイズが言った。
「あんたがまともなカードだと言やあまともなんだ。それに張らしてもらいますよ」
ピーターソンがすかさず立ち上がった。ヘイズに椅子をすすめる。
「さあさあ、ここへ掛けて」
「どうも」
マクレディの隣にヘイズは腰を下ろした。
「では」
三つの箱のうちから一つを取り、カードを取り出したヘイズは慣れた手さばきでシャッフルを始めた。
「念入りに」
ヘイズの言葉にうなずいて見せるマクレディ。
シャッフルし終えたカードを、ヘイズはマクレディの前に置いた。葉巻をくわえたまま、マクレディが言った。
「一回でスペードのエースをカットする。ようござんすね」
「どうぞ」
ヘイズがこたえた。
するといきなりテーブルの下からナイフを取り出したマクレディは勢いよくカードの上に音を立てて突き立てた。
カードを刺し貫いてテーブルに突っ立ったナイフ。その柄を握り、揺さぶってナイフを引き抜いたマクレディ。カードの束は刃に突き刺さったままだった。
ピーターソンが顔を上向けて高らかに笑い出した。
「あっはっはっはっ!確かにカットだな、これは!」
室内に高笑がわき起こった。テーブルの上に両手を合わせたまま、ヘイズは黙っている。
マクレディが言った。
「さあどうだ。カットしたぞ。一回でスペードのエースを切った」
部屋が静まりかえったとき、ヘイズは両手を開いた。
その指に挟まれている一枚のカードは、スペードのエース。
「切れてねえんだな、これが」
ヘイズはそう言ってカードをテーブルに投げた。瞬間、葉巻をくわえたマクレディの表情が完全に凍りついた。
「うわぁっはっはっはっはっ!!」
ピーターソンがのけぞって笑い出した。
「上には上が!!」
ヘイズが微笑み、カーリーが帽子のひさしに指をやったときである。
突然部屋のドアが勢いよく開いて複数の男たちがなだれ込んできた。手に手にライフルを持っている。
「じっとしてろ!座れ!縛り上げろ!」
その場にいた全員が座ったまま両手を後ろにまわされ、あっという間に縛り上げられた。
「セニョール、どうぞ」
ゆったりとした足取りで現れたのは黒い帽子を粋にかぶったアルメンダリス。
胸像を見つめ、ついでヘイズを見た。会釈するようにして微笑み返すヘイズ。ついでマクレディに目をやったアルメンダリスはテーブルの上から札束を取り上げた。
「こんなことだろうと思って来てみたんです」
全員が注視する中、札を丁寧に数え上げたアルメンダリスが言った。
「4万ドルきっかりありますな。あとの1万は胸像で。頼むぞ」
アルメンダリスの言葉に部下が胸像を抱え上げた。
「これで五分と五分に、やっとなれました。グラシアス。では失礼」
立ち去りかけたアルメンダリスはふと足を止めて振り向くと、
「ああ、それから。もううちの屋敷に人を寄越さないように。こう申せばわかっていると思いますが、よろしいですね?」
アルメンダリスはそう言って軽く会釈して見せた。
「アディオス」
アルメンダリス一味が立ち去ったあと、ヘイズはそっとマクレディのほうを見た。葉巻をくわえたまま、マクレディは憮然とした顔つきで座っていた。
屋根に荷物がくくりつけられた駅馬車。中にはカーリーがすでに乗り込んでいる。
「よーし、わかった、3万出そう、3万だ、おまけに条件はなしだ。どうだ、え?」
自分の荷物を屋根に放り上げ、辟易した顔で馬車に乗り込んだヘイズ。
「まだだめか。じゃあ3万5千!3万5千、どうだ!」
窓枠にしがみつき、わめき立てるマクレディ。
「じゃあ4万!」
渋い顔で首を振ったカーリーが前方を見据える。
「金に困ってんだろ?」
力ない笑みを浮かべて黙っているヘイズ。
「アルメンダリスのやつ向こうで鼻高々なんだよ、あの胸像を見せびらかして!ああ、ちきしょう!」
「あれはまっとうなお方とお見受けしましたがねえ」
カーリーが言った。
「それに今度捕まったらなあ。生きては帰れないよ。そうだろ、スミス」
「そうだよ、ジョーンズ。くわばらくわばら。命は惜しいものでござんす」
手配書を調べ続けている保安官。ため息をついて次の書類に手をやる。
「ん?」
保安官の手が止まった。とうとうお目当てのものにぶつかった。
「・・・これか」
手にした紙には【賞金$10,000、キッド・カーリー】。
「ハンニバル・ヘイズとキッド・カーリー。賞金1万ドル。あの二人だ」
次に現れたのは同じく【賞金$10,000、ハンニバル・ヘイズ】。
「よし、引き受けんと言うならしょうがない。保安官に知らせるからな」
「はいはい、どうぞ」
投げやるようにヘイズが言った。
「どうせこれから国境越えてどっか消えるんだ、無駄だと思うよ、おじさん。行けえ!」
ヘイズのかけ声に合わせるように、馬車は土煙を巻き起こして走り出した。勢いにあおり飛ばされるようにして後ずさったマクレディは走り去る馬車に向かって声を張り上げた。
「5万ドルだ!」
馬車に揺られながらヘイズが言った。
「5万ドルだって。聞こえた?」
「聞こえましたよ。きばったもんだ」
しばらく無言で考え込んでいた二人だったが、
「欲しいけど、しゃあねえや」
ヘイズが言った。二人は無念そうに足を組み、腕を組んで揺られ続けた。
「このばか聞こえんのかい!5万だぞ、5万!」
消え去る馬車に向かって悪態をつくマクレディ。そこへ、
「マクレディさん!」
手配書を手にした保安官が駆けてきた。
「マクレディさん。今話してた二人は馬車ですか?」
「そうだ」
「じゃ止めなきゃ。正体がわかったんです。キッド・カーリーとハンニバル・ヘイズですよ」
保安官の言葉にしばし考え込んだマクレディ。
「・・・そりゃあなにか、写真ででも確かめたのか」
「いや、写真なんかないですよ。でも人相書きを読むとやつらにぴったりなもんで」
ちらっと手配書に目をやってからマクレディが言った。
「いやあ、そいつは人違いだよ」
「そうじゃないです」
「いやあ、人違いだって」
「・・・どうしてです」
「実はな、保安官。黙っていようと思ったんだが、ウェーブのかかった金髪のジョーンズのほうはな・・・ははは、わしの甥なんだよ」
あっけにとられたような顔でマクレディを見つめる保安官。
「・・・・・・甥御さん」
「ああ、いい若者(もん)だ。スミスのほうもな。いい男よ」
「はあ」
どこか腑に落ちない様子で馬車の消え去った方角を見つめる保安官。そんな相手に、マクレディが大きな声で言った。
「保安官!それよりどうだ、ひとつ賭けてみんか。二十五枚配りきりのカードでわしが五つの手を作れるかどうかで、ひと勝負いこうじゃないか、うん?」
「二十五枚でですか」
「ああ、二十五枚!カード交換なしで」
賭けの話に熱中しながら肩を並べ、町を歩いて行くマクレディと保安官。
ヘイズとカーリーを乗せた駅馬車は草地の中を軽快に走り続けていた。
Review Compiled by Aya
|