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エピソードガイド詳細版: 西部二人組

第15話 "The Legacy of Charlie O'Rourke" 「執念の追跡」

二人でドイツレストランやります
放送日1972/10/28
監督Jeffrey Hayden
原案Dick Nelson
脚色Robert Guy Barrows
ゲストJoan Hackett:アリス・バニオン[ Alice Banion ],
   J.D. Cannon:ハリー・ブリスコー[ Harry Briscoe ],
   Guy Raymond:保安官[ Sheriff Carver ],
   Billy "Green" Bush:チャーリー[ Charlie O'Rourke ]
   Erik Holland:シュミット[ Kurt Schmitt ]
   Hank Underwood:ヴィク[ Vic ]
   Gary Van Orman:クライド[ Clyde ]
馬に乗って町中を進むヘイズとカーリー。監獄の建物前に差しかかったときである。
「おい!キッド!」
突然どこからともなくふってわいた声に驚いて馬を止める二人。素早く辺りを見回す。
「よお!こっちこっち!」
声の主は鉄格子のはまった窓の中。金網に手を掛けて嬉しそうに二人を見ていた。
「なん・・・」相手に気づいたヘイズ。
「まーたでけえ声で」押し殺した声のカーリー。
「お懐かしいお二人さん!」
「よーお、チャーリー!」
相手に手を上げ、威勢よくこたえたヘイズ。笑い声を上げながら慌てて馬から降りる。カーリーも急いで馬をつなぐ。牢の中の男ははしゃぐように言った。
「しばらくだったな!どうしてた、変わりなかったかよ!」
陽気な笑い声を立てながら小走りに窓に近づいてきた二人に、チャーリーは懐かしそうに言った。
「こんなところで昔なじみに会えるとはなあ」
「まままま、チャーリー、チャーリー」
辺りに気を配りながらカーリーが言った。
「お静かに」
「あ?」
「声が高いよ」
「あ、いけねいけね。まだ追われ追われの身だったな」
大きくうなずくカーリー。ヘイズが小声で言った。
「なんとか逃げ切りてえんだ」
「わりいわりい。あんまり懐かしいもんでよ。思わずわあわあ言っちゃった。ごめんなさいよ」
「まあ、いいっていいって」
カーリーが言った。
「なんで入ってんだ、このたびは」
「あれ?ご存じねえの」
「何をよ」
「おれのことさ」
「知らね」
ヘイズがこたえると、
「今、町中の評判男なんだぜ、おれあ。おれのせいでホテルも満員だ。おめえさんがたもそれで来たんじゃなかったのか?」
「じゃなんだ、おまえが人寄せしてるってのか?」
おもしろそうに訪ねるカーリー。
「そ。おれのせいなんだよ。これが受けたね。見てもらいたかったよ、おめえさんらにも。だけど一番いい出し物は見られるよな」
「なんのことだ」
「おれの死刑だ。明日吊されるんだよ」
ヘイズとカーリーは無言のまま顔を見合わせた。
「面会だぞ、チャーリー」
看守が牢屋の鍵を開けてヘイズとカーリーを連れてきながら言った。
「しかしこいつの友達だなんて名乗るやつがいるとは思わなかったな」
「どうしてよ。別れの挨拶がおかしいかい?」
ヘイズが言うと、
「いや。しかしどっちにしても“良きサマリヤ人”とは思えんからなあ。やっぱりあんたらもうまくいきゃあ一攫千金狙ってるんだろ。え?図星だろうが」
憮然とした顔で男を見送ったヘイズとカーリーは、次いでにこやかに牢の前に立った。鉄格子の中から伸びた腕がヘイズとカーリーの肩に回される。カーリーもつかみ返して笑顔で言った。
「チャーリー」
「なんだいありゃ」
ヘイズが訊ねる。カーリーも真顔になって、
「一攫千金とかさあ。なんのこと?」
「よせやい。おれのほんとヤマのこと知らねえのかよ」
「ヤマ?」
「10万ドルの金の延べ棒。やっつけたんだよ」
ヘイズがうつむき加減に笑ってカーリーを見た。鉄格子に腕を掛けたカーリーは首を振って、
「そら知らないよ。今来たばかりだもの。聞いてないねえ。10万だって?金の延べ棒でかい!」
「おれは聞きたくねえな」
明るい顔でヘイズが言うと、
「また心にもないこと言って」
カーリーがまぜ返す。一瞬あいだを置いてからヘイズは言った。
「ああ、いいよ、聞くよ。金がなんだって?」
「砂漠に埋めてあるんだよ」
楊子代わりにマッチをくわえていたチャーリーが言った。
「捕まる前に埋めたんだ。その秘密を抱いたまま死ぬかと思うとおれあもう心残りでよ。だけどおめえたちが来たから──」
「だめ」
すばやくヘイズがこたえた。
「やっぱり聞くのやめ」
ヘイズの横顔を見ていたカーリーが言った。
「なんで」
「だって盗品だろ?」
カーリーのほうを向いてヘイズは言った。
「たとえおれたちがやったんじゃなくったって、そいつを掘り出しゃ共犯てことにもなる」
するとチャーリーが意外そうに、
「共犯がなんだよ。大金持ちになれるってのに何が気に入らねえんだよ」
「知事が堅気を通せば恩赦をやるって約束してくれてんだ。だからまずいんだよ」
「じゃなにかおれあ」
口から取ったマッチを格子でバチッと擦ったチャーリーは火をじっと見つめながら、
「みすみす10万ドルの金塊を砂漠の肥やしにしたままこの世におさらばするのか」
すぐにはこたえられなかったヘイズは考え込むように言った。
「役人に打ち明けたら?刑の執行延期ってことも」
火を吹き消してチャーリーは首を横に振った。
「今度の仕事じゃほかに二人いたんだけど、こいつらがまたやけに荒え野郎でな。追っ手と撃ち合って、結局死んだけど・・・やあもう派手なドンパチを繰り広げたんだ」
「てことはなんだい」
カーリーが言った。
「追っ手を何人か殺したのか」
「そういうこと」
二人を見つめてうなずいたチャーリーは三本指を立てて見せながらこたえた。
「だから無理なんだよ。たとえ半分の5万ドル出したって延期なんてとてもじゃねえや」
マッチの燃えかすで手のひらを汚していたチャーリーは、
「まあいいや。寝かせの黄金てのもおつなもんだ。贅沢な死に方と思って諦めら」
じっとチャーリーを見つめていたヘイズは申し訳なさそうに頭を振って言った。
「ああ・・・悪いな。どうしても恩赦は逃がしたくねえんでな」
「ほかの頼みなら、聞いてくれるか?いまわの願いってやつをよ」
「そらもう。なんだい」
カーリーが応じた。消し炭で手のひらを汚し続けていたチャーリーは顔を上げて二人を見た。静かな口調で言った。
「おれが吊されるのを見届けてくれ」
保安官事務所を出るなりヘイズが言った。
「今あり金いくらだ」
「二人で15ドル。金の延べ棒が欲しかったかい?」
「いやあ、一杯やりてえんだよ。気が滅入った。あいつが呼び止めなきゃよかったんだ」 「チャーリーでよかったよ。あれが保安官だってみろ」
二人はまっすぐ早足でサルーンへ向かって歩いていた。すると目前のスィングドアがパッと開いた。黒い帽子に紺の三揃えといった中年男が現れた。
「よおっ!」
出てきた男を見るなりヘイズとカーリーはくるっと回れ右して二、三歩引き返し、立ち止まった。低い声でカーリーが言った。
「あの旦那」
「そ!はりきりガードマンのブリスコーさんだ」
作り笑いを浮かべてから振り向いた二人は笑い声をあげながらブリスコーに近づいた。
「やあやあやあ!」
「やあ、ブリスコーさん」
「やあ、奇遇だなあ!」
威勢のいい声をあげながらブリスコーは二人と交互に握手を交わした。
「吊し首を見に来たのか」
「いやいや、そうじゃないんです」
カーリーがこたえた。
「通りすがりなんですよ」
「おお、そうかい。しかしあのときは世話になったなあ、ブリムストンの列車強盗事件では!ハハハ、おかげでわしはえらく男をあげたぞ、ほんっと。ちょうどいい!あのときの礼といってもたいしたことはできんが、あとで酒でもおごらせてくれよ」
「じゃあ、ごちそうになりましょう」
ヘイズが言った。
「今夜泊まりますから」
「そおか、よろしい。どこで会う」
「じゃ、サルーンで」
「わかった、ジョーンズ」
「おれスミス。ジョーンズこれ」
「わかってる。確認したまでだ」
二人をじっと見つめたブリスコーは、
「ではあとで」
そう言い置いて立ち去った。バイバイと手を振って見せるカーリー。二人はしばらくブリスコーの背中を見送っていたが、ブリスコーは保安官事務所へ向かって歩いていった。 「ヘイズさんよ」
カーリーが言った。
「ちょっとヤバいんじゃないの?その筋の関係者と飲むなんてのはさ」
「ほんと。おそらく酒もまずくなりますよ」
そのままサルーンへ向かって歩き出した二人はドアの前でふと立ち止まり、後ろを振り返った。見るとブリスコーが保安官とこっちを見ながら立ち話をしている。
「あれおれたちのこと言ってるんじゃない?」
カーリーの言葉にヘイズも表情を曇らせて、
「どーもよろしくない雰囲気だ。下手すりゃ二十年食らうかもよ」
顔を見合わせ、二人はそのまま店の中へ入った。
店は活気に満ちていた。陽気な音楽と話し声が響く中、客のあいだを縫ってカウンターへ近づくヘイズとカーリー。
その二人をじっと見ていた女がいた。豊かな黒髪を結い上げ、ラベンダー色のドレスを着ている。若くはないがなかなか艶っぽい。ワイングラスをかかげたまま、ヘイズとカーリーの動きを目で追っていた。
「ウィスキーを頼みます。二杯」
バーテンダーに向かって金を出しながらヘイズが言った。すると相手は酒をグラスに注ぎながら、
「銭はポッポに入れときな。何でもじゃんじゃんやってくれ。店のおごりだ」
「・・・ていうと、タダ?」
「あんたがたチャーリーの友達だろ?」
バーテンダーの言葉にカーリーがやりきれないといった声でグラスを口に運びながら、
「噂は早いなあ」
「ほんと」
「チャーリーの友達ってことはわしの友達だ。重ねていく?」
「ああ、そりゃもう」
ヘイズが応じてグラスを差し出した。
「いただきます」
「おおっと、待った」
背後から現れたのはブリスコー。ヘイズとカーリーのあいだに入って鷹揚に言った。
「この二人にはわしのを注いでやれ。ここではなんだ、あっちのテーブルへ行こう」  二人を交互に見てブリスコーは続けた。
「思ったより話がありそうなんでな。きみたちのことで保安官からひじょーに興味あることを聞いた」
言い置いてブリスコーはテーブルへ向かった。顔を見合わせ、ブリスコーがいなくなってからサッとカーリーの横に並び立ち、カーリーとともにテーブルのほうを見つめるヘイズ。二人はしばし言葉もなかったが、やがてヘイズが先に歩き出し、カーリーもあとに続こうとした。
そのとき、カーリーの後ろに女がぶつかってきた。黒髪、ラベンダー色のドレスの女だ。
「ああ、すみません。あたしうっかりしてて」
振り向いたカーリーは軽く帽子をあげて見せ、
「いや、うっかりしたのはこっち。失礼」
二人はしばし視線を交わし、カーリーはそのままヘイズとブリスコーの待つテーブルに着いた。
「ああ、掛けて掛けて」
自分のショットグラスを眺めながらブリスコーが言った。
「これはケンタッキーコーン。そこらのウィスキーとはちょっと違うぞ」
ヘイズとカーリーは黙ってグラスをかかげ、口をつけた。
酒を味わい、葉巻を手に椅子の背にもたれたブリスコーが言った。
「さて何の話だっけ」
「話はそっちがあるんじゃないすか?」
カーリーがこたえるとブリスコーは煙をひと吹き、
「おお、そうだったな。おもしろいことを聞いたよ。保安官の話じゃあ、きみたちはなんでも、チャーリーに面会したそうだな。話し込んでた」
黙って顔を見合わせたヘイズとカーリーはあらためてブリスコーの顔を見た。先にカーリーが口を開いた。
「いやなに」
「挨拶に寄っただけ」
「そしてさよなら」
葉巻を見つめていたブリスコーの目が光った。
「強盗殺人犯に挨拶か。てことは、あいつと知り合いだって・・・ことだな?」
カーリーはちらっとヘイズを見た。ヘイズも無言で視線に応じる。
「隠すな隠すな」
ブリスコーが言った。
「ほんとは通りすがりじゃないんだろ?チャーリーに呼ばれて来たんだろう」
ばかばかしいといった口調でヘイズが言った。
「名うての無法者がなんだっておれたちを呼ぶんです?」
「さ、それだよ。それが不思議だ。とは言うものの、アタリはついてる。前にきみたち言ってたな。例のお尋ね者、ハンニバル・ヘイズとキッド・カーリーとは面識もあればつきあいもある。恩人だみたいなことを言ってた」
「そう」
ヘイズがこたえた。
「それは事実です」
カーリーもうなずいて、
「あの二人には世話になった。おかげで今もこうやって、身を持ち崩さずにやってるわけだ」
「じゃあ悪党とのつきあいはそのときだけだったと言うのか」
手に取ったグラスをためつすがめつしながら、おもしろそうにブリスコーが言った。
「なんかだんだん酒の味が変わってきたな」
投げやるようにヘイズが言った。
「なんです?何が言いたいんです?」
「よし、訊こう。なんでチャーリーを知ってるんだ。やつは〈地獄の穴一味〉だ」
「知り合いは多いよ。いいのもいりゃ悪いのもいる。でも友達は友達さ」
「我々も友達だ。だが仕事に友情は挟まんぞ。いざとなればこれで私も結構冷酷になれるんだ」
ヘイズは思わず目で宙を仰ぎ、じっとブリスコーを見つめていたカーリーが言った。
「いざって?」
ブリスコーはやおらテーブルに身を乗り出した。
「私はチャーリーがどこに金(きん)を隠したか知りたい。町を出る前に教えていってくれ。それだけだ。無事に町を出たかったら教えることだ」
「なんか脅迫じみて聞こえるけど」
「いやいや。警告だ。町の者も鵜の目鷹の目だ。金を捜しに出かけたら後ろに行列が着くと思え。町を出る前に殺されるかもしれん。隠し場所を言えってんで袋叩きだ」
ブリスコーを見つめていたヘイズは冷めた顔で持っていたグラスを放し、頬杖をついた。ブリスコーはうまそうに酒を飲んだ。
「考えとけ。金は逃げん。じっくりやるさ」
しっかと栓をしたボトルを手に、ブリスコーは席を立ったいった。
「けっ」
グラスに口をつけてカーリーが言った。
「町に腰落ち着けるゼニもないのに出て行くことも叶わずか」
「出て行きたきゃ10万ドル寄越せときた。まあなんにしてもここにいりゃ酒は飲みほうだいだ。悪くない待遇だぜ」
そのとき、テーブルの上に赤いリボンで結ばれた巻紙が落ちてきた。思わず上を見上げたヘイズとカーリー。音楽と口笛に合わせ、鳥籠のような入れ物に入った女がけばけばしい赤いドレスの下から黒い編みタイツの足をぶらぶらさせながらゆっくりと降りてきた。カーリーがリボンをはずしにかかった。
「なんだ」
上を見上げたままヘイズが言った。カーリーはすまして、
「何が」
「おまえが拾ったものよ!」
「手紙」
「それはわかってるよ。なんと書いてある」
手紙に目を通していたカーリーは弾んだ声で、
「“会いに来てちょうだい。部屋へ。アリス”」
目を丸くしてヘイズが言った。
「誰が」
「あの子」
カーリーはにっこりして籠を指さした。籠とカーリーとを見比べていたヘイズは早口に、
「じゃねえかと思ったけど、どっちだ。どっちに来いって?」
手紙を見ていたカーリーはおやという顔でヘイズを見ると、
「おれの近くに落ちてきたんだぜ?」
ヘイズはまじまじとカーリーの顔を見返し、
「いやあ、おれのほうに寄ってたよ」
二人は籠のほうに気を取られながらも期待に満ちた視線と笑顔を交わしていた。
「いやあ、しかし」
女の部屋でやや緊張しながら紅茶をごちそうになっているヘイズとカーリー。衝立の向こうでアリスは着替えの最中だった。
「どちらさまへのご招待かはっきりしないんだけど」
そう言ってヘイズは紅茶をすすった。すると衝立の陰からアリスが顔を出して、
「そりゃご両人ともよ。一人じゃ一人がひがむでしょ?」
「ああ、なるほど。そこまで考えてくれたワケ」
ヘイズがこたえ、カーリーはやれやれといった顔でカップを受け皿に置いた。
「お茶好きだったかしら。この草深い町じゃ文明の香りのするものといったらお茶ぐらいですもんね」
アリスの声にカーリーは衝立のほうを振り返った。
「嫌いなの、このブラウンタウンが?」
「だーい嫌い。あたしはサンフランシスコを目指してきたのよ。ところが不運にもここで沈没しちゃってさ」
苦笑した顔をヘイズと見合わせたカーリーは、
「もうどのくらい?」
「そう。一年半ね。いずれは行くつもりよ、サンフランシスコ。資金をこしらえてね。自分のお店を開くのよ」
胸のボタンをかけながらアリスが衝立の中から現れ、ヘイズとカーリーはカップを受け皿に乗せたままの姿ですばやく立ち上がった。フリルのついた薄桃色の部屋着はアリスをいっそうあだっぽく見せていた。
「自分のサルーン?」
ヘイズが言うと、
「まあ、そんなところでしょうね。あたしとしては、あんな格好でほんとは歌いたくないんだけど・・・掛けて」
ヘイズとカーリーは並んで腰掛け、アリスは二人の前に腰を下ろした。
「きみならどんな格好だって」
にこやかにカーリーが言った。
「そのオーバーを着てポーカーテーブルの上に突っ立ってもうけちゃうよ。なんたってあの歌いっぷりだもんねえ」
「泣かせること言ってくれるのねえ。優しいんだわ、ほんと。だから呼んだのよ。そういう人だから来てもらったの」
カップを置いてヘイズが言った。
「・・・というと」
「実はね。お二人に、かんでほしいの。あたしのビジネスに」
ヘイズのほうに顔を向けてからカーリーが言った。
「というと?」
「提携よ」
「はー・・・提携ね」
妙な雲行きになってきたといった顔で、ヘイズがこたえた。勢い込んでアリスが言った。
「三人で組んでサンフランシスコに店を出すのよ。あたしの歌ならいけるでしょ?」
「おれたちはカネ?」
すかさずヘイズが返す。アリスはノンシャランと、
「ええ、まあそういうことね。キャッシュがあれば助かるわ」
ヘイズと顔を見合わせたカーリーが疲れたような声で言った。
「これもチャーリーの金(きん)の隠し場所を言えってナゾらしいよ。いやんなっちゃうなあ」
「胸くそ悪くなってきたよ」
カップを置いてヘイズは言った。
「行こう」
二人はすばやく立ち上がって部屋を出た。二人を引き留めるでもなく、アリスは黙って自分の紅茶を飲んだ。
牢の鍵が開けられた。
「さあ、どうぞ」
食事をしようとしていたチャーリーが振り返るとギターを持ったアリスが入ってきた。彼女が牢番に訊いた。
「面会時間は?」
「そうさなあ。まあ四時間までだろうな」
牢が開かれ、アリスは中に入った。チャーリーは嬉しそうな、はにかむような表情で入ってきた女を見上げた。牢番が言った。
「だけどそんなにいるつもりかね」
「いるつもりよ。チャーリーさんさえよかったら」
「いいも悪いもねえよ」
チャーリーがこたえ、アリスは微笑んでギターを抱えるとチャーリーの横に座った。チャーリーが彼女に言った。
「でもなんだって」
「いえね。歌の二つ三つも歌ってお話相手をしたら少しはあなたの・・・気も晴れるかと」
「じゃ『カウボーイの嘆き』。あれを頼む」
アリスはうなずいてギターをつま弾き、甘く優しい声で歌い出した。
歌を聞いていたチャーリーの瞳がみるみる潤み、胸の思いをかき乱されてか熱いため息をもらした。目を赤くさせ、彼は最後の食事を始めた。歌を聞きながら静かにハムを口に運ぶ彼の様子は従順な少年のようだった。

刑は執行され、チャーリーの葬儀はつつがなく執り行われた。山間から白い教会の尖塔が見下ろす緑に囲まれた静かな墓地に神父の祈りの言葉が響いた。数少ない参列者の中にヘイズとカーリーもいた。
サルーンの前で馬を下りたヘイズとカーリーがドアに向かって歩き出したとき、中から複数の男たちが出てきて二人を取り巻いた。
「ちょっと顔貸してもらうぜ」
「な、なんすか。よしてくださいよ」
「いいから来い。話があるんだ」
両脇を抱え、男たちは無理やり二人を厩舎の中へ引っ張っていった。暗がりの中へ二人を連れ込み、木製の頑丈な重い扉が閉められる。続いて中から格闘する物音とうめき声とが交互に入り交じって聞こえてきた。手酷くやられているようなバシッ、ドカッという物騒かつ乱暴な音が立て続けに響き、あいまに馬のいななきも聞こえてくる。馬にとってはまったく迷惑千万なことだったに違いない。ガラガラと角材のようなものが倒れる音まで聞こえていた。想像を絶する酷い乱暴を受けているものと思われる。うめき声と殴る蹴るといったような物音はかなりのあいだ続いた。ピタリと閉じられた扉の外からは伺い知ることのできない修羅場が繰り広げられていることは、時折ドアが激しく揺れることからも明らかだった。
やがて扉が引き開けられた。
中から出てきたのはヘイズとカーリー。
乱れた衣服もなんのその、帽子で体中の埃をはたきながら軽い足取りで外へ出てきた二人は帽子を頭に乗せるやずんずんと足並み揃えてサルーンへ向かって歩き出した。その両手両足見事に揃った早歩きの歩調からも怒りが最大限に達していることがわかる。サルーンのドアを押し開けて中へ入った二人はしばらくして一人の男を引きずり出して外へ出た。
「なんのまねだ、おい!」
両脇から腕を取られ、じたばたしているのはブリスコー。
「よしてくれよ!友達だぞ!」
有無を言わせずブリスコーを連れ出したヘイズとカーリーは力づくで彼を馬の水飲み場の前へ連れて行った。
「まあ待て!話せばわかる!」
水を前にしたブリスコーは必死に叫んだ。
「話せば、わかるんだから、はな──うわっ!」
わめき騒ぎ立てるブリスコーの頭を帽子ごと無理やり水の中へ突っ込むヘイズとカーリー。しばらく突っ込まされた顔を引き上げられ、上半身ずぶぬれになってむせ返っているブリスコーは足元もおぼつかなかった。
「ブリスコーさんよ!」
ヘイズが言った。
「腕づくで聞き出そうなんて幼稚っぽいまねはやめるんだな!わかったかね!」
隣からカーリーも、
「今度またやったら土左衛門にしちゃうぞ!」
そう言ってブリスコーの背をバンと叩いて二人は歩き去ろうとした。
「ちょっと待て、おい!」
水場の枠に両手を掛け、前屈みになったままブリスコーがあえぎながら叫んだ。立ち止まったヘイズは手袋をはめながらぶっきらぼうに、
「まだ何か言うことがあるんですかい?」
「5千ドル儲けさせる!」
ブリスコーの元に戻ったヘイズとカーリーは相手に手を貸して、
「それなら話は別だ」
ヘイズが言うとカーリーもにこやかに、
「そう。それ僕も言おうとしてたんだ」
喉をげほげほさせながら、ブリスコーはふたたび二人に引きずられてサルーンの中へ戻った。
タオルを頭巾のように頭にかぶり、グラスの酒をあおりながらブリスコーは厳かに言った。
「じゃこれで恨みっこなし」
カーリーが自分のグラスを取って朗らかに、
「てことにして乾杯」
ヘイズもグラスをかかげ、三人は同時に酒を口に運んだ。
「我が社は金(きん)のことで脂汗流しとる」
グラスを置き、一息ついてブリスコーが言った。
「それで発見した者に賞金ときた。5パーセント」
「ケチッてるなあ」
カーリーが言った。
「10パーセントが相場じゃないの?」
「だがヒモつきでないまともなカネだぞ。隠し場所へ案内するか、場所を言ってくれるか。どちらでも構わん。それで賞金の5千ドルはガッポリなんだ。どうだ、返事は」
「どうってきのうとおんなじだよ」
ヘイズが言った。
「チャーリーがおれたちに言い残さなかったんだから」
じっとヘイズを見つめていたブリスコーにカーリーが言った。
「訊いても言わなかったんじゃないかなあ」
「じゃあアリスはどうだ」
頭にかぶったタオルを顎の下で握りしめ、二人を交互に見つめてブリスコーは言った。
「夕べ四時間もかけて賛美歌を歌っていただけとはとても思えんからな」
それを聞いたヘイズはカーリーに目をやって、
「アリスがチャーリーと四時間も一緒に?」
カーリーも意味ありげな視線でブリスコーを見ると、
「賛美歌を歌って?」
「そうだ。この話がパーッと広まったらアリスはどうなるかだ。吊される前夜にチャーリーといたなんてことが。私は、女を説得するのは苦手だが、しかし──きみたちなら手慣れたもんだろう」
ブリスコーを見ていたヘイズはそっとカーリーと顔を見合わせた。二人を交互に見つめていたブリスコーは続けた。
「どうだね。手を貸してやって金を見つけんか。賞金になるし。あの子が十年食らうのを救ってやれるのだ」
「するとあんた」
厳しい声でヘイズが言った。
「あの子騙せってのか?金を掘り出させておいて目の前で取り上げてこっちは賞金?冗談じゃねや」
「やれ。やるのだ」
ヘイズは顔をしかめて首を振った。
「やらなきゃならん」
断固とした口調で言ったブリスコーはグラスをもてあそびながら、
「今だから言うけどな。この前きみたちが披露した身の上話なんざ、信じちゃおらんのだ。きみたちは悪党なんだ」
ヘイズとカーリーは無言でブリスコーを見つめている。
「どういうワルか、そいつは定かでない。だが保安官の事務所には手配書が山と積んである。それを調べよう。必ずや、中におまえたちのがある」
ヘイズは黙ったまま、かすかに微笑んでブリスコーの視線に応じた。
「だが、私の言うとおり動いてくれたら、見返りとして忘れてやってもいい。さあどうだ」
テーブルに沈黙がたれ込めた。タオルをつかんだままグラスを持ち上げてブリスコーは言った。
「やるかやらんか?」
駅馬車の駅前。出発する馬車に客が乗り込もうとしている。その前を通り過ぎた水玉模様のスカーフを首に巻いた一人の男が痩せぎすの男に何やら耳打ちした。
やがて荷物と客を乗せた馬車は出発した。馭者がかけ声をかけ、馬はガラガラいわせて馬車を引いて走り出した。
その後ろを見送り、スカーフの男が言った。
「いいのかい?どんどんいっちゃうぞ」
「やきもきすんな。くっついていっちゃ埃かぶるだけだ。一キロばかりあとから行くんだ。よし。ぼちぼち乗れ」
仲間らしき複数の男たちに指で合図し、自身、馬の手綱に手を掛けて痩せぎすの男は言った。
「そら、行こう」
馬車は緑の風景の中を軽やかに進んだ。あとから複数の男たちが馬でついて行く。右手に深い山並みをのぞみ、こんもりとした木々がところどころに植わっている平坦な道を、彼らは同じ方向へ向かって進み続けた。
やがて駅馬車は最初の休憩地に入った。大木を回り込み馬車は厩舎の前で停車した。
「中継駅だよ」
馬車から一番に飛び降りたヘイズが言った。
「馬を替えるんだ。おれ足伸ばそ」
男の客が女を抱きかかえて降りたあと、馬車を振り返ってヘイズが言った。
「どうした。降りないのか。その辺でぶらぶらしてみたらどうだ」
アリスは大きなあくびをして、
「いいの。めんどくさいから」
うなずき、ドアを閉めたヘイズは男女の客が母屋の中へ入っていくのを見届けると馬車のステップに足を掛け、馭者台に乗り込んだ。
同じ頃、駅馬車の後を追ってきていた痩せぎすの男が木陰に馬を寄せて仲間に手で合図した。
「おーっと。止まれえ」
休憩地を見やりながら彼が言った。
「馬車が出発するまで待機だ。一息入れとこ」
すると水玉スカーフの男が、
「あれ?もう出るらしいぜ、おい」
「ああ?」
痩せぎすの男が応じたそのとき、駅馬車はヘイズのかけ声とともに走り出した。痩せぎすの男が出発の合図を出し、追っ手はふたたび馬を走らせた。
休憩所の母屋から出てきた一人の男があぜんとして見送るなか、ヘイズが操る馬車は草木が点在する道を勢いよく駆けだしていた。
「こらあ!何しやがるんだい!ちきしょう!」
母屋から出てきた男は持っていた馬具を地面に叩きつけるや母屋の中へ駆け込んだ。
「どうかしてんじゃない、あんたたち!こんなことしたらよけい追われるじゃない、ばかねえ!」
アリスが言うと、
「キンキン言いなさんなって!」
カーリーがこたえた。アリスの声は続いた。
「言いたくもなるじゃない!こんなことされちゃ!」
追っ手は中継所までやって来た。痩せぎすの男が母屋から出てきた男に言った。
「どうしたんだ」
男はライフルを手にがなった。
「あんちきしょう、駅馬車を盗みやがったんだ!」
「そりゃまずい」
スカーフの男が痩せぎすの男に向かって言った。
「飛ばされたらまかれちまうぞ」
「なに泡くってやがんだい」
リーダー格の痩せぎすの男はのんびりとした声で言った。
「まいたと思わせときゃいいんだよ。馬車ってのは轍を残すもんだ。眠ってたってついていけらあな。そら、行こう。慌てんじゃねえぞ。散歩のつもりでのんびり行け」
ライフルを持った男が呆然としているのを尻目に、追跡隊は緩やかに走り出した。
ヘイズが操る馬車は猛然と疾走し、やがて木立の茂み前でヘイズは馬車を停めた。
「よーし!これでいい」
馬車から素早くカーリーが降り立ち、アリスに手を貸す。アリスが降りるやヘイズは帽子で馬の尻を叩いた。
「そーれ、行け!」
カーリーも加勢する。
「そーら、走れ!」
「行け行けえ!」
三人を降ろし、乗客がいなくなった馬車はかけ声に追われるようにしてふたたび疾走を始めた。
馬車を見送ったヘイズ、カーリー、アリスの三人は茂みに向かって駆けだした。ボンネットを押さえて走りながらアリスが言った。
「馭者なしでどれくらい走る?」
「まあ三、四キロでばからしくなって止まるだろう!」
茂みの中へ身を寄せたヘイズが言った。
「そのあいだになんとかしよう」
カーリーがアリスを茂みの中へ引き入れたあと、様子を見ていたヘイズが言った。
「なにやってんだろ。来ねえな」
木の陰に忍び寄って道を見ていたカーリーが慌てて戻ってきて言った。
「来た!来たぞ!」
三人は茂みの中で腹這いになって身を伏せた。
その前を、追っ手は勢いよく走りすぎていった。乾いた地面にもうもうと砂埃をあげながらみるみる小さくなってゆく。
ゆっくりと起き直ったヘイズが言った。
「なんにも知らずにバカめ。あっと驚く無人の馬車なのによ」
するとアリスが手を広げて二人を見ると、
「はたしてバカはどっちでしょうね。追っ手をまいて得意になってたって、こっちは野原の真ん中で乗り物なしよ」
「そうね」
カーリーが言った。
「じゃあ馬でも探してくるか。待ってて」
運良く馬を手に入れることができたヘイズ、カーリー、アリスの三人は白い頂の山並みをしたがえる平地に出た。晴天で地面はからからに乾き、土埃がいやおうなく舞い上がり、決して愉快な道行きではない。
「ちょっとちょっと、あそこ見て」
馬を止めてアリスが言った。
「うしろうしろ。誰か男の人がいるわ」
「見えませんね」
ヘイズがこたえるとアリスは振り返って首を伸ばした。白い山並みを背景に小高い斜面、その下に低木の茂みが広がり、乾いた地面がむきだしになっている。さんさんとふりそそぐ日差しにこんがり焼かれているような辺り一帯の風景に人影は見当たらない。
「確かにいたのよ。どっかに隠れたんだわ」
「一応調べてみるか」
カーリーが言った。ヘイズも同意し、アリスに言った。
「ここにいて。危ないから」
「いいわ」
ヘイズとカーリーは手綱を引いて元来た道を引き返し始めた。
「気をつけてよ。怪我でもされたら泣きですからね!」
「心配ないって!」
二人がいなくなったあと、アリスはバッグから双眼鏡を取り出した。
ヘイズとカーリーは二手に分かれて低木の脇の緩やかな斜面を静かに下っていった。
そこへ一人の男の背が浮かび上がった。ゆっくりと馬を歩かせているヘイズに向かって銃の狙いをつけている。
帽子のひさしに手をかざして様子をうかがっていたその男はブリスコーだった。と、そのとき彼の背後でカチリと撃鉄を起こす音がしたかと思うと、
「どうしようっての。ライフルなんか握っちゃって」
ブリスコーの背に銃口を突きつけたカーリーが言った。
「穏やかじゃないねえ」
振り返ったブリスコーは悪びれる様子もなくこたえた。
「いやあ、光が目に入って狙えやしねえよ。それに、きみたちとは全然知らなかったんだ」
その頃にはヘイズも銃を抜いてブリスコーを見ていた。
カーリーが言った。
「困るなあ。アリスに見られちゃったじゃないの。計画が見破られたらどうするんだ?早いとこ町へ帰ってくださいよ、町へ」
「てなこと言っておれを行かしといて何をやる。安心できんからそれとなく見張っているんだ」
「わかってねえなあ」
こたえたのはヘイズだった。銃を手に彼は言った。
「アリスがちょっとでもキナ臭いと感じたら金(きん)のとこへは行かねえんだよ?せっかくのってきてんのにすべてはパア。もともこもなくなるよ」
ややあって、ブリスコーが言った。
「ああ。きみらを信用するか。それしか手はない」
カーリーが吐息まじりに、
「やっと聞き分けてくれましたか」
その頃、双眼鏡をのぞいていたアリスはいまいましそうに口元をひきしめていた。
ヘイズとカーリーが戻ってきた。二人は馬から降りてアリスの前にあった丸太に腰を据えた。
「別に気を回すことはなかったよ」
カーリーが言った。ヘイズも朗らかに、
「そう。鉄道敷設の調査員だってよ」
「よくもまあそんな。何が調査員よ。まっかな嘘をぬけぬけと」
目の前に立ちはだかったアリスに向かって、ヘイズが言った。
「おいおい。また何を証拠に」
「バッチリと見たのよ」
双眼鏡を突き出してアリスは言った。
「あれは警備社のブリスコーじゃないの。はじめっからあいつと組んであたしを引っかけたんでしょ。力になるの手を貸すのって言うからついのって信用しきってたのに」
「きみのためなんだよ」
静かにヘイズがこたえた。カーリーも手を広げて、
「掘り出した金はお上に差し出さないと盗みになっちゃうんだ。監獄にぶち込まれるんだから」
双眼鏡のレンズの埃を拭いながら、すました声でアリスが言った。
「あのおっさんの条件は何?賞金か何か出すってんでしょ」
「賞金5千ドル」
ヘイズがこたえ、
「三分の一はきみにやるよ」
カーリーが言った。
「おーほー!」
ばかにするような笑い声を立ててアリスが言った。
「それを信用しろっていうの?」
「笑う気持ちもわかるけど、ほんとなんだよ?」
カーリーがこたえ、アリスはさもおかしいと言わんばかりに笑って顔をそむけた。カーリーが続けた。
「一生逃げ回るようなこと、きみにさせたくないんだよ、おれたちは」
「逃げ逃げ人生には詳しいんだ」
アリスを見上げてヘイズが言った。
「厳しいぜ」
アリスは無言でヘイズを見た。まじめな顔でヘイズは続けた。
「これだけは嘘じゃないから」
じっとヘイズを見つめていたアリスは小さくうなずいて、
「それはほんとらしいわね」
「じゃ5千ドルの、三分の一で我慢するかい?」
しばしの沈黙をはさんだあと、前方を見据えてアリスが言った。
「金はここからあと二日行ったところよ」
そうして二人に視線を戻すと穏やかに微笑んで見せた。その表情に、ヘイズとカーリーも安心したように微笑み返した。
二人は立ち上がり、アリスと肩を組んで馬に戻った。
「ここよ、ここ!」
アリスが叫び、ヘイズとカーリーは馬を止めた。前を見つめ、ヘイズが言った。
「どこ?」
「あそこ」
アリスが指さす。三人の眼前には同じような低木がまばらに植わっている平原が見渡せるだけだった。
「大きなジョシュア・ツリーの下に埋めたって言ってたわ。目印をつけて」
「よお!これでジョシュア・ツリー何本あると思う?」
おどけたようにヘイズが言うと、
「ごらんのとおりの数さ。千本ですかねえ」
こたえたカーリーが続けて言った。
「アリス。ほかには何も聞いてないの?」
「そりゃ聞いてますよ。ジョシュア・ツリーは大きな石のそばでトライアングルみたいになってるの。ほら、あすこのみたいなの」
そう言ってアリスが指さしたほうにまさしくトライアングルの格好になった木を見つけたヘイズとカーリーは嬉しそうな笑い声を立てた。ヘイズを振り返ったカーリーが言った。
「さあさあ、参りましょう、ジョシュア」
「ほいきた」
三人は馬から降りた。
「見て見て!」
ヘイズが乾ききった土砂から掘り出した金の延べ棒を見たアリスが両手をはたきながら嬉しそうに声をあげてヘイズの手から金を受け取った。
「この見事な眺め!この手触り!いいなあ!興奮しちゃうわあ!現実にこの手に10万ドル握ってるのね!おまけにいい男二人も!あたしの人生、明るいなあ!」
金を手にそう言いながら、アリスはヘイズと、次いでカーリーと抱き合った。
「見て!これ!」
「まあ、待ちなよ」
延べ棒の入った袋を両手に持って立ち上がったヘイズが言った。
「10万10万て、そりゃ見積もりがハデすぎるよ」
袋を馬具にくくりつけるヘイズのそばからカーリーも、
「そう。10万と言いたいところだがねえ」
「いえ、わかってるわよ。10万ドルの賞金、5千ドルって言うんでしょ?」
「そう!それでいいの!」
「金のおかげであたし、うっとりぽーっとなっちゃって」
ヘイズの手にした袋の中へ持っていた延べ板をしまい込みながらアリスが言った。
「あんたたち二人を愛しちゃいそうな気分よ」
袋の口を締めてヘイズが言った。
「二人とも?一緒に、別に?」
「そりゃ別々によ。でもどっちかにしろって言われると困るんだなあ」
「そりゃいい。こっちで決めるから」
ヘイズの言葉を、カーリーは黙って聞いている。
「だめよ。あたしをめぐってケンカなんかいただけないもん」
「そりゃ大丈夫。ゼニ返しで公正取引するから」
ヘイズの胸をそっと突いてアリスはこたえた。
「ふざけてるわね」
そんな三人の足元に突然、銃弾が突き刺さった。弾の跳ね返りに乾いた土埃が巻き上がる。とっさに銃を抜いて弾の飛んできた方向を見つめるヘイズとカーリー。馬がいななき、暴れ出そうとしたのを止めたとき、木の向こう側から声がした。
「ガンを捨てろ。次の弾ははずしちゃやらんぞ」
そしてまたもや馬の足元に一発。アリスが思わず声を上げた。
「捨てろってんだ。この木の下へ投げろ」
しばらく声のするほうへ銃を構えていたヘイズとカーリーだったが、やがて仕方なく銃を放った。
木陰からぬっと姿を現したのはブリスコーだった。三人に銃を突きつけたまま落とされた銃を拾い、腰に差し、帽子のひさしに手をやってブリスコーは言った。
「ではお嬢さん。そこの馬三頭を引いてきてもらいましょうか。野郎どもはじっとしてろ。下手に動くな」
両手を腰にあてがってじっとブリスコーを見つめていたヘイズとカーリーは無言で視線を交わしたあと、ヘイズがアリスに向かってうなずいて見せた。アリスはしぶしぶ金の延べ板が入った袋付きの馬の手綱を取った。
「いいのかね、こんなまねしてよ!」
投げやり口調でヘイズが言った。
「あらま警備社の人間が!正義の味方がよ!」
「コロッと変身だ」
アリスから手綱を引き継ぎ、しゃあしゃあとブリスコーは言った。
「おれは勤続二十二年。ひたすら人のゼニを護った。そろそろ自分の小銭を握ってもいい頃だ!」
するとカーリーが怒りを含んだ声で、
「10万ドルが小銭とはなーまいきー!」
「これくらいでガタガタするか。さしあたっての元手よ!こいつを抱いて国境を越えたら人生再出発だ」
「そらいいけどおれたちを馬なしで放り出すの?水なしでさあ!」
「ああ、水といやあこの前おまえたちにたっぷり飲ませてもらったなあ!水筒は置いとこう。礼のつもりだ。しばらくはもつだろうよ。あとは知らん。おれはメキシコ行きだ」 銃をホルスターに収め、ブリスコーは袋をぶら下げた馬にまたがった。手綱を繰りながら言った。
「もう会うこともあるまい。おまえたちの正体はわからんが、世話になったな」
そして水筒をドサッと地面へ投げ落とすと、
「お嬢さんもご苦労でした」
下卑た高笑いを残し、二頭の馬を引き連れ、ブリスコーは意気揚々と立ち去っていった。
水筒を拾い、がっかりした様子でヘイズとカーリーの前へ戻ったアリスが力なく言った。
「ね、どうするの?」
しばらく無言でブリスコーの背を見つめていたカーリーは、
「歩こ」
そう言って逆方向へ向かって歩き出した。
「あいつはあっちよ」
アリスが言うとヘイズが親指で後方を指さし、
「ブラウンタウンはあっち。馬と水も」
「メキシコの町へ出たほうがいいんじゃない?そのほうが近いし」
アリスの言葉にヘイズとカーリーは顔を見合わせた。肩をすくめたカーリーが引き返し、ヘイズは無言でアリスに腕を差し出した。その腕を取ったアリスは後ろから近づいたカーリーの腕も取り、三人は意気消沈して歩き出した。
乾いた土地を、三人は砂をかぶり、泥だらけになって歩き続けた。日差しは強く、地面は固い。ヘイズとカーリーに両脇を取られながら歩くアリスのドレスは砂塵にまみれていた。ヘイズの濃紺のシャツ、カーリーの明るいブルーのシャツもすっかり白くなっている。 風が吹きつけ、三人はいやでも砂埃をまともにかぶった。見渡す限り白っぽい索漠たる風景が続く。生えている草木の色も味気なく、根を下ろしているだけといった感じで生気を失った屍といった様相を呈していた。
無情に吹き渡る風の乾いた音を聞きながら、ヘイズは持っていた水筒を投げ捨てた。
「もうだめ」
二人に手を取られながら、疲れきった声でアリスが言った。
「あたしもう歩きたくない。歩けないのよ。もう一歩もだめ」
「弱音吐くなよ、アリス」
カーリーが言った。
「相棒がなんか考えてくれるから」
三人は岩陰に倒れ込むようにして歩みを止めた。
「どうです?なんか考えついた?」
カーリーの言葉にヘイズは岩壁に片手をついて、
「ついた」
「言って」
「ここが終点」
「おまえが言うんなら間違いないだろう」
「グーテンターク!」
「なんだ。言うことまでおかしくなってきたな!」
「おれ何も言わねえよ」
「僕が言ったんだ」
三人は息も絶え絶えに声のしたほうを振り返った。
前ひさしのついた帽子をかぶり、豊かな顎髭を生やした男が三人を見下ろして言った。
「どうしたんだね、あんたたち、馬もなしで」
救い主のご登場だった。
「シュミットさんはどこで料理の腕を磨いたの?」
焚き火を囲み、男がポットを持ち上げたとき、小さなフライパンを手にしていたアリスが中身をつまみながら生き返ったような明るい声で言った。
「できるわねえ。並の味付けじゃないわ」
「なあに。ドイツの軍隊でちょっとね。基礎作りだけだが、以来研究は怠らずさ。名コック志望だからね」
シュミットの言葉を聞き流し、コーヒーを飲んだヘイズとカーリーは立ち上がって男の馬車へ歩み寄った。
「除隊になってから、ベルリンの一流レストランに住み込んでね。金を貯めてアメリカへ来たわけだ」
馬の前へ来て立ち止まったヘイズとカーリー。ヘイズが言った。
「どうだい」
「ま、競馬は無理だなあ」
手綱に手を掛けてカーリーがこたえた。
「でも息は長い」
「ブリスコーのとっつぁんは三頭引いてんだ。そう早くは行けまい」
カーリーは無言でヘイズを見た。腰に両手をあてがい、ヘイズは言った。
「やってみるか。じっくり追い込む」
カーリーがうなずき、二人は男の前に戻った。
「シュミットさん」
ヘイズが声をかけた。相手は気さくに、
「まあまあ。カートでいいよ。こちら流のくだけたつきあいでいきたいんでね」
「それじゃあ、カート。実は馬を借りたいんだ」
「馬を貸せ?こいつはまた変わった注文だ」
「借りたいわけも変わってるんだよ」
横からカーリーが言った。
「おれたちを裸にしたやつを追っかけるんだ。ま、追い剥ぎだなあ。ちょっとしたものを取られた」
「追いかける値打ちはあるものさ」
アリスと視線を交わしたシュミットが言った。
「値打ちって、いくらです。いくらになる?」
「5千ドルになる」
ヘイズがこたえた。
「賞金なんだ。おれたち三人で分けるつもりだった金だ」
アリスは黙ったままシュミットを見た。
「ああ。なるほどね」
いったん二人から視線を引いたシュミットはふたたび二人を見てこたえた。
「いいですよ。そりゃ貸さないことはない。しかし、僕も商売人だ。この国へ来たのも金儲けのためだし、どうだろうねえ。その賞金とやらを・・・この際四等分に、してくれないか」
アリスは大きく肩で息をついた。ヘイズとカーリーは顔を見合わせ、やがてヘイズがこたえた。
「よかろう」
シュミットを見てアリスが言った。
「なるほど商売人だわ、シュミットさん」
「ああ、やめてほしいな。カートでいいよ」
アリスは嬉しそうに笑って見せた。
「それからあの」
カーリーが言った。
「銃もあったら貸してほしいんだけど」
岩陰で休憩していたブリスコー。馬にまたがった二人連れを目にしてがばと起き直った。
「なんと恐ろしき執念かな」
つぶやき、銃を両手に握って岩に身を潜め、二人が近づいてくるやためらうことなく発砲した。
いきなり飛んできた銃弾に首をすくめたヘイズとカーリー。ライフル銃を手に馬から降りるとブリスコーの追跡を開始した。
そこは切り立った崖の壁を背景として大小さまざまな形をなした岩石が辺り構わずごろごろと転がり広がっている緩やかな斜面。岩の隙間に生えている雑草の緑が美しく見えるほど岩石は無味乾燥と白かった。
そのあいまを黒づくめのブリスコーが二丁拳銃で逃げ回る。適当な遮蔽物を選んで身を隠したブリスコーは正面から突き進んできたヘイズに向かって立て続けに発砲した。手近の岩陰を盾にすばやく身を伏せるヘイズ。岩に跳ね返った銃弾が乾いた音を立てた。
一方カーリーはブリスコーを見下ろす位置にまで岩を上っていた。白い岩肌からのぞいたカーリーに向かって発砲したブリスコーは次の遮蔽物へ向かって駆け出した。
銃撃に身を伏せたカーリーが移動を始め、岩陰から飛び出したヘイズがブリスコーの後を追う。岩壁を背に、ブリスコーは飛び出したヘイズに向かって発砲した。とっさに別の岩陰に身を寄せるヘイズ。そのかん、ブリスコーは別の岩へ向かって走り出し、岩と岩とのあいだをすり抜けようとしたが、その間隙は思ったより狭かった。
岩のあいだで立ち往生しているブリスコーの様子を見守っていたヘイズは、ブリスコーの真上からライフルを構えたカーリーの姿を認めた。
同じくブリスコーもカーリーの位置に気づいた。ヘイズとカーリーの上下双方を慌てふためくように見ていたブリスコーは身動きならないまま拳銃を握っていた両手を軽く上げて見せた。
その様子に笑みを浮かべ、ヘイズは岩陰からゆっくりと姿を現し、カーリーはなおもライフルを構えたまま一段下の岩へ飛び降りた。
ブリスコーの前まで歩み寄ったヘイズはライフルの銃身でもっと両手を高く上げるよう指示した。岩から離れ、銃を握った両手を空へ突き出し、ブリスコーはゆっくりと後ずさった。
上にいたカーリーが飛び降りてヘイズと並んで銃口を向け、完全に岩を背にして立たされたブリスコーは無言で二丁の拳銃を二人に手渡した。受け取った拳銃をそれぞれ自分のホルスターへ収めるヘイズとカーリー。両手を上げたまま、ブリスコーが言った。
「どっから馬を引っ張ってきたんだ」
「そいつは町へ帰る道々話すよ」
ヘイズがこたえた。
「来い」
「待ってくれ」
二人を見つめ、ブリスコーは言った。
「おれを突き出すつもりか」
「そ」
応じたのはカーリーだった。
「金(きん)を取られた運送会社へ返してあんたを引き渡す。これで賞金が出ると思ってね」
「まあな。おれもこれならいい金になる。だがやれん」
「はあん。どうして?」
ヘイズが言った。
「おまえさんに仏心出すほど甘っちょろくはねえよ」
「スミスとジョーンズならさもありなん」
手を下ろしてふてぶてしくブリスコーは言った。
「だがヘイズとカーリー。この二人にはおれは売れん」
ヘイズとカーリーは思わず顔を見合わせた。二人の表情はこわばっている。してやったりといった顔でブリスコーは続けた。
「そういうことだ。どうにも気にかかるもんでな。手配書をあたってみたのさ。そして格好の人相書きを見つけた。それが誰あろう、わが友、スミスと、ジョーンズだ」
渋い表情で視線を交わすヘイズとカーリー。ブリスコーが言った。
「まーあ、いいではないか。すべて水に流そうや!金は山分けといって、ここで別れよう。おれはメキシコへ行く」
「だめ」
首を振り、にこやかにヘイズが言った。
「金は全部運送会社へお返し。賞金だけでたくさん」
意外そうな顔でブリスコーはカーリーに視線をやった。ライフルの銃身を肩に掛け、無言でうなずいて見せるカーリー。
「ほんとに返す気か。ハンニバル・ヘイズと、キッド・カーリーが」
するとカーリーが穏やかに言った。
「あんたがいい例だが、堅気の人間もゼニに転んでワルになることがあるよな?その逆もあるってことさ」
疑い深そうな目を向けるブリスコー。ヘイズが穏やかに言った。
「まあ、立ち直ってもらうんだね」
「じゃなにか、きみたちの素性をバラさなければ私のことも・・・私のことも黙っていてくれるのか」
そのとおり、といった顔でうなずいて見せたカーリーは朗らかに、
「そうしましょ。出来心をとっちめるほどヤボじゃないつもり」
「そうさ」
もっともらしい顔でヘイズが言った。
「人間誰しもワルの素質はあるよ」
そしてカーリーのほうを見た。にやりと笑って見せるカーリー。ヘイズも笑って見せた。二人を見ていたブリスコーも表情をやわらげた。満足と安堵の入り交じった微笑が浮かんでいた。
「900、1000。1100、1200、と、50」
数えてアリスの手に札を手渡したヘイズ。
「ありがと」
受け取ったアリスの後ろではシュミットが馬車の用意を終えていた。そのシュミットを振り返って見て、アリスは言った。
「ついでにカートの分もちょうだい」
「ああ、そうして」
ヘイズは腕組みをしてこたえない。するとシュミットが言った。
「もう共同経営者だからね」
ヘイズは笑って持っていた残りの札をアリスの手へ置いた。
「じゃあこれ」
「サンフランシスコまで長い道中だ」
ヘイズの隣からカーリーが言った。
「でもその馬なら、立派に行けるよ」
「いずれはね」
シュミットがこたえた。
「向こうへ来ることがあったら寄ってくださいよ。ドイツ料理を売り物にして、西部一のレストランをぶっ建てておくからね」
ヘイズとカーリーは笑って顔を見合わせた。
「歌だって評判にするから」
アリスが言った。
「ドイツの子守歌なんかもやっちゃおうかな」
シュミットが微笑んでアリスの肩に手を置いた。嬉しそうにシュミットを振り返るアリス。
「ちょっと失礼」
シュミットがそう言ってその場を離れ、アリスはためらいがちにヘイズとカーリーに向き直った。二人も黙ってアリスを見つめる。うつむきながら、アリスが言った。
「じゃあ。名残惜しいけど・・・お別れね」
顔を上げ、アリスはまずヘイズとキスを交わした。そしてカーリーと。
二人を前にして、ふたたびうつむき加減にアリスは言った。
「どっちかに別々に会ってたらあたし・・・ほれてたわね」
そんなアリスを、ヘイズとカーリーは微笑んで見つめていた。
トランクを抱えて現れたシュミットがアリスに向かって言った。
「行こうか」
ヘイズとカーリーは馬車までアリスを見送った。
「しあわせになれよ」
ヘイズが言った。
「しあわせにな」
アリスが馭者台乗り込み、その横に座ったシュミットが言った。
「じゃあ。アウフビーダゼン」
「バーイ」
アリスとシュミットの幌馬車はゆっくりと遠ざかっていった。馭者台から振られた手に笑顔で手を振り返すヘイズとカーリー。
サルーンの看板を見上げていたカーリーに、ヘイズが言った。
「惜しかったか?」
「そうねえ」
振り返ったカーリーは静かに言った。
「今度あんな子に出逢ったら、ゼニ返しで決めようぜ」
そう言い置いて歩き出したカーリーの背に向かって、ややあってからヘイズが言った。
「おれが勝つね」
聞こえていたのかいなかったのか、カーリーはさっさと馬にまたがった。遅れてヘイズもまたがる。
手綱を引いた二人は軽快に馬を走らせ、町を出ていった。
西部二人組
執念の追跡/完

Review Compiled by Aya

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