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| 放送日 | 1972/5/6 |
| 監督 | Jeffrey Hayden |
| 原案 | Stephen Kandel & John Thomas James |
| 脚色 | Sy Salkowitz |
| ゲスト | William Windom:ジェレマイヤ・デイリー[ Jeremiah Daley ], |
| | J.D. Cannon:ハリー・ブリスコー[ Harry Briscoe ], |
| | Beth Brickell:セーラ・ブレイン[ Sara Blaine ], |
| | James Patrick O'Malley:マックダフ[ H.T. McDuff ] |
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昼間。町の厩舎。馬から鞍を降ろしていた老人がヘイズとカーリーに気づく。
「おや、もうお帰りで」
「そう」
ヘイズが言った。
「考えてみりゃ馬を売ってポーカーの元手を作るなんてのは利口じゃねえって気になってねえ」
「じゃあ馬と馬具を買いたいってんだな?まあ、100ドルきっかりってとこかなあ」
紙幣を手に驚いた表情のヘイズ。カーリーがすかさず言った。
「そんなに持ってないよ」
「そーかい。持ち金いくら?」
「86ドル」
ヘイズがこたえると老人はあきれたといった顔で、
「86ドルで馬具つきの馬を二頭か。そら虫が良すぎるってもんだよ、兄さん。悪いけど話はこれまで」
ため息をつき、カーリーと顔を見合わせるヘイズ。
次に、ヘイズは荷車上で荷物の積み上げをやっている老人に声を掛けた。
「ああ・・・ちょっとうかがいますけど、駅馬車の駅は」
「ホテルの隣だよ」
方角を指し示してやったあともせっせと麻袋を積み重ねながら老人は言った。
「だけど馬車は一時間前に出たぞぃ。まあ急いどるんだったら、今夜八時の汽車があるけどな。そら東行きだぞぃ」
「いやその東へ行くとこなんですよ」とカーリー。
「ありがとさん」とヘイズ。
「なんのなんの」と麻袋を積み重ねながら老人。
夜。ブランバーグ駅の切符売り場のカウンター。駅帽をかぶった年輩の男に向かって訊ねるヘイズ。
「次の駅は、東行きの」
「ブリムストンです。ここから百キロ」
「じゃあ、ブリムストンまで二枚」
男はちらっと二人を見上げて、
「今夜は売れませんな」
「どうして?」
「全部売り切れになってんです。座席がありません」
「・・・じゃあ、次の汽車は?」
「ああ、火曜日の四時です」
こたえて仕事を続けていた男はカサッという音にそっと目を上げた。紙幣を差し出していたヘイズがにこやかに言った。
「どうだね。10ドル余分に出せば、席は見つかると思うんだけどなあ」
ゆっくりと顔を上げ、厳しい表情で男は言った。
「おあいにくでしたな。ないと言ったらないんです。出直してもらいましょ」
がっかりした顔で手にしていた10ドル紙幣をポケットにしまうヘイズ。
重い足取りで裏口から切符売り場を出る二人。出てすぐの戸口の陰でカーリーが言った。
「オタオタできないよ。さっきちらっと見たろ、キングズバーグの保安官」
「じゃあ百キロテクるかよ」
「ほかに手があります?」
そこへ新たな二人組がカウンターに現れた。暗がりでそれとなく会話に聞き耳を立てるヘイズとカーリー。
「八時の列車を二枚」
「それが、全部売り切れでして」
「そんなことはない。私はグラント、こちらはゲインズという」
駅帽の男はやおらクリップボードを取り出した。
「ああ、これですね。ああああ、グラントさんにゲインズさん。そうしますと、お一人9ドルです・・・どうも、お気をつけてどうぞ」
ヘイズとカーリーの横を通って売り場から出てきた二人組。そのままトイレへ入って行った。その二人を見送ったヘイズとカーリーはあらためてカウンターへ向かった。
迷惑そうな顔で二人を見た駅帽。
「切符ならありませんよ」
「今のは買ったじゃないの」
ヘイズが言うと、
「予約なさってたからです」
「じゃあ、おれたちも予約してくれよ」
「なに言ってんの。今度の列車は売り切れ、おしまい!」
にべもなく断られ、カウンターに背を向けた二人。カウンターにもたれたまま、じっとトイレのドアを見つめた。
汽笛を鳴らし、夜の闇を突いて駅に入ってきた列車。ヘッドライトの丸く黄色い明かりが暗闇にくっきり浮かび、青白い煙が夜空を満たす。
その頃、トイレの個室では二人の男が猿ぐつわを噛まされ、両手両足をばっちり縛られていた。最後の仕上げにと男の頭に帽子を乗せてやり、涼しい顔で個室のスィングドアを押し開いて出てきたのはヘイズとカーリー。カーリーが切符の一枚をヘイズに渡す。二人はそのままトイレをあとにした。
スィングドアの下から縛られた二組の足がじたばたしているのが見えていた。
停車した列車に乗り込もうとしたヘイズとカーリーを車掌が呼び止めた。
「ああ、ちょっと待った。名前は?」
「グラント」
「グラントね。そっちは?」
「ゲインズ」
そしらぬ顔で堂々とこたえるヘイズ。
「ゲインズ。よし、乗って」
ヘイズが渡した切符を受け取った車掌はにやっと笑って、
「もういらねえんだよ」
くしゃっと丸めるやその場へ放り捨てた。奪い取ったばかりの切符をあっけなく捨て去られ、複雑な表情で乗り込むヘイズとカーリー。
二人が乗り込むと車掌はランプをかざして出発の合図を送った。
鐘が鳴り、スチームが上がった。汽笛を鳴らして列車は動き出した。
客車のドアを開け、中へ入ったヘイズとカーリー。席はほぼ満席、話し声でざわつく車内。
そんな中、明るいクリーム色の帽子をかぶり、口ひげを生やした中年の男がじっと二人に見入っていた。
車掌が黒い帽子をかぶった男に言った。
「乗せましたよ、ブリスコーさん」
自分たちの座席を見つけ、やれやれといった顔で腰を下ろしたヘイズとカーリー。それとなく辺りを見回す。通路を挟んだ隣の席ではボンネットをかぶり、毛糸のショールを肩にはおった老婆がせっせと編み物をしている。その隣にも老婦人が座っていた。
先のクリーム色の帽子の男が葉巻を吹かしながら相変わらずヘイズとカーリーのほうを見ていた。視線に気づいた二人は何となく落ち着かない。相手の男の向かいにはオレンジ色の帽子とケープをはおり、豊かなブロンドを肩に垂らした一人の女が座っていた。
汽笛を鳴らし、小気味よい音を響かせ、列車は闇夜の中を疾走していた。
クリーム色の帽子の男は葉巻をくわえたまま、なおもじっと、まるで監視でもしているかのようにヘイズとカーリーのほうを見ている。
腕組みをし、堂々その視線にこたえていたヘイズがふと目線を隣の席に移したときである。
編み物をしていた老婆が無造作にボンネットを脱いだ。その下に現れたのはなんと男の禿頭。驚いてカーリーの腕を突き、目で指し示すヘイズ。禿頭の男は無造作に葉巻を口にくわえた。それを見て隣に座っていた老婦人もかぶっていた帽子を取った。これまた男だった。
あっけにとられた顔で二人の女装した男を眺めるヘイズとカーリー。女装していたのはほかにもいた。狐につままれたような顔で周囲を眺めやる二人。
クリーム色の帽子の男の向かいに座っていた女が手袋を脱ぎながらそっとヘイズとカーリーのほうを振り向いた。優しく微笑んで二人を見ている。なかなかの美人だ。目が合って、とっさに帽子に手をやって挨拶を返すヘイズ。無理やり微笑って見せるカーリー。二人とも心中穏やかではなかった。なんとなくイヤな予感がして、どちらからともなく顔を見合わせた。
「みんなちょっと聞いてもらいたい。話をやめてくれ!」
突然車掌が声を張り上げた。その頃には女装していた男たちはみないつの間にか男の服装に戻って中折れ帽を頭に乗せ、葉巻をくわえて前方を見つめていた。
「ブリスコーさん、お願いします」
「それでは諸君」
席の最前列に立ち、座席を見回しながら、ブリスコーという男が重々しく口を開いた。
「さて人員もそろったところで今度の詳しい作戦を述べておく」
真っ黒の帽子に薄青色の三つ揃スーツをピシッと着込み、これまた口ひげを生やした、蛇の目のように眼光鋭い男だ。
「この列車は臨時列車ではなく普通の定期便であり、本日午後、予定通りの荷物を積み込んだ。言わずと知れたウォッシュバレー鉱山会社の積み荷である。だが一つだけいつもと違う。それは積み荷が通常の二倍ということである。わかったか?二倍だ。つまり、25万ドルを超える金(きん)だ」
どよめきが起こった。制するように口を挟んだのはクリーム色の帽子の男。
「それが今荷物車にあるんだ」
「そうだ。デンバーの造幣局まで送るのだ」
ブリスコーの話は続いた。
「しかし諸君も承知しておろうが、こういう情報はえてして法律を無視する輩(やから)の耳に入りやすいものである。で、それを逆手に取ることにした。こちらから情報を流したのである。なにゆえか。その理由はただ一つ。ヘイズとカーリー率いるところのギャングどもを一網打尽にせんがためである!」
ヘイズとカーリーは憮然とした顔を見合わせた。
「過去一年間にこの列車はやつら一味に二度襲撃されておる」
ブリスコーの堂々とした演説は続いた。
「したがって、今度も大量の黄金ありと知れば、これまでの成果に味をしめたやつらは、必ずや襲ってくるであろう」
「そこを待ち受けといて息の根を止めるとね」
口を出したのは編み物をしていた男だった。顔色を変えるヘイズとカーリー。
「そうだ。次の駅はブリムストンであるが、襲撃の予想される地点は、ブリムストンと山のあいだである」
そう言いながら、ブリスコーはゆっくりと座席のあいだの通路を歩き出した。
「ここに乗り込んだ諸君は、いずれも栄えあるバーナマン警備社が誇る敏腕ガードマンであり、精鋭である」
とんでもないことになったといった顔を見合わせるヘイズとカーリー。ブリスコーはふたたび最前列へと戻っていった。
「この際一同、心ゆくまで歓談してもらいたい。だが、いったん緩急あれば敏速なる行動で対処してもらいたい!よろしいな!」
賛意を示して声を上げ、手に手に拳銃を振りかざして意気盛んなところを見せるガードマンたち。満足そうに見回すブリスコー。その目がふと勢いのない二人組をとらえた。目つきが険しくなる。
その視線と表情に気づき、慌てて銃を抜くや笑顔で振って見せるヘイズとカーリー。よしよしとうなずくブリスコー。
「今度こそ一匹残らず退治するのだ。わけてもヘイズとカーリーは絶対に逃してはならん。そのあとはしかりだ。というのも、荷物車には金の延べ棒と一緒に上等のウィスキーが二ケースも積んであるからである!諸君、飲ませるぞ!」
歓声が上がった。周囲の調子に合わせ、銃を振って力なく笑って見せるヘイズとカーリー。
「しかしブリスコーさん」
車掌が訊ねた。
「どれがヘイズでどれがカーリーかってのはわかるんですか?やつらの写真か何かあるんですか」
「それはない。はなはだ残念ではあるが、それが我々の大きな弱みである。しかしながら、今回は期待できる」
ヘイズとカーリーの表情がこれまでにもましてこわばった。
「諸君はこの美しい女性が乗っておるのをさぞ不審に思っておろう」
その声に女がそっと後ろを振り向いた。ヘイズとカーリーのほうを見て美しく微笑んで見せる。
「我が警備社の一員ではない。外部からの協力者という形で参加してもらった。これにはカンザスシティ支社のデイリー君の力に預かるところ大である」
するとクリーム色の帽子の男がみんなに向かって帽子の縁に指を立てて見せた。
「今度のことも彼の発案だ。では参加理由をうかがおう。諸君!セーラ・ブレイン嬢だ!」
女が立ち上がった。いっせいに拍手がわき起こる。ヘイズとカーリーも仕方なく手をたたいて見せた。
「よろしくお願いします」
あでやかな笑みを浮かべ、一同に向かって優雅に会釈して見せたセーラは涼やかな声で言った。
「あたしが出しゃばって参りましたのはほかでもない、みなさまのお役に立つと信じたからです。実はあたし、ハンニバル・ヘイズとキッド・カーリーを知ってますの。二人の人相風体を詳しく存じていますのよ」
不安そうにそっと視線を合わせるヘイズとカーリー。互いに顔を見合わせた二人の表情は完全に凍りついていた。
女が腰を下ろし、ふたたびブリスコーが言った。
「これほど役に立つ人はいない。ギャングどもがこの列車に襲いかかるやいなや、このお嬢さんがヘイズとカーリーはあやつめなりと諸君に指摘してくれるんだ。バーナマン社長ご自身もこのたびの大作戦に賛同してくださる。ヘイズとカーリーを縛れるんだ。やつら二人の賞金だけでも、報酬としては引き合ってあまりあるんだ」
ふたたび歓声と拍手。クリーム色の帽子の男はいつまでもヘイズとカーリーのほうを見ている。セーラが肩にはおっていたケープをはずした。
「さあそれでは、すぐ金の警備についてもらおう」
名指しされた二人の男が荷物車へと消えていった。
「あとはくつろいでくれ。先は長い、焦らずに待つことだ」
ブリスコーがそう言ったあと、セーラが席を立った。通路を歩いてヘイズとカーリーの前にやってくる。人相風体を知っているわりにはいやに愛想がいい。
二人の前に立ったセーラがにこやかに言った。
「まだ紹介されてませんけど、失礼」
前の空いていた座席を向き合わせてヘイズがすすめた。
「どうぞ」
「あら、すみません」
二人の前に腰を下ろしたセーラに、ぎこちなくヘイズが言った。
「私、あのう、グラントです。それからこちらゲインズ」
「そう。よろしくね」
「よろしく」
セーラの視線に、言葉少なにこたえるカーリー。二人を交互に見つめ、笑顔を振りまいてセーラは言った。
「これでみなさんと知り合えたわけですわ。頼もしい方ばかり」
不安を押し隠し、硬い笑みを浮かべてセーラを見つめるヘイズ。
ヘイズに不安そうな視線を投げたカーリー。
そんな二人を見つめるセーラはあくまでにこやかに微笑み続けていた。
空がしだいに白んでくる中、列車は走り続けた。
「どうしてヘイズとカーリーをよく知っているのか興味がありますねえ」
カーリーが言った。セーラははにかむように微笑んで、
「あれはもう大変な経験でしたわ。おそらく一生忘れないでしょうねえ」
「強烈な印象で迫ってきたわけね?」
ヘイズも微笑んで言った。
「しかし美女と無法者、ちょっとした絵になるじゃないですか」
セーラはまんざらでもない様子で微笑むと、
「美女だなんて」
一方、座席前方ではブリスコーが地図を手にデイリーの隣に腰掛けて言った。
「一応は見当はつけたがやつらのことだ、どこで襲ってくるかはしかと定まらん。あらゆる地点を考えねばならん」
デイリーは葉巻を手にセーラたちのほうばかりを見ていて話を聞いてない様子。
「デイリー」
「は?」
「きみの意見は」
「ああ、そうですなあ。やはり、万全の備えをすべきでしょう。相手が相手だから」
「去年、シャイアンの西で列車強盗がありましたでしょ?」
こちらはセーラ。ヘイズが応じる。
「新聞で読みました」
「あたし、そのときの列車に乗り合わせてましたの。フリスコにいる母のところへ行く途中でしたけど、ダイナマイトが爆発しまして」
「ダイナマイトが?」
カーリーが言った。セーラは情感たっぷりに、
「金庫を吹っ飛ばしたんです。そりゃもう、ひどいもんで」
「それも、読みました」
冷静にヘイズが応じた。セーラは愛嬌を振りまいて、
「爆薬の量が多すぎたんじゃないかと思うんですけど。とにかくあたしは藪の中まで吹っ飛ばされましたの」
無言で顔を見合わせるヘイズとカーリー。
「そのとき石で頭を打って失神しているあいだに汽車が出ちゃったんです」
不思議そうにヘイズが言った。
「そらあ読んでなかったなあ」
「新聞には出てません。すると、キッド・カーリーが見つけてくれまして。ヘイズと一緒にキャンプへ連れてってくれましたの。そこで何日か休ませてくれた上に、シャイアンまで送ってくれましたわ。フリスコまで行く旅費までくれましたのよ。だからあたしも今まで、そのことは伏せてたんです。ほんとに紳士らしい態度で世話してくれたんですもの、二人に味方したくなるのが人情でしょ?」
「そうですねえ。人間としちゃあやはり恩に着ますからねえ」
投げやるような口調で相槌を打つカーリー。そのとき、葉巻をくわえたデイリーが通路を歩いてきた。最後部の仕切りカーテンに手を掛けてセーラを見つめる。セーラは話を続けた。
「でも、警備社のデイリーさんに世のため人のためって口説かれて、結局、証人として乗ったんです」
デイリーがカーテンを閉めながらセーラを見た。その視線にセーラは立ち上がった。
「ちょっと失礼しますわ」
カーテンの奥へ入り、デイリーに向き合ったセーラ。
「なあに?」
「何を話していたんだ、あの二人と」
「・・・どうして?」
「何を話してたんだ、言え」
「ああ、別にたいしたことじゃないわよ。ヘイズとカーリーをなんで知ってるかって訊くから話したのよ。例のデマカセを」
デイリーの表情は硬かった。
「どうしたっていうのよ」
「いや、おれは別にどうもしてない。しかしどっかで手違いがあったんだ。やつら、グラントとゲインズじゃないぞ」
驚きの目を見張ってしばしまじまじとデイリーを見つめていたセーラは、
「ほんと?」
困惑した様子で視線をさまよわせるセーラ。
「だって名乗ったわよ」
「それが嘘なんだ。これじゃ計画が狂っちまうじゃないか」
「あ、ちょっと待って」
しきりに頭を回転させている様子でセーラは言った。
「大丈夫よ。たいしたことじゃないわ」
こちらはヘイズとカーリー。カーリーがささやくように言った。
「あの女の狙いは何か見当つくかい?」
「つきませんねえ、グラント君。ぜんぜんわかんねえや」
「おれあゲインズだろ?グラントはおまえさんだ」
カーテンの奥。
「ブリスコーがあの二人にすげ替えたようにも見えないわよ」
そう言ったセーラはやおらデイリーに向き直った。
「あんた話してきて」
「何を?!」
「二人が何者か探るのよ!」
汽笛を鳴らし、列車は走り続ける。フル回転する車輪。
カーテンが開く音にそっと後ろをうかがったヘイズとカーリー。デイリーが二人の背後にそっと忍び寄った。
「私はデイリー。カンザスシティ支社のデイリー」
「やあ、これはどうも」
振り向き、にこやかにヘイズが言った。
「おれはグラント、こっちはゲインズです」
「違うね。そら違う」
怪しい雲行き。ヘイズは前に向き直り、今度はカーリーが首をねじ向け、二人は同時に言った。
「どういうこと?」
「だから言ったろ。きみはグラントじゃあないし、きみもゲインズじゃない」
堂々とヘイズが言った。
「そんなこと言い切っていいのかねえ」
「いいんだなこれが。私は以前フォートワース支社にいた。だからグラントとゲインズが転勤になる前に一緒に仕事をしてたってわけだ。支社長はブライト。偽者だよきみたちは」
「それじゃあ」
カーリーが言った。
「どうするつもりです?デイリーさん」
「そらきみたちしだいさ。つまり、なんだな・・・どうやって乗り込んだか、なんのために来たか」
カーテンの奥ではセーラがじっと聞き耳を立てていた。
「実は、この前の町を出たかったんだ」
慎重に言葉を選びながらヘイズが言った。
「それも早々に。ところが、切符が買えねえときた。で、いただいたわけ。グラントとゲインズのをね」
「はあん」
「ほんとは譲ってもらうつもりだった」
とってつけたようにカーリーが言った。
「ところがあのう・・・ゲインズだっけ?ガンを抜きやがって。あれこれ訊いてきたんだなあ。で、やむを得ず」
「ブッ倒して切符を取って乗ったと」
「・・・そういうこと」
ヘイズがこたえた。
「いいだろ。信用しとこう。その代わり、本名を名乗ってもらうよ」
「ハンニバル・ヘイズとキッド・カーリーだ」
ヘイズがこたえた。ヒヤッとするカーリー。とたんデイリーは低い忍び笑いをもらした。
「冗談はよしたまえ」
さもおかしいと言わんばかりに笑っている。おかげでヘイズもカーリーもやや緊張を解くことができた。内心どぎまぎしながら、二人はぎこちない笑みを浮かべて前方を見た。
おもむろにデイリーが言った。
「じゃあ訊くまい、わけがあるんだろう。私もこれでもののわかった男のつもりだ。ブリスコーにはきみたちのことは黙っておくからな」
首を向けてカーリーが言った。
「・・・どうして?」
「ま、私には私で、ちょっと、わけがあるのさ。きみたちが町を出たがるのと似たようなもんだ」
「似たようなもんて・・・どういうわけ?」
「調子に乗るんじゃないよ、おまえさん、え?ブリスコーにひとこと言やあ偽者だってんで大騒ぎになるんだ。そうなりゃ困るのはそっちだろう?ま、ここは素直にね、厚意を受けておくことだ。いいじゃないか。あとでお返しに何かやってもらうってこともあるんだからさ。じゃあま、よろしく頼むよお二人さん」
二人の肩をポンと叩き、デイリーはカーテンの奥へ戻っていった。カーテンの向こうで神経質そうな表情を見せているセーラ。
カーテンを素早く閉め、デイリーが言った。
「まず心配ない」
「どうして」
「野郎たち本名も言いたがらない。だがわけあって前の町を急いで出ることになったって言うんだ。それでグラントたちをぶん殴ってだな、切符をもぎ取って乗ってきたってわけ」
「グラントたちがいないと困るじゃないの」
「なあに、ガンを扱えるやつが二人いりゃいいんだよ。それならあいつらでも用は足りる。じわっと脅しをきかせておいたが、言う通りにするさ」
「でも今言っちゃだめよ。早まっちゃドジ踏むから」
列車は走り続けた。
車掌が通路を歩きながら言った。
「さあ、ブリムストンに着くぞ。みんな油断するなよ」
車掌を見送ってカーリーが言った。
「着いたらトンズラ決めようか」
「そんなことしてみろ。こいつらわあっと追ってくるぞ」
「じゃこのままケツ落ち着けていこうってのかい?」
「いや、降りて電報横取りするんだ」
「電報って」
「どうせグラントとゲインズがブリスコーに寄越してるだろ」
ブリムストンの駅。汽笛を鳴らし、闇を突いてホームにゆっくりと滑り込む列車。
鐘が打ち鳴らされる中、軋む音を立てて列車が止まり、中からブリスコー、カーリー、ヘイズが降り立った。
「すぐに発車だぞ、きみたち」
「わかってますよ」
カーリーがこたえた。
「ちょっとブラついてくるだけです」
「その辺だけだぞ。時刻表通りにいきたいからな」
了解の意味で帽子に指を当て、二人はゆったりとした足取りで駅の電信室へ入っていった。
「こんばんは」
カウンターに手を置き、にこやかにヘイズが言った。
「ブリスコーさんと一緒に乗ってる者だがねえ」
「ああ、黄金列車の」
グリーンのキャップをかぶった電信員の男は応じたあとでややためらいがちに、
「あ、いやあ、極秘はわかってますがね。なんとなく聞こえてきて」
「そんなもんだよ」
ヘイズも微笑って受け流した。
「ブリスコーさんが、電報がきてるかもしれんて言うんで、見にきたんだが」
「きてます。今車掌に渡そうと思ってたとこです」
電報用紙を手にキャップの男は言った。
「ブランバーグからなんですがね。発信人はグラントとゲインズって人で。なんでも、この二人の名前を騙って汽車に乗り込んだやつがいるってんです」
硬い表情になったヘイズとカーリー。
「ふうん」
電報を受け取り、カーリーに目をやってヘイズが言った。
「どーもクサいと思ったんだ。さっそくブリスコーさんにご注進だ」
もっともらしく電報に目を通したヘイズはきびきびと、
「じゃあ折り返し、ブランバーグのソーヤー保安官助手に一報してくれ」
キャップをかぶった電信係員は鉛筆の先をなめて身構えた。
「んー・・・グラントおよびゲインズと名乗る者は逃亡犯人、私が帰るまで留置せよ、ブリスコー」
「承知しました」
そこへドアを開けて入ってきたのはブリスコー。緊張しつつも笑顔で向き合うヘイズとカーリー。ブリスコーが言った。
「ああここか。急いでくれ、出発だ・・・何してる」
「ええ、ちょっと急ぎの連絡で」
カウンターに両手を突き、取り繕うようにカーリーが言った。
「ブランバーグの、ソーヤー保安官助手にね」
「ソーヤー?ウィル・ソーヤーか」
葉巻を手に、ブリスコーは鷹揚に言った。
「いいやつだ。よろしく言ってくれ」
ブリスコーは出ていった。カウンターに向き直ったヘイズが言った。
「じゃあ・・・頼むよ、きみ。ブリスコーさんからよろしくってな」
「はい」
ほっとしたように部屋を出たヘイズとカーリー。列車に乗り込もうとしたとき、待ち構えていたブリスコーが言った。
「ちょうどいい。きみたちに今度の見張りをやってもらおう」
「はい。やらしてもらいます」
快活にヘイズがこたえた。
「いいな。何が起こっても積み荷を守るんだぞ。守り抜くんだ」
「自分のもんだと思ってやりますよ」
カーリーが気合いを入れてこたえ、二人は車内に入った。
車掌がランプをかざして出発の合図を送る。
列車は汽笛とともに、闇夜に白い煙を勢いよく噴き上げた。車輪がゆっくりと動き出した。
荷物室。
「別れた仲間がこのことを知ってみろ」
トランクの鍵穴にヤスリの切っ先を差し込み、ねじりながらヘイズが言った。
「地獄の穴から目玉ギンギラギンで飛び出してくる」
「そっ」
応じたカーリーはトランクのフタが開くやヘイズのそばにかがみ込み、思わず声を上げた。
「ひゃあー」
ヘイズの手には鈍く光る黄金の延べ棒。うっとりするようにヘイズが言った。
「いやあ・・・金ですよ」
「そーです!」
嬉しそうに顔をそむけてカーリーが言った。
「見せてくれるぜおい、よだれが出る!」
ひとしきりお宝を鑑賞したあと、二人はふと真顔になった。
椅子に座り、ヤスリを研ぎながらカーリーが言った。
「だけど知らしてやんなきゃなるまいよ」
「どうしてよ。そんなことしたら大事な恩赦がパアだぜ?」
ヘイズの言葉にカーリーはヤスリ研ぎをやめた。素早くヘイズに向き直った。
「しかしあいつら人を殺したこともない、いいやつばかりだぜ?それがバタバタ撃ち殺されるのを見てようってのか。そらあんまりだ」
「わかってるよ。だけどどうやって止める?」
「こういこう」
立ち上がり、部屋の中を歩き回りながらカーリーが言った。
「あいつらがこの列車にストップをかけるとしたらおそらく、サミットかハリスコーシングだ。だからインディアンロックで給水に停車したとき降りるんだ。で、そこの馬を拝借つかまつって、ブンブン飛ばすと。そうすりゃ手遅れにならないうちに罠ってことを知らせられる」
座ったまま、黙って聞いていたヘイズがぽつりと言った。
「・・・それで恩赦よさようならか」
腰を下ろしたカーリーも神妙に、
「・・・だろうな」
「まあ大事なとこだ。もう一押し考えてみよう」
そのとき、ドアの外でかすかな物音がした。すわと立ち上がる二人。カーリーは素早く銃を抜き、ヘイズと並んで壁際に身を寄せた。
ドアが開く。にょっきりと、ライフルの銃身が二本のぞいた。すかさずヘイズが銃身につかみかかった。
ライフルを持った相手ともみ合いになる。
「あ」
両手で二丁のライフルを鷲掴みにしたヘイズは相手に気づくや意外そうな声を上げた。ライフルを手に入ってきたのはブリスコーだった。
「・・・すみません。申し訳ない」
いきなりつかみかかられ、驚いたのはブリスコーもだった。が、素早く威厳を取り戻す。
「ああ、いや、よろしいぞ。いいんだ。あれでいいんだ。きみたちにライフルを持ってきたんだ」
「ああ、こらどうも」
ヘイズがこたえ、カーリーもライフルを手に取った。
「しかし、やるな」
上着の裾を引っ張ってブリスコーが言った。
「ぬかりのないところが偉い」
「ピシッとしてますよ」
「よろしい!非常によろしい。誰の分隊だ」
「あー・・・」
ブリスコーの顔を見つめたままヘイズは一瞬返答に詰まったものの、
「ブライト支社長です」
「ブライトの親父どうしてる」
「・・・ええ」
不安そうにヘイズを見つめていたカーリーがさりげなくこたえた。
「そらもう元気なもんですよ。よろしく言ってましたよ」
カーリーを振り返ったブリスコーが怪訝そうに、
「・・・あいつが私に?」
「はあ」
素早くヘイズが応じて視線を引き戻す。ヘイズに向き直ったブリスコーは不思議そうに言った。
「おかしいな。二十年この方あのへそ曲がりのバッファロー親父め、私をこき下ろしてばかりだ」
「いや、ぶちまけた話をすればですな」
とっさに機転を効かせ、苦笑を浮かべてヘイズは言った。
「少々耳障りなことを言ってたんですが、それじゃあなんですから甘口に手直ししたんです」
しばし無言でヘイズを見つめていたブリスコーは、
「・・・で、どうかねあの親父。相変わらず、胃潰瘍で泣いとるかね」
「いやあ、ブリスコーさん」
会話を打ち切るべく、きっぱりとヘイズは言った。
「お二人のあいだに個人的な感情の軋轢があるのはわかりますがね。それには、立ち入りたくないんです。もう、遠慮しときます」
ヘイズをじっと見つめていたブリスコーは快活に言った。
「さわやかな態度!」
相手の出方をうかがっていたヘイズもじっとブリスコーの目を見つめ返す。
「気に入ったぞ」
ヘイズは真一文字に引き結んだ口で微笑んで見せた。きびきびとした口調でブリスコーが言った。
「では明朝の交替まで頼むぞ。この次はインディアンロックで停車して邀撃態勢を整える」
「というと?」
ヘイズの問いに、ブリスコーはドアを開けて合図した。現れたのは鈍い銀色の光を放つフルオートマチックマシンガン。そのどっしりと重量のある機関銃本体は二人がかりで抱えられ、三人目の車掌が三脚を手にしていた。
「これだけの備えがあれば万全だ」
運び込まれた武器が三脚の上に固定されるのを眺めながら、満足そうにブリスコーが言った。
「・・・まったくです」
あまりの大がかりな装備に色を失いながら、無理やり微笑んでヘイズはこたえた。
「列車強盗のほうがかわいそうなようなもんだ」
「地獄の穴一味め、見ておれというんだ」
ブリスコーの自信満々の言葉に、ヘイズとカーリーはそっと顔を見合わせた。
翌朝、黒い煙を猛然と噴き上げ、鐘を激しく打ち鳴らし、列車はインディアナロックに到着した。
「さあ、降りてもいいぞ。気を抜くな」
車掌が客車のドアを開けて呼び回った。警備員たちが次々と外の空気を吸いに降りていく。
「さあ出て」
積み荷室のドアが開けられ、外へ出たヘイズとカーリー。辺りの景色をそれとなく見回したあと、車外へは出ずにそのまま客車の最後尾へと向かった。
給水作業が始まったのを尻目に、最後尾のデッキへ辿り着くやヘイズがカーリーを振り返った。
「おれ、両方うまくやる手考えたぞ」
「両方って?」
「別れた仲間も助ける、恩赦ももらうっていう手だよ」
「どうですかね」
弱々しい笑みを浮かべてカーリーは言った。
「世の中そう甘かあないと思うがね」
「まあ見てろって」
汽笛が鳴り響いた。白い煙が勢いよく噴き上がる。
「発車だぞ!さあ、乗った乗った!」
車掌が声を張り上げ、男たちは次々とステップに足を掛けて乗り込んだ。
列車がゆっくりと動き出した。その列車を無言で見送っているものがいる。
馬である。
停車場のはずれにあった囲いの中から、鉄の塊が走り去っていくのを一頭の馬がのんびりとした顔で見送っていた。
車輪の軋む音を残して客車の箱が滑っていく。
馬がそのままぼんやりと最後の箱を見送ろうとしたときである。
ヘイズとカーリーがデッキから飛び降りた。
「そら、この馬で超特急だ!」
叫ぶなりヘイズは囲いの柵を開き、辺りに気を配っていたカーリーも素早く囲いの中へ走り込んだ。
山道を馬で飛ばしている複数の男たち。やがて線路の前までやって来ると、レールを取り囲むようにして馬を止めた。
「ここだ。やれ」
列車の来る方角を確かめたリーダー格の男が部下たちを振り返って言った。
「ガッポリはがせ」
シュッシュッと煙を吐き、平原を軽快に疾走する黄金列車。
パカッパカッと拝借つかまつった馬を必死に飛ばすヘイズとカーリー。
カンカンとレールにツルハシを打ち込み、添え木を当ててねじ曲げ、脱線を謀る強盗団。
車内ではセーラとデイリーが事の成り行きを案じていた。座席に戻ってきたブリスコーも何やら険しい表情である。
ブリスコーが座席に腰を下ろすと、待ち構えていたようにデイリーがその前に座った。先に口を開いたのはブリスコーだった。
「あの二人がおらん。乗っておらん」
「おかしいですなあ」
こちらも懸念に顔を曇らせ、デイリーがこたえた。
「支社長推薦のエリートなのに」
「ぼやぼやしていてさっきの駅で乗り遅れたのではないかな」
「それとも怖じ気づいたかな?」
ブリスコーはキッとデイリーを見つめた。
「なに?我が社の男が?」
デイリーは肩をすくめて葉巻をくわえた。ブリスコーは苛立ったように、
「ええい、もういい。とにかく、こっちの言う手は変えんから」
「当然」
デイリーにも異存はなかった。
煙を噴き上げ、猛然と突っ走る列車。
同じく休むことなく馬を急がせるヘイズとカーリー。
「よーし、もういい。上出来だ」
細工の頃合いを見計らったリーダー格の男が声をかけた。手に手にツルハシやシャベルを持った男たちが線路から引き上げ、馬にまたがるや一目散に山の中を目指した。
大車輪で走り続ける黒い鉄の塊。
その車内の窓から険しい顔つきで外の様子をうかがうブリスコー。
「列車接近」
小高い茂みの中で馬から降り、列車の姿を確認したリーダーの男が楽しそうに言った。
「まだまだ待機」
機関士は目ざとかった。前方に何かある。枕木から故意にはがされた二本のレールだ。通過を妨げるように線路中央に横たわっている。機関士は窓枠から顔を出して障害物をにらみ、タイミングを計りつつブレーキをかけ始めた。
それまで軽快に走り続けていた車輪に突如として圧力が加わった。車体から吐き出される白いスチームに包まれながら、列車は急激に減速を始めた。
車輪を思い切り軋ませ、列車は必死に止まろうとする。その勢いで車内は大揺れに揺れた。
バツ印に横たわったレールが目前に迫る。このまま勢い余って乗り越えれば転覆の可能性もあるだろう。
キキキーッ!と、列車は最終ブレーキの悲鳴を上げた。
ガキーンと車体前部がレールに接触した。あわやというところで渾身の力を振り絞り、列車は何とか踏みとどまった。
ブレーキの軋みとスチーム音の名残が今なおかすかにこだまする中、客車を歩き回りながらブリスコーが言った。
「来るぞ」
「さ、参りましょう」
停車した列車を満足げに見下ろしていたリーダーの男が嬉しそうに言った。
「金持ちになりましょう!」
強盗団は喜々として馬に飛び乗った。
「まだ撃つなよ」
厳しい表情のブリスコーは部下を見回して厳かに言った。
「姿勢を低く。引きつけるんだ」
「それ行け!」
拳銃を手に手綱を引いて列車に向かって突進する強盗団。
窓から拳銃を突き出して迎え撃つ警備団。
貨車のスライドドアが開いてマシンガンも狙いを定める。
一方、ようやく現場を見下ろす地点にやって来たヘイズとカーリー。馬を止め、彼方を見やると目標めがけて馬を飛ばす強盗団が目に入った。
「あすこまでは無理だ」
カーリーが言った。
「もう遅い」
列車に向かっていく強盗一味を苦い表情で見つめていたヘイズはやおら銃を抜いて宙にぶっ放した。カーリーも続けて空に向かって撃つ。
バン!ババーン!と突然響いた立て続けの銃声に強盗団ははっとなって手綱を引いた。
「罠だ!引け引けえ!」
「撃てえっ!」
すかさず怒鳴ったブリスコー。列車の横腹から一斉に拳銃が発射された。白煙に包まれる黄金列車。ダダダダダッ!とマシンガンもここぞとばかりに火を噴いた。
もと来た道を必死に引き返す強盗団。が、待ち伏せていた銃器の数は半端ではなく、おまけに機関銃まで加わっているとなればひとたまりもない。とりわけ息つくひまもなく連射を浴びせるマシンガンの威力はすさまじかった。逃げ遅れた二人が弾を食らい、もんどり打って落馬した。
バリバリパンパンと容赦なく続く銃撃。これでもかと言わんばかりの猛攻撃で、もうもうたる硝煙は煙幕よろしく、列車の窓が見えないほどである。強盗団はほうほうのていで射程外へ躍り出るや命からがら逃げ出した。
ひとしきり続いた銃声がやっとやんだ。強盗団が逃げていった方角を心配そうに眺めやるヘイズとカーリー。やがて二人は列車に向かって山道を下った。
拳銃を両手に握ったブリスコーを先頭に、武装した警備員たちが列車から飛び出した。馬に乗った二人組が駆け下りてくるのに気づき、険しい表情で待ち構える。
茂みのあいだから現れたヘイズとカーリーは慌てて両手を上げて見せた。
そんな二人に向かってブリスコーの隣に立っていた男がゆっくりと腕を伸ばし、狙いをつけた。
その腕をブリスコーが払いのけた。
まさに引き金を引こうとしていた男の腕がブリスコーの腕にさえぎられるようにして上を向いたとたん、弾が発射された。男に向かって形相もすさまじくブリスコーが言った。
「撃つな!言い訳を聞いてからでも遅くはない!」
一連の様子をデイリーとセーラが客車の窓からじっと眺めている。
「まず線路を直せ」
きびきびとした口調でブリスコーが命じた。
「射殺死体を運んでこい」
そしてブリスコーはヘイズとカーリーに向き直った。部下たちも銃を構えたまま、二人をぐるりと取り囲む。
「どうも、遅くなりまして」
馬をゆっくりと進め、にこやかにヘイズが言った。ブリスコーは二丁拳銃を構えたまま苦虫をかみ潰したような表情で、
「まず静かに話し合おう。その話によってはぶち殺す」
「あのまま逃げなかったのを買ってほしいですねえ」
「勝手なことを。今もそうやって口を利いていられるんだ。こいつら荷物車へ放り込め!」
線路の復旧作業が始まるかたわら、ヘイズとカーリーは扉の開かれた荷物車を背に複数の銃口を突きつけられて立っていた。ヘイズが説明しようと口を開く。
「ブリスコーさん──」
「いいから入れ!」
二人は仕方なく前を向いたまま、後ろ手でヒョイと飛び上がって貨車の床に腰掛けた。
「なんだか調子の狂うことしてくれたもんね」
それまで黙って様子を見ていたセーラが苦々しく言った。
「もうぐずぐずしてらんないわよ」
デイリーは言い聞かせるような口調で、
「しかし内部に仲間がいなきゃ」
「大丈夫よ!」
荷物車に腰を掛けていたヘイズとカーリーの表情がにわかにこわばった。そっと帽子を取って胸に当てる。銃撃の犠牲者が運ばれてきたのだ。毛布に包まれた遺体を、二人も手伝って荷物車内へ運び入れた。
その様子を見ながらも、セーラは頑として言い張った。
「あんたさえしっかりしてりゃ二人でやれるわよ。計画通りにやるのよ」
デイリーは投げやるように、
「でもこれじゃ祝い酒も出やしねえぜ」
遺体と二人組が収まった荷物車の扉をブリスコーがガシャンと閉めた。
線路が復旧し、ふたたび動き出した列車。
荷物車内では車掌がライフルを構えてにらみをきかせる中、ブリスコーがヘイズとカーリーに詰め寄っていた。
「さあて。おまえらの処置をどうするかだ」
両手をガンベルトにあてがい、仁王立ちしてにらみつけてくるブリスコーを見上げ、落ち着き払ってヘイズが言った。
「その前に、ちょいとおもしろい話があるんだがねえ」
「なんの話か知らんが」
怒り心頭に発したといった様子でブリスコーはまくし立てた。
「この作戦には私の信用がかかっていた!私のすべてが!それが潰れた今おもしろい話だと?笑わせるんじゃない!いや、今の私を笑わせたら今世紀の奇跡になるだろうよ!」
客車ではデイリーとセーラが周囲の様子をそれとなくうかがっていた。人の出入りが途絶えたとき、顔を隠すようにして新聞を広げていたデイリーがセーラに目配せした。意を決したように立ち上がったセーラ。セーラが客車を出ていったあと、デイリーは新聞をたたんで葉巻を取り出すべく上着の内ポケットを探った。
「言っとくが、おれたちはグラントとゲインズじゃない」
ヘイズは話し出した。
「フォートワース支社の者でもねえし、警備社の人間でもねえんだ」
「ふん!」
二人を代わる代わる見つめていたブリスコーはそっけない口調で言った。
「じゃあ本名を言っとけ。墓に名前ぐらいは書いてやるから」
ブリスコーを見上げたまま、ためらいがちにヘイズはこたえた。
「ああ・・・スミスだ」
カーリーもすかさずにこやかに、
「ジョーンズです」
そのとき、ドアを忙しくノックする音がした。ブリスコーの合図でライフルを構えていた車掌がドアを開ける。
現れたのはセーラだった。
室内の緊張した空気にも動じず、ブリスコーの顔だけを見てセーラは言った。
「失礼します」
無言でセーラを見つめるブリスコー。カーリーはそっとヘイズに視線を投げた。
「お邪魔だとは思ったんですけど。でも、いい知らせになるかもしれないと思ったもんですから」
「セーラさん」
疲れ果てたような声でブリスコーが言った。
「こういう状態で今さらいい知らせも何もないでしょう」
「ええ、まあ、そりゃあ、この死体をよく見てからでないと何とも言えませんけれども、ひょっとしたら」
ブリスコーを見つめたまま、おもねるようにセーラは言った。
「・・・見てよろしい?」
ブリスコーは泣き笑いのような複雑な表情になって、
「どうぞ」
毛布にくるまれた死体にそっと歩み寄るセーラ。そんなセーラを胡散臭そうな顔で見つめるヘイズとカーリー。
一人目の死体の顔を覆った毛布を静かに開いて見たセーラは、はっと息をのんで胸に手を当て、毛布を元に戻した。
その仕草に興味を見せたブリスコー。ぜんたい何を言い出す気だと冷めた顔で見守るヘイズ。そんなヘイズの横顔をもの問いたげに見つめるカーリー。
二人目の死体の顔を見たセーラが驚きの声を上げた。毛布を大きくめくってじっと死体の顔に見入る。深呼吸するようにふっと息を吐き出してセーラは言った。
「そうじゃないかと思っていたけど、やっぱり!これでもう間違いはなし!これはあなた、キッド・カーリーの死体ですわ!」
当の本人、カーリーがへーえといった顔でセーラを見つめた。ヘイズは相変わらず冷めた顔つきだ。
ブリスコーが色めき立った。じっとセーラの顔を見る。
「キッド・カーリー?確かですか?」
「えーえ、そりゃもう!この上なしの確かよ!」
ヘイズとカーリーはちらっと顔を見合わせた。
ブリスコーの顔がにわかに輝きだした。喜色満面といった表情だ。
「よくぞ言ってくれました!あなたは奇跡を起こしたんですぞ!」
セーラも嬉しそうにブリスコーを見る。ブリスコーは快哉を叫んだ。
「やった!ついにやったぞ!」
ブリスコーと目が合ったヘイズは調子を合わせるように拳を振り上げ、やった!とうなずいて見せた。カーリーも笑って見せたが、二人ともすぐ無表情に戻った。
「みなさんシュンとしてましたけど、これで景気づきますわね!パーッと明るくなりますわ!」
「それもあなたの証言のおかげです。さあ!みんなにも発表して喜ばせてやって下さいよ!祝い酒も出すってね!」
「えーえ!言ってきますわ!じゃ」
セーラはドアの前で今一度ブリスコーに微笑みかけ、ブリスコーも帽子に手をやって敬意を表した。
「フレディ!」
名を呼ばれた車掌もライフルを持ったまま嬉しそうにブリスコーを振り返った。
「みんなにウィスキーをふるまってやれ!早く出せ!」
「待ってました!」
「さーあ!飲んでくれ!」
ウィスキーの木箱が開けられ、客車は喜びにわきかえった。
「じゃんじゃんやってくれ!」
みんな歓声を上げながら手に手にボトルを持ち、そのまま口をつけて祝い気分に浸りだした。
同じくボトルをラッパ飲みして大きく息をついたブリスコー。ウィスキーをじっくり味わってから、片手に拳銃片手にボトルでじっとヘイズとカーリーを見つめた。
「運のいいやつだ。殺しのムードも消えてしまった。ま、足の一本も折っておしまいだな。さあ言え。話があるんだろ?」
「せっかくの祝い気分に水を差すけど」
堂々と相手の顔を見返し、サラリとヘイズは言ってのけた。
「それ、カーリーじゃねえよ」
「なに?」
「あの女を信用してたらとんでもない目にあうぜ」
ブリスコーの表情がみるみる険しくなっていった。カーリーもうなずいて、
「ほんと。キッド・カーリーなんて大嘘よ」
「それだけは本当だ」
「なんでわかるんだ?」
「そらあ・・・」
平然とした顔のまま頭の中で話を組み立てるヘイズ。カーリーはうまく切り抜けてくれといった顔でヘイズを見た。
やがてもったいぶった調子でヘイズはこたえた。
「おれたちしばらく地獄の穴一味と一緒にいたからさ。トラブルがあって二人ともケガしたけど、逃げたんだ。山に隠れてた。そこへ来たのが、ヘイズとカーリーなんだ」
無言で聞き入るブリスコー。セーラから聞いた話をヒントに、ヘイズは巧みに話を続けた。
「悪党の肩を持つようだが、あいつら優しい男だぜ」
セーラの話を思い出したカーリーもすぐさま調子を合わせ、
「親身に世話してくれた」
「町の医者を呼んできて手当してくれたもんなあ。それでケガが治ると金を貸してくれて逃がしてくれたよ」
しみじみとした口調で、もの静かにヘイズは言った。
「あんないい男はいねえや。だから、罠だって知らせたんだ。殺されるのを見ていられなくてなあ」
「そうなんだ」
カーリーもうなずきながら、
「黙ってるなんて人間じゃないもんなあ」
ところが、それまで半信半疑かつ神妙な顔つきで聞いていたブリスコーはやにわに声を荒らげた。
「何をぬかすか、デマカセをベラベラと!嘘だ!あれはキッド・カーリーの死体なんだ!違うなんぞという話は聞きたくない!素性も知れんフーテン野郎が信用できるかってんだ!」
「でも、事実だと証明したら?」
ここからが本番だった。落ち着き払ってこたえたヘイズにブリスコーはトーンダウンした。
「証明?」
「今も言ったように、おれたちあの一味としばらく一緒に暮らしたんだ。その死体のやつも知ってる。名前はヘンリー・マックスウェル・ジェンキンズだ」
「見りゃあわかるけど、左手に金の指輪をはめてる」
横からカーリーも自信ありげに口を開いた。
「メキシコ製で、ヘビの格好してる。その指輪の裏には、イニシャルが彫ってあるはずだ」
ブリスコーの表情がようやく真剣味を帯びてきた。
「・・・ヘンリー、マックスウェル、ジェンキンズ?カーリーではないって?」
首を振って見せるカーリー。
「取るに足らん、その他大勢の口だと言うのか!ジェンキンズとかいう三下野郎だと!?」
無言でうなずくヘイズとカーリー。
疑惑の念に駆られたブリスコーは死体の前まで歩み寄った。ボトルを置き、二人を注意深く見やってから銃をホルスターに収める。ついで死体の指から指輪を抜き取った。口をへの字にして厳しい顔つきのまま、両手で子細に内側をあらためる。
その表情が一変した。
うつろな目をしてゆっくりと顔を上げたブリスコーはしばし呆然と突っ立っていたが、指輪を手にしたままそっと二人の前に戻って来ると崩れるように腰を下ろした。
「・・・・・・こうなると信じないわけにはいくまい」
カーリーは晴れやかな顔でヘイズを見た。ヘイズはブリスコーを見たまま表情は変えなかったがそっとつばをのみ込んだ。
ばつの悪そうな顔で二人を見つめたブリスコーは、先程とは打って変わって力ない声で言った。
「しかしそれでも納得がいかん。きみたちはなんでまた帰ってきた」
「別におかしくないだろ?当然だ」
ここぞとばかりに勢いづいてヘイズは言った。
「おれたちあんたを敵にまわしたくないんだよ。あんたの味方をして、バッチリ手柄を立てさせてやりたいんだ。昇進もすれば勲章ももらう。国中の人に、よくぞやったと言われるようにしてあげたいんだ。まあ・・・それにはさ、少しは元手もいるけど」
考え込むようにして聞いていたブリスコーは目を上げてぼそっと、
「なんだ、元手ってえのは」
「わずかの500ドル」
「・・・500ドル出せ?なんのためだ?」
「手柄のためだよ」
ふたたび顔つきが引き締まるブリスコー。
「ブチ殺されないだけでもありがたいと思え」
「いえね、ブリスコーさん」
ここが正念場とばかり、あくまで落ち着き払ってヘイズは続けた。
「おれたちがわざわざ帰って来たにはそれだけの切り札があるからなんだよ」
またもや思い直して考え込むブリスコー。
「・・・そらまあそうだろう。よし、聞こう。その切り札を出してみろ」
「その前に、まず500ドル。キャッシュで」
駆け引き最大の山場だった。カーリーも笑顔でたたみかける。
「利益を考えりゃ安い投資ですがねえ」
しかし敵もさる者だった。二人を交互にねめつけていたブリスコーは横柄に言った。
「買い手はこっちだ。まず品物を出して見せろ」
しばらく無言でブリスコーを見つめていたヘイズだったが、やがてその顔にゆっくりと笑みが広がった。
「いいだろう」
大丈夫かと言わんばかりに思わずカーリーがヘイズを見た。ヘイズはブリスコーを見つめたまま手持ちの札を開いて見せた。
「第一に、セーラ・ブレインなる女、ありゃ大嘘つきだ」
「それはわかった」
残念そうにこたえたブリスコーは眉間にしわを寄せ肩をすくめて、
「でもなぜだ」
ヘイズは念を押すように人差し指を立て、
「誰が入れた」
「デイリーだ。幹部クラスの一人だ」
「ふん。酒を持ち込もうと言い出したのは?」
「・・・デイリーだ」
「やっぱり!」
朗らかにカーリーが言った。
「それでピターッと合う!」
「何がだ」
こたえかけたカーリーだったが、むろん説明できるはずもない。すぐさま役柄をヘイズに引き渡し、
「言ってあげて」
カーリーと息を合わせたヘイズはおもむろに言った。
「この列車を狙ってるのはさっきのだけじゃない。もう一ついる。一番が地獄の穴一味。二番目は、デイリーとセーラの一味だ」
一瞬、キツネにつままれたような顔をしたブリスコーは、
「なんだその・・・デイリー・セーラ一味ってのは」
ヘイズはやれやれといった口調で、
「ここまで言やあわかるだろ?あの二人が強盗団を組織してるんだよ。地獄の穴一味を全滅させたら、祝い酒が出る予定だったろ?デイリーが積み込んだウィスキーだ。そいつでベロベロになった頃、第二の強盗団が襲いかかる。25万ドルの金塊はいただき、いやもうチョロイもんだよ、これは」
じっと考え込んでいたブリスコーはやおら身を乗り出した。
「その証拠はあるのか」
「ない。だが出してみせる。デイリーを呼んでくれ」
ヘイズとブリスコーの顔を交互に見やるカーリー。相手の胸の内を推し量るように眼光鋭くヘイズを見つめるブリスコー。自信満々にその視線にこたえるヘイズ。
しばらく無言で考えていたブリスコーだったが、手の中の指輪が決心させた。ドアの外に向かってブリスコーは怒鳴った。
「デイリーを呼べえっ!」
汽笛がひときわ高く響き渡った。
ヘイズとカーリー、そしてブリスコーが待ち構える荷物車内へ車掌のフレディとともに葉巻をくわえて入ってきたデイリー。ブリスコーに向かってにこやかに歩み寄ろうとした。
そんなデイリーにヘイズが声をかけた。
「もうこれまでだぞ」
ヘイズのほうをゆっくりと振り返ったデイリー。雲行きの怪しさにピンときた彼はとたん、おどおどとした表情になってヘイズとブリスコーを見た。弱々しい声で言った。
「うん?なんのことだ」
「ネタは上がってる!」
ゆっくりとデイリーに近づいたヘイズは厳しい口調で言った。
「おれはスミスと言う。社長命令で本社から派遣された特別調査員だ。おまえたちの計画は見通しだぞ!」
「ええ?なんです」
怯えながらもとぼけつつ、あたふたと言い逃れかつ助けを求めるかのように哀れっぽい声を出してデイリーはこたえた。
「なんのことだか。いったいどういうことです、ブリスコーさん」
「責任者はこのおれだ!」
怒鳴るように言ってヘイズは主導権を握り直した。驚いたようにヘイズを振り返るデイリー。語気も荒くヘイズは言った。
「おまえの女のセーラがしっぽを出した。この死体がキッド・カーリーだと言ったからだ!ところがブリスコーさんはこれがジェンキンズと知っていた。言うまでもないがグラントとゲインズはおまえの仲間と察したから列車に乗せなかったんだ」
デイリーと目が合ったカーリーは堂々と相手の顔を見返した。憮然とした面もちのデイリー。ヘイズが言った。
「そこで、おれたちが知りたいのは、襲ってくるのは何人かだ」
「・・・襲う?」
「往生際が悪いぞデイリー、素直に吐け!何人来るんだ!」
「それは知らん!」
追いつめられたデイリーは葉巻をくわえたまま叫び、葉巻はポロッと下に落ちた。荒々しくたたみかけるヘイズ。
「それあ知らんが襲うのは知ってるんだな!」
ヘイズの追求は迫力があった。まるで本物の調査員のようだ。恐れをなしたデイリーは必死に抗弁しようとした。
「いやあ、そうじゃないんだ!おれは、いや、ただ・・・」
この通り、と言わんばかりにヘイズはブリスコーへ向かってサッと片手を上げて見せた。ズイッと身を乗り出したブリスコー。
「よし、もういい!」
デイリーのホルスターから抜いた銃を持ち主に突きつけ、ブリスコーは言った。
「フレディ、女を縛り上げろ」
意外な展開にライフルを手にしたまま、あっけに取られたような顔のフレディ。
「コーヒーをガンガン沸かせ!みんなをしらふに戻すんだ!」
「・・・ええっ?そ、そらまたどうして・・・」
「だからスミス君が言っただろう!襲撃に備えるんだ!」
汽笛を鳴らし、走り続ける列車。
座席に縛り付けられ、猿ぐつわを噛まされたデイリーとセーラ。その二人を尻目に警備員たちには次々とコーヒーがまわされた。
「そーらみんな、コーヒー飲んで、コーヒー!」
カップにコーヒーを注ぐ男が声を張り上げる。
「しゃんとしろよ、しゃんと!」
コーヒーの匂いが充満する中、デイリーとセーラは悔しそうに視線を交わした。
小高い山の斜面からズラッと横並びになって列車を見下ろす第二の盗賊団。
その頃、機関士はまたしても慎重にブレーキをかけていた。第二の障害物が目前に迫っていた。窓枠に肘を乗せて身を乗り出し、前方を凝視しながら、今度は丁寧に停止しようと慎重にタイミングを見計らう機関士。今回は丸太が寝かせてあった。
さほど揺れることなく停車したその車内で、ブリスコーはふたたび部下を見回して言った。
「さあ来るぞ」
列車が止まったのを確認した盗賊団は一斉に馬を走らせた。
今度は機関士も段取りを心得ていた。思いっきり汽笛を鳴らし、迫り来る敵を威嚇する。
「今度こそぬかるな!」
自身に言い聞かせるかのように凄味をきかせるブリスコー。
窓の外にふたたびズラッと銃口が並んだ。
マシンガンも準備万端、敵を待ち構える。
盗賊団は徐々に迫った。
聞こえてきた蹄の音に、猿ぐつわを噛まされた情けない顔で不安そうに窓の外を眺めるデイリーとセーラ。デイリーは思わず一瞬目をつぶった。仲間が一斉射撃で全滅するのは火を見るより明らかだった。
「480、490、495、500ドル!」
一件落着し、機関試運転の動力音が断続的にシュッシュッとリズムよく鳴り響く中、ヘイズの手に紙幣を数え渡したブリスコーは鷹揚に言った。
「安い買い物だった」
「どうもありがとうございました」
紙幣の束を握りしめてヘイズが言った。馬の手綱を手に、カーリーが気を利かせて言った。
「ほかに何かお役に立つことありませんかねえ」
「そうだな。この際、情報が欲しいな」
ヘイズとカーリーは黙ってブリスコーを見つめた。
「もちろん我が社でも、ヘイズとカーリーに関しては人相、特徴を調べてはいるが・・・なお、念のためにやつらと一緒にいたというきみたちの証言と照らし合わせてみたいんだ」
そう言って手帳を取り出したブリスコーに、うなずきながらヘイズが言った。
「お安いご用ですよ」
手帳を開き、鉛筆を手にしてブリスコーは身構えると、
「ハンニバル・ヘイズ。1メートル80。黒髪、傷跡なし」
「そいつはどうかなあ。傷跡あるよ」
「・・・どんな傷だ」
「ここだよ」
自分の顎の下を人差し指で指し示しながらヘイズはこたえた。
「顎の下に3センチくらい。切り傷だ。切り傷が」
ヘイズの指し示した部分を確かめ、熱心にメモするブリスコー。
「顎下に・・・切り傷の跡・・・3センチと」
すると横から手帳を盗み見ていたカーリーが意外とも不平とも取れるような声を出した。
「・・・キッド・カーリー、体重70キロ?バカな!ガリガリよ!やせっぽち!」
ブリスコーははたと顔を上げた。カーリーはヘイズに向かって、
「あれ、55、6キロじゃないか?スミス」
「そんなとこね」
「痩せ型」
真剣に鉛筆を走らせるブリスコー。カーリーもまじめくさって、
「左の肩が下がっててねえ。えーっと、こう、こういうの」
左肩を思いきり下げて見せる。ブリスコーは大まじめだった。
「左肩下がる・・・ああ、どんどん言って」
「ヘイズが金歯入れてるってのは知ってる?」
「金歯があるのか」
「ここ」
自分の前歯を指さして見せるヘイズ。
「これ」
「右」
ヘイズの指し示した部位を確認してメモるブリスコー。
「右、金歯、と」
「そ。まーそれで人相書きもカンペキだろう」
こちらもまじめな顔で応じるヘイズ。手帳を閉じ、嬉しそうにブリスコーが言った。
「いやあ、や、助かったよ」
「そー、よかったね。じゃ、まあいろいろどうも!」
ブリスコーと握手するヘイズ。ついでカーリーも握手を交わす。にこにこ顔で二人を見つめるブリスコー。
そんな三人を、線路の復旧作業を手伝っていた車掌のフレディも笑顔で見つめていた。
発車間際の汽笛が勢いよく鳴った。
馬にまたがったヘイズとカーリーはそのまま列車の前から遠ざかっていった。
列車を背に、満足そうに二人を見送るブリスコー。フレディが近寄って言った。
「じゃあ、ぼちぼち行きますか」
「ついてるぞ。あの二人がツキを呼んでくれたんだ」
フレディに向かってブリスコーは得意満面に言った。
「デイリーと、女と、強盗団。おまけに、ヘイズとカーリーの詳しい人相が判明したのだ!すばらしい!実にすばらしい!」
蒸気を噴き上げ、汽笛が鳴り響く。
発車オーライの合図に二人への別れの挨拶も込めてサッと右手を前方に突き出し、振り下ろしたブリスコーは列車のステップに勢いよく足を掛けた。デッキに上がり、馬に乗った二人が消えた方角を仰ぎ見る。
山道を登りきった小高い丘の斜面の遠景。馬の足を止め、走り出した列車を見下ろしているヘイズとカーリーの姿があった。客車の箱が滑り去ったあと、別れの印に帽子に軽く手をやって見せた二人は、ふたたび馬を走らせ、やがてそのまま何処ともなく平原の彼方へ消えていった。
西部二人組
謀略混戦列車/完
Review Compiled by Aya
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