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エピソードガイド詳細版: 西部二人組

第22話 "Six Strangers at Apache Springs"
「アパッチスプリングの町」


人生自分できびしくしなくったって、結構きびしいよ。
放送日1973/01/27
監督Nicholas Colasanto
原案Arnold Somkin and John Thomas James
脚色John Thomas James
ゲストCarmen Matthews :ミセス・キャロライン・レングレー[ Caroline Rangely ],
   John Ragin :エドワード・フィールディング[ Edward Fielding ],
   Sian Barbara Allen :シスター・グレース[ Sister Grace ],
   Patricia Harty :ルーシー・フィールディング[ Lucy Fielding ],
   Logan Ramsey :スマザーズ[ Smithers ]

ここはとある西部の町。昔は金が出てにぎわっていたが、今ではゴーストタウン1歩手前のようなうら悲しさが漂っている。乾燥がひどく、あちらもこちらも砂埃だらけ。こういう場所にはつきもののタンブリング・ウィードが大きな塊となって、風が吹くたびにコロコロと転がっていく。
ヘイズとカーリーはそんな町にたどり着いた。二人はゆっくりと、町の空気を感じながら馬に乗っている。
「なんつったけ、この町?」カーリーが尋ねる。
「アパッチスプリング」ヘイズはいつもカーリーの問いにすぐさま答える。
「いいねぇ。我が家みたいなムード。ひなびた感じでしっとりと」
「ほぉんと。おまけに保安官なしときたもんだ」
いつながらの二人の会話である。
少し行くと、小さなホテルの前に着いた。二人は馬を降り、中に入っていく。
そこには小太りの、少し髪が寂しくなりかけている中年のホテル・オーナーがいた。
「はいはい、いらっしゃいませ」オーナーは少し媚びたような笑顔を見せる。
「お部屋とお風呂、たのんますよ」カーリーが言うと、
「ついでに馬の面倒みてもらいたいな」ヘイズが続く。
「はいはい、ただいますぐやらせますので、まずは宿帳の方おば・・・」
宿帳を差し出すオーナーを横目に、ヘイズはあたりを見回す。
「ポーカー、やってないの?」ヘイズは暇つぶしを探しているようである。
「たいがい土曜の晩にご開帳でございまして、カーボーイが集いまして、酒にポーカーという段取りで・・・」オーナーが言うと、すかさずカーリーが
「待つよ」
「どうせヒマなんだから」ヘイズも間髪を入れない。
オーナーは二人の言葉に驚き、
「しかしあなた、6日もお待ちになりましても、お素人集の勝負でございますよ」
「お素人結構、ボク大好き」またもヘイズは間髪入れずに答えた。
そんな会話に中年おばさんが割り込んできた。
「ちょいごめんなさい。でしゃばりおばさんと思われるかもしれないけど、若い男前が二人もそろってくりゃ、好奇心が沸くのが人情ってもんでね。あんたたち仕事は何やってんのよ?」
「ええ、まぁあちこちであれこれと・・・」カーリーが答えると、
「あっそういうの。言いたくないってのね」おばさんはむっとする。
ヘイズはあわててカーリーの言葉に付け加えて、
「そうじゃなくて、何でも屋だってんですよ。手間賃しだいでなんでも」
「ああ、了解。じゃ、落ち着いてからでいいからさ、後で話に来てくんない?」
「あ、いいですよ」
「喜んで」
二人はそういい残して2回の部屋へ向かった。
おばさんは少しほくそえみ、オーナーにこう言った。
「ねぇ、スマザーズ。おあつらえ向きの兄さんが転がり込んできたようよ。若くって、丈夫で、身軽でさ。りこうそうでないの」
四頭立ての馬車が砂埃を上げてやってくる。スマザーズと呼ばれるオーナーは馬車を出迎えにドアから出てきて、馬車を覗き込んだ。
「これはこれは、フィールディング様。おそろいでようこそ。お手紙頂きまして、用意万端整えてお待ち申し上げておりました」
馬車にはとても楽しそうな笑顔の男性と、とても不愉快そうな顔の女性が乗っていた。
「いやぁ、ありがとうありがとう。楽しいねぇ、本物の西部は」
男性の妻とおぼしきその女性はあからさまにいやそうな顔をして、大きなため息を一つついた。スマザーズが荷物を運び、3人はホテルの中へと入ってくる。相変わらず不満いっぱいの女性ははき捨てるように、
「この砂埃、どこからやって参りますの? どこかで製造してるんですか?」
スマザーズは少し困ったような顔をして、
「いや、ははは・・・え、お部屋は当方で最高の続き部屋にしておきましたから、はい・・・」
「それにこの暑さ! 暖房でしたらとめていただけませんかしら!」
そう捨てセリフを残して女性は2階の部屋へと去っていった。
2階の部屋からヘイズとカーリーが降りてきた。
「お二人さん、こっちこっち」おばさんが二人を見つけて、バーのカウンターからそう言った。
「お兄さんがた、今なんか予定あるの?」
「いや、土曜日のポーカーまで空きなんですよ。御用があるなら承りますよ」カーリーが答える。
「いい仕事があんのよ。儲けさせるよ」
「ははは、どういうの?」ヘイズが聞くと、
「いやなに、あるものを回収して、持って帰りゃいいのよ。」と答えるおばさん。
「あるものってのは?」怪訝そうにカーリーが言う。
「カネよ。それも札なんてけちなもんじゃない、砂金よ」
「あ、そりゃいいお話」カーリーは嬉しそうな顔で話に食いついてきた。
「いいぞ、乗ってきたね。飲んどくれ。ビールでいいね。はいよ」おばさんは二人にビールを注ぎながら話を続ける。
「あたしゃキャロラインっての。ミセス・レングレー。どっちでもいいよ。でもママさんとかおばさんなんてのだけはお断りだよ」
「わかりました。で、その砂金の話だけど・・・」ビールを飲みながらヘイズが聞く。
「あせらないの。仕事の内容詳しく言ったら、やる気なくすかもよ」
「なくすかもね」あっさりと答えるヘイズ。
「なによ、その態度は! せっかく儲けさせるってのに」
怒ったキャロラインの言葉に、
「ああ、何もそんなつもりじゃぁ・・・」ヘイズはあわてて訂正する。
「もういい、もういい。今日日はまともすぎるヤツばっかりでさ。肝っ玉の据わった男らしい男なんていやしないや。自分の影におびえてさ、腰抜かしてんだから、世話無いよ」「腰抜かすようなことなの?」カーリーが尋ねる。
「あぁん、あんた、インディアンよ。あたしらね、夫婦でここへきたのが20年前だったよ。この辺ももっと田舎でさ。亭主はバーニーって名で。もう天に召されちゃったがね。とにかくあの頃はさ、みんな助け合ったもんだよ。信じあってさ。ところがどう?今じゃもう」
「ほんと、わかるな」妙に納得するカーリー。
「わかるんならもうちょい打ち解けてちょうだいよ」
「いいだろう。でぇ、金ってどこにあるんだ、キャロライン?」話の先を聞こうとヘイズが促す。
「その20年前はね、この裏の山で金が出てゴールドラッシュだよ。でもそれも一時。やがて掘り尽くしちゃった。さて、あたしと主人はね、2年前に行ってみたんだよ。もう掘ってるものはいやしない。そこをかっさらって砂金で6千ドルがとこ集めたわけよ。もっとも場所は12箇所になったけど。集めては埋める、埋めては次へ移ったわけよ。」
「それで?」興味津々のヘイズ。
「インディアンよ!しゃくだねぇ。チリカワ族が5・60人、居留地から脱走してさ、山に立てこもっちゃったんだわさ。生意気にもう、あたしらを撃ちゃがんの。バンバン撃ってくるの」
「そのときだんなが・・・」察したカーリーが言う。
「やられちまったよ、バーニーは。チリカワのやつにさ」がらにもなく少ししょげるキャロライン。
「で、砂金のほうは?」神妙な顔をしながらも、一番の目的が気になるヘイズである。
「冷たいねえ。亭主が死んだ話をしてほろっとなってるのに、横から金は、金はって」
天を見上げるおばさん。
「金はどうなった?」バツ悪そうに、しかししつこく尋ねるヘイズ。
「いまだに埋めたまんまなのよ。どう?」
「どうって〜、何が?」よく飲み込めずにヘイズが言った。
「やるかやらないかよ。山へ行ってもらいたいのよ。あそこ行って、あたし達が埋めた砂金を掘り出して、持って帰ってもらいたいの。そしたら・・・そうね。20%、あげちゃうわ」
「20%!?」呆れ顔のヘイズ。
「インディアン、何人いるって言った?」納得いかない顔のカーリーが言う。
「そうね、噂じゃ5・60人かな。なぁに、腹を空かせたひょろひょろインディアンよ」
「フッフッ」お話にならない、という感じでカーリーが笑う。
「でもだんなを殺したんだろ?それがいる山へ20%で行けっての?」ヘイズは明らかに不服そうである。
「だってあたしらは2年がかりよ。あんた達なら2日ですんじまうじゃないのよ」
「それはそっちだけの言い分だよ」
「3人で3等分だね」当然、といった顔でカーリーが言った。
「3等分!?」キャロラインの言葉に顔を見合わせる二人。ヘイズはキャロラインを説き伏せようと、
「そう、それが当然だと思うよ」
(この時、2台目の馬車が若い女性を運んでやってきた)
「誰がそんなこと! 死んでもやだよ。なんだよこの恥知らずやろうが!
か弱い女の足元を見てつけこみやがってからに! けっ、っもう!」
おばさんはものすごい剣幕でまくし立て、去って行く。
「ヘイズよ」
「うん?」
「か弱いんだってさ」
「あのタンカで?」
「ふふふ・・・」
二人は仲良く、乾杯。
馬車から女性が降りてくる。馬車の御者は乱暴に女性の荷物を馬車から放り投げて、馬車を走らせて行ってしまった。それを見ていたカーリーが女性に声をかけた。
「荷物、持ちましょうか?」
「すいません」
「人手が無くてね。愛想が無い町なんです」荷物を運びながら女性に言った。
ホテルの中に入ると、女性はカーリーにチップを渡そうとした。
「あはは、いいんですよ。ボーイじゃないから」そう言ってカーボーイハットを脱ぎ、軽く会釈をした。
「すいません」
女性はスマザーズの姿を見つけ、近づいていった。それに気付いたスマザーズは、
「おお、これはこれは、いらっしゃいませ」
「部屋が欲しいんですけど・・・」
「どうぞどうぞ、よりどりみどりです。へへへ」宿帳を差し出すスマザーズ。
「ただ、困ったことに・・・あたしあの・・・お金を持ってないんです」
「それはゆゆしき大問題ですな」
「ここまで来るのに駅馬車の切符代に有り金はたいてしまったんです」
「顔に似合わぬ無鉄砲なお方ですな」
「今度の日曜まで待っていただけません? そしたら払えますから。あたし、巡回説教師なんです。伝道師です。お説教しますから、寄付も集まると思うんです」
シスターと思しきその女性は一生懸命話している。しかしスマザーズはあまり聞いていなさそうである。
「あのね、お嬢さん。このアパッチスプリングも昔は金がでて、そりゃあ人もわんさか集まってきましたよ。だけど今じゃあなた、人口はわずかの60人。しかもそのうち30人は近くにちらばってる牧場のカーボーイという状態だ。日曜日は全員二日酔い。あんたがどんなありがたいお説教をするか知らないが、耳を貸すやつなんていやしないよ。寄付なんか当てにするだけ損ってもんだ」スマザーズはシスターにそう言うが、シスターの方はかたくなである。
「あたしは神を信じてます」
「あっそう・・・あ〜、名前を伺っておきましょうか?」
「シスター・グレースと申します」シスターはにっこり笑って答える。
「どうだろうね、予定外の客があって人手不足なんだが・・・コックをやってくれたら部屋を提供するがね。もちろん食事も」
この申し出にきょとんとして、シスターが尋ねた。
「給料はいただけないんですか? 部屋と食事だけですか?」
スマザーズは少し後ろめたそうに顔をそむけて答えた。
「いやいや、そんなひどいことは言わないよ。一週間に8ドルで」
「部屋代は普通おいくら?」
「週4ドルだね」
「食費は?」
「週に4ドル」
「引き受けます」
商談成立である。少し納得がいってなさそうではあるが・・・
部屋で泡風呂に入り、リラックスしているヘイズ。そこへドアのノックが聞こえ、ヘイズは驚いてガンを取り、ドアに向けた。そこへ入ってきたのはあのおばさん、キャロラインだった。ヘイズは慌ててガンを別の方向に向け、自分は泡の中に沈んだ。
「負けたよ、ぼうや。フィフティ・フィフティの山分けでどうだい?」
おばさんの提案にヘイズはのった。
「よっしゃ。この格好なんで、握手はかんべんな」
「ああ、いいっていいって。女が見て平気は裸はとイエス・キリストだけだ。うまいだろバーニー? ははは」
「ははは、はははは・・・」
笑いながら、ぶくぶくと泡の中に沈んでいきそうなヘイズであった・・・
食堂でヘイズ、カーリー、そしてキャロラインの三人がテーブルを囲んでいる。
「うぶっぽい顔してるくせに、どうして食えない兄さんだよ」 「へへへ」肉を切りながら笑うヘイズ。 「でも引き受けた限りはバッチリやるよ。ま、まかしといてもらいましょう。さ、食って食って食って」 カーリーは育ちが良くないらしく、フォークをキャロラインに向けて話している。そこへ先ほどの夫妻がやってきた。それを見つけたキャロラインが二人を誘う。
「あ、いらっしゃいよこっちへ。食事はみんなでわいわいやった方がうまいよ」
「いやぁ、こりゃどうも」
ヘイズとカーリーは立ち上がって、ヘイズは握手を求めた。
「初めまして。ジョシュア・スミスと言います」
「わたくし、フィールディング。これ、家内のルーシー」
「よろしく。こちらはキャロライン・ラングレーさん。」
「よろしく」
「サディアス・ジョーンズです」カーリーも握手を求める。
「スミスとジョーンズ? ますます食えないわね」怪訝そうな顔をするキャロライン。
「またなんだってこんな辺鄙なとこにいらしたんです?」話題を変えるカーリー。
「わたし、インディアン管理局から派遣されましてね」
「インディアンをどうするっていうんです? チリカワ族ってのは、結構血に飢えてますよ」おばさんは興味津々に尋ねた。
「さぁて、どうしたもんですかね。まずは会って話してみますか」
その言葉にヘイズの肉を切る手が止まった。
「軍隊を連れて行くんですか?」キャロラインも驚いてそう聞いた。
「主人にそんなものいりませんわ。たとえ相手がインディアンでも話せば分かるという主義ですから、軍隊なんて」
バカにしたような感じで答えるのは妻のルーシー。その雰囲気を察してヘイズが続けて言った。
「なるほど、そうですか。で、やつら何で居留地を飛び出したんです?」
「実は管理官の一人が彼らに渡す肉を横流ししまして・・・そいつは転勤させたんですがまだあるんですよ。土地の状態が約束とはだいぶ違うんですね。それで怒ったんです。
で、私が全権大使として、チリカワ族の気持ちを和らげようと、そういう訳なんです」
「荒れてんですか、やつら?」インディアンの動向が気になるカーリーが尋ねた。
「報告によると相当後悔しているようですが・・・何か気にかかる理由でも?」
「うん、山へ行くんでね。インディアンのいる方へは行かないけど」ヘイズが答えた。
「しかしそううまくは・・・」
「うまくやりたいってことです」カーリーがヘイズの顔を見ながら言った。
「ははは」こんな会話を楽しんでいるかのようにフィールディングは笑った。
「どうなの、キャロライン? インディアン部落のど真ん中へ行けっての?」
カーリーは非難するような目でおばさんを見ている。
「大丈夫よ、あいつらがとぐろ巻いてんのは、東だもん。あたしたち西の方でもやっといたからさ、そっちからかかってよ」
「残ったものは何すればいいんでしょう?」相変わらず不機嫌そうにルーシーが尋ねる。「何がやりたいんです」少し機嫌を取るようにヘイズが言うと、
「それがとんとわからなくて・・・西部旅行は初めてだし。実は早くも帰りたくなってますの」投げやりに答えるルーシー。
「土曜日の晩になれば少しは景気良くなりますよ」カーリーはルーシーをなだめるようにそう言った。
「おや、何かありますの?」
「あ?ああ、その辺のカーボーイが集まってきましてね。飲む、打つ、喧嘩で絢爛たるお遊び絵巻を繰り広げるんですよ」楽しそうに説明するヘイズ。
「それは景気もでるだろうよ」
フィールディングは嬉しそうに笑っている。しかし、ルーシーは相変わらず無愛想な顔をしていた。
地図を入れた鍵つきの頑丈な黒い箱が金庫の中にある。スマザーズはその金庫を開け、その箱を取り出し、キャロラインに渡した。
「んん〜」咳払いをするスマザーズ。キャロラインは嬉しそうな顔をして受け取り、鍵を開ける。
「はさみ取って」
「あぁん」
おばさんは新聞紙大の比較的大きな地図を取り出し、1/6ほどを切り取った。そしてまた大事そうにしまい込んで、鍵をかけた。
外に出ると、砂金集めに出かける準備が整ったヘイズとカーリーがいる。インディアンと話し合いに行くというフィールディングも一緒だ。その脇でシスター・グレースとルーシーが三人の動向を見守っているかのように立っていた。
「ほら。これでバッチリわかるから」ヘイズに地図を渡すキャロライン。
「何だい、これ? たったの2箇所しか書いてねぇじゃねぇの」不満いっぱいにヘイズが答える。
「地図は6枚。1枚に2個所ずつよ。1度に1枚しか渡さない。あんたら全然信用してないからね」
「またまた・・・人は信じてみるもんだよ」呆れ顔のカーリー。
「そんなことより頭を働かせた方が救われんのよ。全部が全部書き込んだ地図なんか渡したら残らず掘り出してそのまんま持ち逃げしかねないもんね」
「そんな男に見える?」ヘイズが聞くと、
「見える見える!」確信を持って答えるキャロライン。ヘイズは参りました、とばかりにカーボーイハットのつばを少し持ち上げて会釈をした。そして三人はおもむろに馬を走らせ始めた。
かなり傾斜のある斜面を行く三人。ろばも一匹ずつ連れている。
ヘイズがフィールディングに話し掛けた。
「フィールディングさん、お宅の意気込みはわかるけど、ちょっと無鉄砲すぎるんじゃないですか。チリカワ族といやぁアメリカ軍とメキシコ軍を同時に相手にした豪のもんですよ。マイルド将軍に降参したんだって、弾と食料が切れたから、しぶしぶですからね。そんなの相手に話が通じますか? 舌先3寸だけで?」
「いやぁ、そういう相手こそまず話し合わなきゃならんのだよ」淡々と答えるフィールディング。
「じゃ、まあ気をつけてね。このへんでお別れしましょう」カーリーが切り出した。
「いやぁ、どうも案内ありがとう」
「じゃあね」少し心配そうなカーリー。
「気をつけて」ヘイズもフィールディングを心配そうに見つめている。やがて三人は別々の方向へと進んで行く。それを遠くの丘のてっぺんからインディアンが見ていた。
高い木が生い茂った場所で二人は馬を降りた。地図と見比べながらヘイズが言う。
「間違いなし、ドンぴしゃり! この地点にありますよ。岩へ向かって、4歩。1、2、3、4。」
確認するように高い木を見上げるヘイズ。カーリーはを大きなスコップを二つ抱えてヘイズの後を歩いている。ヘイズは続けて、
「左へ折れて登りか。10歩だ。2、3、4、5、6、7、8、9、10と。あれだな。掘ろう!」
カーリーはスコップの一つをヘイズにわたし、二人は掘り始めた。すぐにヘイズが、
「石だ!」と叫んだ。するとカーリーも
「よし、間違いなし」
二人は掘りつづける。その間もインディアンは二人を遠くから見ていた。手にはライフルを持っている。かなり掘り続け、穴が大きくなったとき、
「あった。へへへ」ヘイズが『あるもの』を掘り当てた。
「どれ?おぉ、ほんと〜」カーリーも手を止めた。ヘイズは20センチほどの布の袋を手にしている。この中に砂金がぎっしり詰まっているのだ。
「しかしこれだけ集めんの、骨だったろうな」
そのとき、カーリーがインディアンを見つけた。
「ヘイズよ。見てますよ、胡散臭い目で。こっちは見てないフリこいて行こ行こ」
振り返ってインディアンを見つけたヘイズは少し考えて、
「そいで第二地点へ直行か?」
「そりゃそうよ」あっさりカーリーが答える。
「ふうん・・・うんっ」ヘイズも同意した。
一方、フィールディングもインディアンに囲まれていた。少し戸惑って馬を止めるフィールディング。果たしてこれで話し合いなどできるのだろうか?
再び馬を降り、砂金探しを始めたヘイズとカーリー。地図を片手にヘイズは歩く。
「あっちだ、あっち」先を指差しながら進むヘイズ。砂金を隠してあった場所は大きな岩のところで、すぐに見つかりヘイズは喜んだ。
「えへへ〜、ありました、ありました」
「ははぁ〜」カーリーも嬉しい顔である。
「ここ掘れワンワンだよ」
二人は印のある大きな石をどけ、小さな石を掘り出した。今回はかなり早く出てきた。そのとき、銃声が響き渡った。運良く大きな岩の陰にいた二人は当たらずに済んだが、このままではいつなんどきやられてしまうかもしれない状態だった。
「ヘイズ、ここじゃ的射ちのカモだ」カーリーが言うと、
「ほんとだ、取るもんも取ったんだし、退散退散」
二人はすたこらさっさと逃げ出した。途中、ロバがなかなか言うことを聞かず、走ってくれない。
「ほら行け!」
「こら、走れこら!」
「キッド、ロバは足手まといだ、切り離して貢もんにしちまえ」
「よっしゃ、こうならなんだって捨てちゃうよ」
ロバを放した二人は一目散に走って行く。インディアンたちはロバを手に入れ部落へと帰っていった。
しばらくするとフィールディングがインディアンに追いかけられているのに出会った。後生大事にロバを連れて走っているものだからなかなか進まない。見かねて二人は叫んだ。「ロバを捨てろ!」
「ロバを放すんだよ!」
ロバを放したフィールディングは無事にインディアンから逃げることに成功した。三人は走る速度を落として話をした。
「大丈夫ですか?」ヘイズが心配そうに聞くと、うなだれながらフィールディングが答えた。
「まあ、なんとかね。あっという間に襲ってこられてね。いきなり撃たれたのにはたまげたな。もう夢中で逃げたんだが」
「それでいいんですよ」カーリーは慰めの言葉をかけたが、フィールディングは納得がいかないらしい。
「そう言ってくれるのはありがたいけど、ほんと言えばあんなことをしたのはちっともよくないよ。私はインディアンと話し合うつもりで来たんだからね。それを逃げちゃ」
「どかどか撃ってくるやつ相手に話もないでしょ?」ヘイズも慰めたが、
「でも手を挙げてじっとしてるなりなんなりできたはずだ。無抵抗で。そうすりゃよかった。この次はそれでいく」フィーリディングの決心は固いようだ。
「この次って、また行く気?」カーリーは驚いて尋ねた。
「行きたいね。震えてるうちはまだムリだけど、これが止まったらいく」
「ははは・・・」
三人は、取りあえず一息ついて、町へと馬を進めた。
食堂の一角でシスター・グレースが食事をしている。それを見たカーリーはグレースのもとへ寄っていった。
「一人で食事? いけないなぁ。わびしいよ。付き合っていい?」
「もう済ませたんでしょ?」
「うん、だから一緒に座ったけど、僕の方が先に食べちゃったんだってことにして、お話でも・・・しかし、普通じゃないね、君みたいな女の人がこういう土地に一人で」
「まぁそうね」
「どうしたの?」
「個人的な問題を聞かせて煩わせるのもなんですから」
「それが煩わしくないんだな。むしろ聞かせてもらわないと困るんだよ。気になっちゃって。今夜寝られないよ。だから話してみて」
カーリーの押しに負けて、グレースは話し出した。
「私、ボストンで救われない人々のために伝道の仕事をしてきたんですが、ある日のこと男の人が、福音を説いてる私を見てたいそう感心して、神に見捨てられた西部の人々を救えるのはあんただけだ、なんて誘われて、一緒に西部各地を回ったんです。ツーソンまで一緒でしたわ。ところが実は、私がイエスの言葉を説いている間にその男達、テントの外で悪いことしてたんです。よくある、いんちき賭博や、いろいろとよこしまなことをね。あたしを客寄せに利用してただけなんですよ。人のお金を騙し取るようなことをして。だからあたし分かれて一人で帰るところなんです」
翌朝、グレースはカーボーイ達の前でお説教をしていた。ものめずらしさに集まっては来るものの、話を聞いているものは少ししかいない。
「刈り入れの時は過ぎ、夏もはや終わりぬ。されどわれらは救われず。エレミア集第8章の20節です。耳を傾けなさい、兄弟。かの言葉は今も昔も真実なのです。みなさん、時間は長く取りません。お願いです、あたしの言葉に耳を貸してください。幸いなるかな救いの主に従うものよ。キリストの流した血は罪を清め、主はあなた方すべてを愛し、すばらしきものを与えてくださるのです。そしてその返礼は主を愛すること、これだけなのです。あなたの命を主にゆだねなさい。さもなくば破滅です。すべてを主にゆだねるならばあなたの魂は救われます。主に導かれ、主に守られるでしょう」
お説教が終わって、カーボーイの一人が声をかけた。
「優しいね、泣けてくるよ。おれっちのおふくろさん思い出してよ」
そう言ってグレースの持つ募金かごに硬貨を一つ入れた。最後まで聞いていたカーボーイがそのまま帰ろうとしたとき、カーリーが止めてこう言った。
「ああ、何か忘れてないかい?」
その男は仕方なさそうに募金をした。そしてグレースは近づいてくるカーリーに、
「無理に出させるのはいけませんわ」そういうと、カーリーは言い返した。
「しかし信仰だって人の助けが必要なときってのがあるだろう? てなこと書いてあるよ聖書に。言いたいことがあるんだけど」
「ご遠慮なく」
「僕もあっちこっちで伝道師の説教を聞いたけど、君はこの仕事に向いてないような気がするんだ」
カーリーの言葉にグレースは驚いた。
「どうしてそんなこと?」
「優秀な説教師の話にはぞっとするようなところがあるんだ。地獄の火を吹きつけては罪の怖さを感じさせる。君にはできない。優しすぎる」
カーリーの言うことを、グレースは黙って聞いていた。
入り口付近のロッキングチェアに、ヘイズが座ってカーリーとグレースを見ていた。そこへルーシーがやってきて、ヘイズに声をかけた。
「スミスさん、おはよう」
ヘイズは慌てて椅子から立ち上がった。
「おはようございます」
「私も聞いてましたわ、あの人の語りかけ。主人もあんなふうにインディアンに話すのかなって思って」
「インディアンの方が素直に聞くんじゃないかな。ご主人、どうしました?」
「チリカワ族との予備交渉の件について、今ワシントンへ報告書を書いてますわ。あ、待って行かないで、お願い。ちょっとお話したいんです」
ルーシーの申し出に、ヘイズは椅子をもう一つ持ってきて勧めた。
「いいですよ。まぁ掛けて」
場面は再びカーリーとグレースに移る。少し言い過ぎたというように、カーリーはグレースに言った。
「悪いこと言ったと思うよ。でも君にはこんなことをやる激しさってのがないんだ」
「でもあたしにとっては意義のあることなんです」
「それでもあえて言うね。君には強烈な説教はできない」
この言葉の意味をかみしめて、グレースはつぶやくように言った。
「そんなこと言ったのはあなたが初めてよ」
「そりゃ君を利用しようって男がそんなことを言うわけがない。何で利用されたのかわかる? 人を集めるのに理想的だったからさ。君が若くて、そして美しい人だからだよ」
カーリーの思いがけない言葉に戸惑いを隠せない様子のグレース。そんな彼女をカーリーは優しくエスコートしながら、二人は歩いて去って行った。
さて、こちらはヘイズとルーシー。
「あなたお友達と本当にまた行くんですの? もう一度あの山へ」
「考慮中です」
「殺されそこなったっていうのに」
「だから考え込んでるんです」
「やめていただきたいわ」
突然止めろと言われて、ヘイズは少し驚いている。
「どうして?」
「だって主人はね、あなたがた二人こそ典型的な西部人だって、そんな風に思ってるの。だからあなた達が止めてくれれば、あの人も考え直してくれるんじゃないかと思いましてね」
「ふうん・・・ははは、はは」少しばかにしたようにヘイズが笑った。
「何がおかしいの?」
「いやぁ、たいしたことじゃないけど、俺達が典型的西部人ってのがおかしくて」
「違いますの?」
「違っていたいね」
ルーシーはヘイズの言葉が納得いかないようである。
「でも東部人が考える西部男の理想像にはぴったりですけど」
「ああ」つまらなそうに答えるヘイズ。
「お二人は何がご商売? 暮らしは何で?」
「それについちゃあ、ジョーンズ君がよく言うけど、あれこれとやるわけです。これでも俺達、西部ってとこが大好きでね。ぶらぶら流れ歩いては、半端仕事してね。ヘンな仕事もあるけど」
「奥さんも子供もなし?」興味深げにルーシーが尋ねると、
「奥さんなんて、一人も」ヘイズは笑って答える。
「さっき笑ったのは他にも理由が?」
「ご主人とはもう何年?」逆にヘイズが問い返した。
「8年ですけど」
真顔になって、ヘイズはルーシーを見据えて言った。
「俺は8日の付き合いでも、奥さんよりはわかってますよ」
「あの人が?」
「たとえ俺達がガタブルになって、山行きは止めたといっても、だめだね。あの人は行っちゃうよ。一人で行く」
ルーシーは、そんなことわかってるわよ、という表情で聞いている。
「おそらくそうでしょう。あきらめるだろうなんてあたしの甘い考えね。あなたのおっしゃるとおりなのよ。あの人が理解できないの。国務省でいいポストもあったのに。今度だって、パリでもロンドンでもローマでも、好きなところに行けたのよ」
不満をまくし立てるルーシー。それに答えて、ヘイズは冷静に言い放った。
「まぁお互い様ですね。どっちも相手の人間がわかっちゃいないんだ。失礼しますよ」
痛いところをぐさっと突かれて、ルーシーはただヘイズの後姿をじっと見ているだけだった。
その日の夜、カーリーはグレースの部屋を訪れ、ノックをした。
「どなたですか?」
「僕だ、ジョーンズ。寝てたの?」
カーリーの姿を見て驚いたように目を見張っているグレース。
「いいえ、聖書を読んでちょっと・・・考え事」
「話したいことがあるんだけどね」
「ここで? あたしの部屋で?」グレースはかなりの動揺を隠せない様子である。
「大事なことだ」
「待ってください」
強く言われて断れなくなったグレースは、寝巻きの上に鮮やかなブルーの、たっぷりとしたフレアー仕立てのガウンをはおり、椅子に腰掛けてから、少し緊張した声でカーリーを呼んだ。
「どうぞ。大事なことっておっしゃいましたけど」
カーリーは、入り口付近にあったもう一つの椅子をグレースの前に持ってきて座った。
「そう。大事な話なんだ。俺達もう一度山へ入ることに決めた」
驚きと落胆の顔で、グレースはカーリーを見た。
「やめて欲しかったわ。あんな危ないところ」
胸ポケットから札束を取り出し、机にバサッと置きながらカーリが言った。
「東行きの駅馬車が明日ここを通る。乗りなさい」
グレースはその札束を取り、返そうとカーリーに差し出した。
「これはいただけません」
しかし、カーリーは両手を上にあげ、受け取らないようにしている。
「いいから。今朝のほら、お説教に感激して寄付するんだから、使ってくれ。家へ帰って僕が言ったこと、考えて」
「もう考えてましたわ。思い当たります。神の思し召しに叶わないのかもしれません」
「そうさ、若いみそらで奉仕することばかり考えないで少しは自分の人生を楽しむんだ」「そんな不真面目なこと」
「それだよ、少しは不真面目になれっての。人生自分できびしくしなくったって、結構きびしいよ。もう会えないと思う。夜明けにでかけるからね。」
カーリーは椅子から腰をあげ、ゆっくりとグレースに近づいていった。そして、優しく、優しく彼女にキスをした。
「さよならグレース。元気で」
そういい残してカーリーは部屋を出た。しばらくその後を見ていたグレースだったが、おもむろに腰をあげ、鏡の前にたった。そして、今さっきカーリーが見ていた自分の顔をじっと見つめていた。
次の日、ヘイズとカーリー、そしてフィールディングの三人はまた山へと向かっていた。「さて、またまたお別れだ」
「フィールディングさん」カーリーが声をかけた。
「え?」
「あんたこういうことはもうちょいヒマをかけたほうがいいと思いませんか?あと2・3ヶ月ほっときゃ、向こうも気味悪がって話を持っていきやすいんだけどね」
「そいつは無理な相談だ。軍隊を2ヶ月も抑えてはおけん。明日にも乗り込みかねないんだから。それをやっと説き伏せて来たんだ。軍の関係者はみんな殺したがってる」
フィールディングは熱く語っている。しかしヘイズは納得がいかず、
「しかしねぇ、撃ってきたら手を挙げて待ってるってのもあまりにも芸がなさすぎるんじゃないかなぁ」そう言うと、反対に問われてしまった。
「じゃあもっといい手はあるかね?」
「それがねぇからくやしいや」あっさりと負けを認めるヘイズである。
「いくらなんでも手を挙げてるものを撃ち殺しはすまい。ま、そう信じてぶつかってみるさ。それじゃ、行ってくるからな」
「気をつけて」
三人はまたまた別々の道を進み始めた。
今ではもうそこらじゅうにいるインディアンを、二人は陰から見ていた。その数の多さに少しひるんでいる様子のカーリーがヘイズに言った。
「もう西も東も山じゅうインディアンだらけじゃないの」
「だけどここから400メートルで2千ドルになる。ま、静かに忍んで行きゃあ静かに取って帰れると思うよ」
「そう調子よくいきゃあいいけどな」
「いくと思い込んでやるんだよ。それが賭けってもんよ」
「わかってるけどやっぱり考えちゃうな」
「ま、せいぜい考えてくれよ。いざってときどうやって俺を守るかさ」
ヘイズにそう言われて、なんでだよ、という顔でヘイズを見るカーリーだが、ヘイズはそんなカーリーに『にこっ』と微笑み返した。そして二人は馬に乗り、砂金集めに向かったのである。
今回の隠し場所は木の根っこだった。二人が、力強く張っている根っこを斧で切っていると、向こうの方で銃声が聞こえた。
「フィールディングだ」
「らしいね。早いことやっつけよう。おらぁ!」ピッチをあげるカーリー。
「あせらない、あせらない」
「これっきりにしようぜ。あとはおばさんに自分でやってもらうんだ」
「ようし。」
ようやく砂金を見つけて、取り出すヘイズ。
「へへへ、引き上げよう」
二人は馬を走らせた。しかしロバは相変わらず足手まといである。
「ロバを放せ!」
ヘイズの言葉に、カーリーはすぐさまロバを切り離した。そして逃げようと走っていったが、運悪くヘイズの馬に銃の弾が当たってしまい、ヘイズは馬もろとも倒れこんだ。カーリーはすぐさま引き返して、ヘイズに手を差し伸べた。
「乗れっ」
しかしすぐにインディアンが一人、上から飛び掛ってきて、二人とも馬から落とされてしまう。必死の攻防でなんとかインディアンをやっつけた二人。ほっと一息ついてヘイズがカーリーに、
「怪我はねぇか」
「ああ」
しかし、実は二人はすでにインディアンに取り囲まれてしまっていた。観念するしかないと腹をくくったヘイズは、いつもの笑顔で右手を上げて一言、
「こんにちは」
さて、インディアン部落のど真ん中に引っ張り込まれたヘイズとカーリー。もうすでに夕闇が迫ってきている。二人はテントの中で、両手を後ろで縛られて背中合わせに座らされている。少しうなだれた声でカーリーがヘイズに言った。
「この分け前もおばさんに渡してやりたいよ」
するとヘイズは、
「亭主もこうやって死んだのかな」バーニーのことである。
「こうまでぶざまじゃねぇだろ。もっとスカッと死んでるよ。馬から落ちて、首を折るとか」
「うぅん」
「やっぱりやめりゃよかったんだよ」かなり情けない声で言うカーリー。
「言うな言うな、いまさら」
「インディアンのこと、知ってるの?」カーリーはかなりインディアンには怖いというイメージを持っているらしく、恐る恐るヘイズに尋ねた。
「子供の頃だったが、話には聞いてる。ぞぉっとしねぇ話だけどよ」どうやらヘイズも同じらしい。
「俺も同じ話聞いたよ。あれほんと?」ビクビク顔のカーリ−に、
「ウソの方がいい!」否定するのがやっとのヘイズ。
「なんとか口説き落とせないの?」カーリーは一縷の望みを託して聞いた。
「あいつらが話すのはまるっきり外国語だぞ」
「何語? アパッチ語?」
「それとスペイン語」
一縷の望みを絶たれたカーリーはがっくりして言った。
「俺にはガンがないし、おまえのスペイン語はめっぽうあやしい。となると・・・」
バサッというテントを開く音がして、そこからフィールディングが、インディアンを二人従えて現れた。
「いたね。相変わらず屈託の無い顔だ。度胸が座ってるんだね」
驚きを隠せないカーリーは回りをきょろきょろ見回し、ヘイズはこう答えた。
「そりゃそっちだよ。客人面で歩き回って、たいしたお人だよ」
「君たちのことは交渉してみた。返すといってるよ。ただし金は返さない。ロバも取られるが明日の朝、馬は返してくれるそうだ。あとは自由に帰っていい」
このフィールディングの言葉に、二人は一気に地獄から天国へと舞い上がったような顔である。思わずヘイズが笑い出し、
「へへへへへへ」
「急に気分ラクラクだぁ。あんたも一緒に帰るの?」カーリーが尋ねると、
「いや」あっさり言うフィールディング。ヘイズはいぶかしげに、
「どうして?」
「まだ任務が終わってないんでね。今話してるんだ」
「聞いてくれるの?」疑い深げなカーリーに、
「一応聞いてるがね、信用してるかどうかはちょっと」こちらもあまり自信なさげなフィールディングである。
「だけどあんた、何語で通じさしてる?」ヘイズの問いにフィールディングが、
「お互いスペイン語がペラペラでね」
「はぁ。それで、帰るって言ったら帰してくれるの?」カーリーが言うと、
「どうかな。ま、そいつは考えないことにしてるよ。まず納得のいくまで話すことさ。帰るのはそれからだ。じゃ」フィールディングの表情は険しかった。
翌朝、ヘイズとカーリーはインディアン3人に連れられて山を出ようとしていた。途中で止まり、ヘイズはフィールディングの居場所を聞いてみた。
「ドンデ・フィールディング? ドンデ・セニョール・フィールディング?」
答えたくなかったのか、はたまたヘイズのスペイン語が通じなかったのか、インディアンたちはヘイズの問いには答えず、仕方なく二人はそのまま町へと帰っていった。
町に着くと、ずっと夫の帰りを外で待っていたルーシーが、二人の姿を見つけて駆け寄ってきた。
「あの、主人がどうしているかはわからないんでしょうね?」その声は少し震えているように聞こえる。ヘイズは安心させるように、
「ところがおお分かり。インディアンのところで無事だ」
「どうしてそれを?」驚くルーシーにカーリーが答えた。
「実は僕ら、やつらのテントに引っ張られたんですよ。そしたらご主人がいた。元気でした」
「じゃ、どうしてあの人も一緒に?」少し怒ったようなルーシーの言葉に、
「まだ帰る気がないんですよ。話が済んだら帰りますよ。大丈夫。」
なだめるようにヘイズが答えて、二人はホテルへと馬を進めた。
中では相変わらずキャロラインおばさんとスマザーズが二人でポーカーをしていた。
「はい」
カネを巻き上げられたスマザーズ。それをキャロラインおばさんが自分の懐にいれようとして入るときに二人が入ってきた。おどろいたキャロラインは、
「おやまぁ、幽霊かと思っちゃたよ。よくまぁ無事で。ほら、早いとこ出して出して」
すぐさま催促するキャロラインに嫌気が差し、怒ったようにヘイズが言った。
「ねぇよ。インディアンがお召し上げさ。幸い一個所分だけだ。あとのはそのままだ。行けなかったんだ」
疲れきった二人にキャロラインはねぎらいの言葉も慰めの言葉もかけず、ただ、金を取られたことだけが気になってこう言った。
「もう一度言って」
疲れ果てた顔でカーリーが、
「だから金もロバもいただかれちゃったんだよ、インディアンに」
しかしキャロラインは二人の言うことを全然信用しようとせず、怒り出してしまった。
「そのくせ生きて帰ってこられたの? いっそのこと森の妖精にでも取られたと言ったらどうなのよ。その方がまだ本気にできるわよ」
「キャロライン」カーリーが悲痛な声で言う。
「騙しやがって。2箇所分取っちゃったんだろ。それを分けるのが惜しいもんだから適当なこと言って。聞いてよバーニー!」上を見上げるキャロライン。
「妙なかんぐりはよせよ」ヘイズもかなり怒っている。
「ネコババしといて明日はさよならってんだろ。このはげたか! 裏切り者! グーとでも言ってみろ!」
怒る気力も失せた二人はその場に座り、カーリーが疲れた声でこう言った。
「ま、そこまで信用ねぇんなら何言ったってダメだろうな」
「いいよ、そっちがそうならいいさ。こっちもやるからね。見てておくれよバーニー。あんたらにあげた金を返してもらうからね。スマザーズ、金庫開けて、金庫」
これにはさすがにヘイズの顔が変わった。立ち上がろうとするスマザーズの肩を左手で押さえ込み、キャロラインに向かって言い放った。
「あれは命を張ってものにした金だ。俺達んだ。誰にも渡さん」
「いいや、返してもらう。絶対返してもらうから」
ヘイズの手が離れて立ち上がったスマザーズに、ヘイズが畳み掛けた。
「金庫を開けてみろ。表へ出て勝負ってことになるぜ」
この言葉に再び座り込んでしまったスマザーズ。
「何言ってんだい、泥棒! 金庫の中のは私のもんだよ。さ、返せ! スマザーズ、ぶくぶくでぶってるだけが能じゃないだろ、あんた。たまにはピシっとしてみなよ。か弱い女を守るんだよ、男らしく立ち上がってみろって」
そうまで言われては仕方ない、と一旦は立ち上がったスマザーズだが、カーリーが、
「男らしくしたいんなら表へ出ろよ」
そう言われてまた座りなおした。そしてひ弱な声でこう言った。
「ダメ、あたしゃやっぱり苦手だよ」
キャロラインはスマザーズから巻き上げたカネを帽子の中に入れ、乱暴に歩いて行った。気の毒に思ったヘイズはスマザーズに声をかけた。
「よ、カードなら俺が相手するよ」
「いいね。俺も後で」
「よし」
そしてヘイズとスマザーズはポーカーを始めた。
「はい、カットどうぞ」
カーリーは、結局東行きの馬車には乗らず、まだそこにいたグレースを見つけ、ゆっくりと近づいていった。
「どうしたの?」
優しく尋ねるカーリーにグレースが申し訳なさそうに言った。
「出て行けなかったの、無事な姿を見るまではどうしても」
カーリーは、そういうことか、といった風な顔でカーボーイハットを脱ぎながら、
「なるほど。まぁいい、来週にはまた駅馬車もくるし、それに乗ってくれればいい」
「あなた、また行くつもり? ほら、あの人の砂金集めとかに」心配そうに尋ねるグレースに、カーリーが答えた。
「もう止めた。あんまりくたびれ損で合わないよ。次の駅馬車で出て行くつもりだ。西へ行く。」
ホテルの前に、西行きの駅馬車が止まっている。ヘイズとカーリーは馬車に荷物を積んでいた。積み終わると同時に、カーリーはグレースの姿を見つけた。
「ちょっと待ってて」ヘイズに言うと、
「ああ、まだ時間はあるよ」と返事が返ってきた。
カーリーはゆっくりとグレースのところへと歩いてきた。
「グレース。もう会えないと思うけど、達者で暮らしなよな」
「さよならっていやね。でもきっとこれっきりになるわね」
グレースは寂しそうにカーリーを見つめた。
山の方に続く道にルーシーが立っていた。おそらくフィールディングの帰りを待っているのだろう。それを見つけたヘイズはルーシーに声をかけた。
「奥さん、さよなら」
「お元気でね」つれないそぶりのルーシーをヘイズが止めた。
「ねぇ、奥さん」
前にきついことを言われたので、ルーシーはヘイズの言葉をさえぎるように言った。
「またあたしの思いやりが足りないってしかるの?」
ヘイズは優しい目でこう答えた。
「いやいや。いずれご主人のこと、わかる日がきますよ。あの人は帰る。見届けていけないのが残念だけど」
「そうね、あたしも努力しますわ」
場面はカーリーとグレース。グレースは明るい顔で話している。
「だからあたしも人生を楽しむことに決めたの。不真面目にはならないで。こんな気持ちなったのもあなたのお陰」
カーボーイハットを脱ぎながらカーリーが答える。
「少しは不真面目でもいいと思うよ。でも、君には大変身だね。じゃあ」
カーリーは優しく、軽くグレースにキスをした。
「さよなら、サディアス。忘れないわ」
言葉を言い終わらないうちに、キャロラインの叫び声が聞こえた。
「ちょっと見て! ほら、帰ってきたわよっ」
フィールディングの姿を捉えて、ヘイズは嬉しそうに笑った。
「はっはっは」
フィールディングは満足げに馬を進めていた。
再びホテルの中の食堂。全員が勢ぞろいしてお祝いのシャンパンを飲んでいる。フィールディングは幸せそうにルーシーと乾杯をあげていた。キャロラインにシャンパンを注いでもらって、ヘイズもご機嫌である。
「いやあ、どうも。何をどう言って説得したんだ?」
「まず悪徳管理官をクビにしたことを言った。それから食料・衣類の用意があるってね。ワシントンに掛け合って、もっといい土地を世話することを約束した。そしたら居留地へ帰るって言ってくれたよ」
ヘイズはフィールディングの功労を称えて彼の腕をたたいた。そしてキャロラインはとっても嬉しそうに言った。
「ほんとぉ!」
「そう、ここは引き上げるって」
フィールディングの言葉に、うれしさのあまりはしゃぎ回るキャロライン。
「ばんざぁい! これでもうあたしの金は全部回収してこられるわよ。一粒残らず全部。あんたら二人はもう御用済み。お役ごめん。チリカワ族さえいなきゃあ、家の庭みたいなもんだからね。山だろうが谷だろうが、ドカドカ歩いていってやるんだ。ははは・・・スミスさんに〜、ジョーンズさん。本名かどうかしらないけどさ。足元の明るいうちに行くんだね。ま、達者でね」
キャロラインに見透かされてしまったヘイズとカーリーは、ただ苦笑いするしかほかはなかった・・・
駅馬車に乗り込んだ二人。西に向かうその駅馬車の中で、ヘイズは外を見ながら浮かない顔をしている。それを見てカーリーが尋ねた。
「どうしたぃ? 何考えてる?」
するとヘイズは遠い目をしながら、
「気の休まることさ。いっちょ樽にでも入って、大川くだりでもやるか」
二人を乗せた駅馬車は次の町へと砂埃をあげている。さてはて、次はどんなことが二人を待ち受けているのだろうか・・・
Review Compiled by Hikkn