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エピソードガイド詳細版: 西部二人組

第32話 "The Man Who Broke the Bank at Red Gap"
「危ない橋を二度渡る」


しめしめ
放送日1973/未詳
監督Richard Benedict
原案Ronson Howitzer & John Thomas James
脚色John Thomas James
ゲストBroderick Crawford :パワーズ[ Powers ],
   Rudy Vallee :ウインフォード・フレッチャー[ Winford Fletcher ],
   Clarke Gordon :マクファーター保安官[ Sheriff McWhirter ],
   Ford Rainey :コリンズ[ Collins ],
   Dennis Fimple :カイル[ Kyle Murtry ],
   Joe Schneider :ジェス[ Jess ],
   Richard Wright :ビリー[ Billy ],
   Bill Toomey :[ Assistant ]

皆様もうお馴染みの西部の鉄道、果てしもなくだだっ広い荒野を走る線路。
ただ茫々と背の高い草が、囲むように生えているだけの線路の上を、白い蒸気を蒸かしながら、いとものんびりと今、走り来る汽車があった。
「ボ〜ッ…ボ〜ッ…ボ〜ッ…」調子良く3回汽笛を鳴らして、汽車は町を目指している。
正直者と嘘付きを、金持ちと貧乏人を、あるいはカタギになりたい無法者と、そしてイタチのよう目をした不動産屋を運んで…。

揺れる汽車には、ゆったりとしたサロンが設置されており、すでに6人の男が寄り合って、丸いカードテーブルを囲んでいた。
もちろんヘイズとカーリーがお仲間にいる事は、言うまでもない。
何回目かの配られたカードを、それぞれ目の端で見ながら、相手の手の内など読んでいるところへ、そのうちのひとり、立派なグレーのスーツを着こなした恰幅の良い60代の男の番となり、コインをテーブルに無造作に放り投げた。
「よおし、2ドル行っちまえ」
「行こ」次の番のカーリーが、続けてレイズする。
カーリーの隣りの男も、手のカードを見ながらレイズして、次がヘイズの番と言う時。しばらく考えるような素振りをしていたヘイズは、つと顔を上げて、 「…パワーズさん。ここストレートとフラッシュあり?」とスーツ姿の男に問い掛けた。
「いまさらどうした」
「いやぁ、ありって宣言しとかないと手役にならねえんだよ。知らずに2万ドルいかれたものでね。…えぇ」
パワーズは、あきれたように首を振り「あんた、銀行商売はできないね。そういう情報をただで出すなんて。使い方次第で金に成るじゃないか」
さらに諭すように続けて「頭を使いたまえ。それがビジネスの基本だよ」
「わかってます。おれも一度、銀行商売に誘惑されたんですがね、…思いとどまったんですよ」と笑うヘイズを、横目で睨むカーリー…。
パワーズがゲームの続きを促した。「さぁ、配って配って!」
…このやりとりを、テーブルの後ろから密かに見ている男がいた。
小ずるそうな目を持った中年のその男は、広げた新聞紙で顔を隠しながら、何かを確かめるように、ヘイズとカーリーを見つめていた・・・。

やがて汽車はゆっくりと速度を落とし始め、ひとつ汽笛を鳴らして小さな駅に停まった。
このコルトン駅は、途中下車の者も多いらしく、テーブルには、ヘイズとカーリー、それからパワーズの3人が残るのみとなった。
姿勢を崩して、大きく伸びをする二人に、パワーズが声を掛けた。
「足を伸ばしたいなら遠慮はいらんよ。降りていいんだから。私はレッドギャップまでだ」 「いやいや、ここでのんびりさせてもらいますよ」と、ヘイズがあくび交じりに言うのを引き取って、「ぼくらブラックリバーまで行く予定ですから」
と、カーリーが答えたその後ろに、ガンを構えた男が忍び寄ってきた。
「いや、ここで降りてもらうよ、カーリー君」先ほどの新聞紙の男が、二人の背中に狙いを付ける様にして立っていた。
「ヘイズ君もだ」ゆっくりと振り返り、男を仰ぎ見るヘイズ。その男の、イタチを連想させるような小さな眼差しには、確かに心当たりがあった。
男は、怪訝そうな表情のパワーズに、顎で指図して「あんたは脇にどいててもらいましょう。二人ともガンを出して!指でつまんで!」
カーリーも後ろを振り返り、その男の正体に気づいた。だが、相手がガンで狙っているので、おとなしくホルスターから自分のガンをつまんで、テーブルに載せた。 ヘイズも、同じようにテーブルにガンを置いたのを見届けて、「ゆっくり立って、ドアまで歩く」と、男は2人に命じた。
パワーズの視界の陰で、カーリーは男に目配せを送りながら、
「…あの〜、人違いだと思うんですけどね。ここで話を付けてくれませんか」
「何が人違いなものかね!お互いに知り合いじゃあないかね?この前は洒落たなりをしていたけれども…顔はおんなじだ!」
ヘイズが、いかにもうんざりした様子で、
「いやぁ、この間もこういうことがあってね、えらく迷惑したもんだよ。だから言っとくけど、俺もいとこもヘイズとカーリーなんて、そんなもんじゃないんだよ。全然違うの!」
「なら、この場で殺してもいいんだぞ。どっちだって賞金は出るんだからな!」
「わっかんねえ人だな!こっちは、おばあちゃんの葬式に行くとこだぜ」
「四の五の言っとると、自分の葬式を出す事になるぞ。立て!」カチャリと劇鉄を起こす音が響いたのを聞いて、二人はしぶしぶ立ち上がった。
すると、それまで無言でこの様子を見ていたパワーズが、静かに男に声を掛けた。
「ちょっと待った。あんたの名前聞いとこう」
「フレッチャーです。不動産業をやってます。シルバースプリングで不動産業を」
「フレッチャーさん。ま、そう焦らずに、ブラックリバーまで行かせてやって、そこで話を付けたらどうですか。人違いって事もあるし。 このまま連れて行かれたら、こっちは勝ち逃げをされる事にもなるんでね」
いったん立ち上がった二人は、この間にまた椅子に腰を落ち着けていた。
「いや、絶対人違いじゃないんです。こいつらのおかげで保安官にしぼられて、えらい目に会っておるんだ。 おまけに一財産使っちまって。…その後で、正体がわかったんですよ」と、フレッチャーは二人を交互に睨みながら、得意げに言い切った。
「ハンニバル・ヘイズとキッド・カーリーだって。一人1万ドルの賞金でね!」
パワーズの目が小さく光った。フレッチャーは、それには気づかずに続けた。
「乗ってきたとき、一目でわかりましたよ」
「はっ!だからね。おれたちが、その無宿者に似てるってのは認めますよ。 でも、その御本尊じゃあねえんだよ。…ま、とにかく一緒に来てよ」
ヘイズも粘るが、「だめだ!降りろ!行けっ!!」と、フレッチャーがまたガンを振り回したところで、パワーズのとりなすような声が割り込んだ。
「ちょっと強引すぎるなぁ。ガンも感心しない。何はともあれブラックリバーに行ってからにしたら…」
「冗談じゃない!何がなんでも降ろす。あんたは知らんからだ。こいつら、ものすごい大悪党なんだ!降りんと撃つぞ!!」
「いいでしょう、撃ってみなさい」室内に、パワーズの妙に落ち着いた声が響いた。
彼は、先ほどからずっと椅子に座ったままだが、何かを隠しているように、テーブルに下に両手を入れている。
「あんたの腹にも、60口径の弾が二発めり込む事になる。上下二連のデリンジャーだ。撃鉄は起こしてあるし、引き金は軽い」
降って湧いた意外な展開に、フレッチャーが目を剥いた。「嘘つけ…」
「そりゃ、私だってやたらに撃ちたくはないよ。でも拳銃の方が、押さえが利かないんでね」
「…ま、ちょっとあんた」慌てるフレッチャーに、さらに追い討ちを掛けるように、
「揺れた拍子に飛び出す事もあるし…。さ、ガンを置いて」
ガタッ!!
その時、まさにこれ以上ないと言うほどのタイミングで、突然に汽車が大きく揺れた。
思わずよろける3人。パワーズはフレッチャーの出方を窺うように黙っている。
しょうがない、というようにフレッチャーが口を開いた。
「…わかった、わかった。じゃ、ブラックリバーに着いてから」
「そう。それがいい」
ガンを収めたフレッチャーは、二人に睨みを効かせて言った。
「騙されてからあと、ずっと巡り会う機会を待っていたんだ。絶対に逃がさんからな…!
逃げてみろ。ぶっ殺してやるから!」
山高帽子と茶色のかばんを抱えて車室を出て行くフレッチャーを、目で追いながら、苦笑いの顔をパワーズに向ける二人。
カーリーは、軽くため息をついて、「助かりましたよ」と、椅子に腰を下ろしながら、パワーズに礼を言った。「ハッタリが効いて良かった、はん」
ヘイズも帽子に手をやりながら、テーブルの上のガンをホルスターに収めた。
「何でそれがわかった?」と訝しむパワーズに、カーリーは何でもないと言った顔をして、「60口径のデリンジャーてのは、ありませんよ。54が最大です」
それを聞いたパワーズは、ゆっくりとテーブルの下から空の両手を出して見せた。
「フレッチャーの旦那が不勉強で助かったわけか」と、にこやかに頷くパワーズの次の一言が、2人を凍らせた。
「…カーリー君」

「人違いとは思ってないんだよ。フレッチャーの言う通りだろうけど、あのやり口が気に入らんのでね。それで、お引き取り願った訳だ」
「ふ、一難去ってまた一難」カーリーが呟くと、ヘイズは腹を括ったように、
「キッドよ。正直が最良の策って時もある。今度がそうらしいよ。 …しかし、おかしいなぁ。選りによって銀行家が、何でヘイズとカーリーを助けるんで…?」とパワーズを探る目で見た。
「だから言ったろう。いいビジネスマンは物の使い方を心得てるって。
私は、ヘイズとカーリーと聞いた途端に、思い付いたんだよ」
「思い付いたって、何を?」と聞くカーリーを、パワーズは呑み込みの悪い奴とでも言うように横目で見て、
「必要性を充たす。これまた、ビジネスの基本姿勢でね」
「で、何を誰が必要だって言うんです?」ヘイズが続きを促した。
「私だよ。信頼できる手のものが必要なんだ。素性の知れたところで、使う気になった。そこで聞くがね。何だってスミスとジョーンズを名乗る?偽名としちゃあ、何とも…お粗末だが」
「え〜…、俺達には顧問が付いてまして、常に連絡を絶やさないようにしてるんですが、その人がこれを付けてくれたんで…」
カーリーも続けて「スミスとジョーンズなら、うじゃうじゃいますからね。目立たない」
「よかろう」彼らの説明に納得がいったか、小さくパワーズは頷いた。
「こっちの欲しい人間てのはね、頭が切れて、度胸があって、…多少、向こう見ずな奴だ」
カーリーはすかさず牽制して「言っときますけど、向こう見ず渡世にはおサラバしたんです。今や、物差しみたいに真っ直ぐな世渡りでしてね。
フレッチャーだって、化けの皮を剥いでやったけど騙したんじゃないんですよ」
「誤解してもらっちゃ困るよ。犯罪性のある仕事じゃないんだから」
微笑みながら、ヘイズが言った。
「しかし、そう聞こえましたがね。向こう見ずなのを、なんてのが」
「いや、それはいささか危険を伴う事だからだ。何、二・三日なんだ。
それで、ひとり頭500ドル出すよ」
思いのほか大きい金額に、2人は顔を見合わせて、そして、決心が着いたかのようにヘイズは声を落とした。「詳しい話を聞きましょう…」
「いや、ここじゃまずい。レッドギャップでゆっくり」
「フレッチャーが待ってくれますかね」
「あいつの心配はいい」パワーズは、汽車の窓の外を流れる景色を見やり、
「あと一時間で日が落ちる。その頃、長い上り坂になって、汽車は最徐行になる。
こっちは、フレッチャーを魅力ある会話に誘い込んで、惹きつけておく。金の話がいいだろう。その間に、君たちは飛び降りろ」
カーリーの「降りたらどこ?」の問いに、パワーズはいともあっさりと、
「レッドギャップから、10KMのところだ」と答えた。
「ふ〜ん…」目を固く閉じて、考え込むヘイズの顔を窺いながら、
「町へいけば、こぎれいなホテルもあるから、宿を取って私の連絡を待てばいい」 「…でも、その口に乗りたくなかったら?」
にこやかに答えるパワーズ。「無理せんでいいよ」
だが、口ではそう言いながら、ヘイズとカーリーが無事に逃げ延びるために、この申し出に乗ってくるであろうという事を、パワーズは確信していた。

夕陽が落ちても、汽車は休むことなく走り続けた。
パワーズの計画どおり、上り坂で汽車を飛び降りた二人も、月の光を頼りに、道なき道、見渡す限り広がっている草原を、物も言わず、ひたすら歩き続けていた…。

場面変わって、汽車の中。
ベッドがわりの寝椅子に、パワーズは顔に山高帽を載せて、すでに寝息を立てている。部屋には同じように、何人か仮眠を取っている人がいた。
そこへ、例の不動産屋フレッチャーが血相を変えて飛び込んでくるなり、
「おいっ、ちょっと起きて!奴等が逃げた!飛び降りたんだ!!」
と、寝ていたパワーズの襟元を掴み、引きずるように部屋の隅へ連れて行くと、突然に起こされて訳がわからんという顔をして、パワーズが聞き直した。「誰が?」
フレッチャーは、ますます興奮して大声で「ハンニバル・ヘイズと!」
パワーズが、身振りで声が大きいと注意すると、状況に気が付いたのか、トーンを落として、「…ヘイズとカーリーだよ!」
「さっきまで、ここにいたのに」
「ずっと見て回ったけどおらんよ」
「そいつは抜かったな…。じゃ、あんたの言ったとおり…」
「当たり前じゃないか!どうしてくれるんだよ!おかげで、どえらい損じゃないか。2万ドルの賞金を逃がしたんだ!」
「そんなに」パワーズは椅子に掛けながら、振りだけは深刻そうに言った。
「この手で取り押さえて、突き出すところだったんだ!それを逃がしたんだ!
賞金を逃がしたんだ。出るところへ出りゃ、お咎めもんだよっ!」
怒りを募らせるフレッチャーを諭すように
「しかし、それは証拠立てが難しいですよ、あなた。…フレッチャーさんでしたね」パワーズを睨み付けながら、その隣りに座るフレッチャー。
「ウインフォード・フレッチャー。覚えておくれよ。召喚状を送り付けてやる! あんた、名前は?」
「お。どうぞ、これ」
パワーズは、仕立てのいい背広の内ポケットから名刺を取り出し、頭から湯気を起てているフレッチャーに差し出しながら、おもむろに自己紹介した。
「レッドギャップ銀行の頭取、パワーズです」

草原を歩きつづけている二人の脳裏には、幼なじみクレメンタインのベビーフェイスが浮かんでいた。
彼女の窮乏を見かねて、というよりも、クレムから脅迫に近いものを受けて、詐欺まがいの計画でフレッチャーを引っかけた訳だが、結局、我が身には一銭も残らず仕舞いであったことなど、次から次へと浮かんでは 消えた…。
*すみません。ここは想像です*

「私の手違いであった事は謝っときましょう。申し訳ない」
「詫びで、損は取り返せんよっ」取りつく島もないフレッチャーの態度に、パワーズは怒る気配も見せず、
「それはわかってますが、あれがヘイズとカーリーだったという証人はいないでしょう。それじゃ、法廷で争おうたって無理だ。いや、もちろん私も責任は感じます。だから、ここはひとつどうでしょう?フレッチャーさん。裁判沙汰は抜きって事で」ここで、パワーズの目つきが、品定めををするように光った。
「つまり示談ですが」
示談と聞いて、フレッチャーの態度が緩んだ。
「示談ね…。そりゃ、乗らんでもないですよ。…いくらです?」
「10(テン)パーセント」
「2000ドルですか!」フレッチャーは、椅子から身を乗り出した。
懐から、厚い財布を引っ張り出したパワーズの手元を、食入るように見つめるフレッチャー。
涎が垂れそうなその顔の前で、札束を取り出したパワーズは100ドル札を20枚、丁寧に数えながら、
「もちろん、保安官にも知らせます。捜索隊出動ですよ。奴等もそれまで」
と、安心させるように約束した。
フレッチャーは、100ドル札を受け取って満面の笑みで答えた。
「言うこと無しですな。全てはお任せしますよ」
パワーズは、財布を懐に戻しながら
「保安官に、あんたがヘイズとカーリーを見つけたと言っときますから、首尾よく捕まれば、賞金もいくらか出るでしょう。
それでよろしいですね?」
「パワーズさん。さすが違いますね。頭取になるようなお方は、出来が違う!」
「親の譲りものさ」

…この旅に終わりはあるのか、と思うくらい長時間歩いている気がする。
大きな枯れ木が倒れている場所で、束の間の休息を足に与える2人。
疲れ切って、何も考えられない…。
ずっと前方に見えているのが、レッドギャップの町の灯りであったなら、この足の痛みも我慢できるだろうに。ブーツに潜り込んでいた小石を放り出し、あきらめたかのように、とぼとぼとまた歩を進め始めた。

変な歩き方をしている二人連れが、町に入ってきたのを保安官は見ていた。
真っ直ぐにサルーンを目指して、あひるのような足取りでそろそろ進んでいく二人に、この町の保安官マクファーターが後ろから声を掛けた。
「お〜っと、そこの!」
立ち止まる二人に、保安官は歯を楊枝でせせりながら尋ねた。
「お前たち。今夜、宿を取ったって聞いたが?」
「そうです。いやあ、いい町ですね。レッドギャップは」
身体はそのままで、顔だけ保安官に向けて、ヘイズが返事した。
「どうやって来た?」
「…何です?」
「どうやって、ここへ来たかっての」
「歩いてです」
「歩いて〜!?」
「保安官」と、足を引き摺りながら、二人の方から保安官に近づいて行き、
「嘘じゃねえんです。汽車と馬の時代に歩き…」
「乗り物なら、馬もあるがな。持ってねえな」
「そ!馬がありゃ乗ってます…。歩いてきたんだ、二本の足で」
カーリーも情けなさそうに付け加える。
「そうなんです。お陰で足中マメだらけ…」
顔色を見るように保安官が「どうしたんだ?」と聞くと、すかさずヘイズが答えた。
「馬泥棒!」
「馬泥棒だあ?」
「あっはー…やられちゃったんです」調子を合わせるカーリー。
「聞くがな。わしの勤めを知らんのかい。わしは、悪い奴に襲われた人の訴えを聞くためにいるんだぞ。何で一番に、わしのところへ駆け込んで来ねえんだよ」
ヘイズは顔をしかめて「足が痛いからですよー。痛み止めに、駆け付け3杯ばかり煽りたいの…」
「僕は、6杯は行きたいなぁ」
しばらく思案顔をしていた保安官だが、二人の顔をねめつけた後で、
「いいだろ。好きなだけ飲んでこい。 その代り、後で副保安官に届け出ろよ。…いいな?」と放免してくれた。
「はいっ」
「後で行きます!」
ほっとしたように、あひる歩きでサルーンに向う二人の後ろ姿を、保安官が目で追っていた。

場面転換。宿の部屋の中。
ヘイズは、窓の外を見つめている。下着姿のカーリーは、ベッドの上に座り、眉をしかめながら、足の裏を見ていた。
「あ〜、いたたたた…」ため息をつくカーリーに、ヘイズは振り向いて、
「どうだい?」と尋ねた。
「足のスペアがありゃ、とっくに切り落としてるよ。ずきずきしやがって、もう。…見てきたかい?」
「うん。パワーズは銀行にいる。入るのを見た」まだ変な歩き方で、ベッド脇に近寄るヘイズ。
「いるの知ってんだろ?何で、連絡してこねえんだ。待つ身は落ち着きませんよ。小うるさい保安官はいるしさ!」
「まーまーまー…。そのうち、何か言ってくるよ」
「ならいいがね。ゆっくりマメを直せって事か」

サルーンにて。
長旅の疲れを、酒とポーカーで癒そうと出てきた二人。勝負は長々と続いていた。
「おれ、抜けよっかなぁ…」ポンとカードを伏せて、ヘイズが席を立った。
カーリーの後ろに回り込んで、手の内のカードを覗いているヘイズ。
カーリーは、少し思案してからコインをテーブルに投げて、自信ありげに 「一枚」と、カードを催促する。
配られた一枚のカードを手に取り、ゆっくり掌に広げていく。
ハートの5、ハートの10、ハートの8、ハートのJ…
最後のカードが見えてくる。…クラブの3!
助けを求めるように、ヘイズを見上げるカーリー。
「ふっ、サディアス。
フラッシュを狙うのは、もっと大きな場の時。…教えてやったろう?」
「お教えどおりにやれねえのがポーカーだよ。欲も出りゃ、スケベ根性も出るからな!」

夜更けて部屋に戻り、ランプに灯りを点すと、ドアの隙間から差し入れたらしい手紙が落ちているのが見えた。ヘイズが拾い上げて、中を読む。
「『仕事の話あり。小麦倉庫で待て。リバーロードから4KM。時間は10時』」
不審そうな顔になり、続けて「『この手紙は燃やせ…』」
「この手紙は燃やせ!?気に入らないね、何かきな臭いよ、こらあ」
「珍しくも、意見が一致しました。…ま、とにかく行ってみようや」

その小麦倉庫。所在なさそうに藁の上に座るカーリー。
入口に立って、不安げに外を見るヘイズの手には、懐中時計が握られている。
「30分の遅れ」パチンと時計の蓋を閉じれば、カーリーが続ける。
「待たせやがんな、もう。じりじりして来たよ」
「あー、俺も」
その時、かすかに馬の蹄の音が聞こえてきた。一頭や二頭ではない。
暗闇に目を凝らすと、丘を越えて10頭以上もの馬が、全速力でこちらに向って来るのが見える!…考えられるのは、ひとつ。追手だ!
カーリーも立ち上がって、ヘイズの側に来る。
「…時間切れですね」
「あ〜!30分前に切れてたんだ!」藁を蹴って、慌てて逃げる二人。

パワーズの銀行の前。たくさんの人だかりがあり、何かがあった事は分かるが、近づけなくて、隅の方から様子を窺う二人。
ちょうど目の前を横切った男を掴まえて、カーリーが尋ねた。
「どうした。何かあったの?」
「銀行がやられたんだよ。金庫をパックリ開けられて…。俺の虎の子どうしてくれるんだよ、もう。48ドルも!」
事の重大さを察したヘイズは、早口でカーリーに聞く。
「ホテルに置いてある荷物どうする?未練あるか?」
「ないない」
ボ〜ッ!その時、彼らの後ろで、救いの汽笛が鳴った。
振り向いたカーリーは、すでに動き出している汽車を指差して、
「あの汽車、どこ行き?」
「どこでもいい!乗れ乗れ〜!!」
言うが早いか後も見ず、駆け出して行き、相当スピードの出ている汽車の中腹に手を掛けて、ようやく乗り込んだ二人であった。

ヒルズボロの町に宿を取り、新聞を持って部屋に入るヘイズ。
ベッドでは、やはり下着姿のカーリーが、汽車の時刻表を真剣に読んでいる。
「時刻表によると、『2時8分のユマ行きが、ここを10時7分に発つ』…しぇっ!『星印を見よ』か。『但し、水曜日はこの便なし。12日はあり』 これだから、わかんねえってんだよ。時刻表は難しくて」 少しいらついている様子のヘイズは、それでも片頬で笑って、
「へっへっへっ…。これならどうだ?」と、持っていた新聞を広げた。 「『カーリーとヘイズ、記録破りの強奪』!!…これなら、よくわかります」
「下を読んでみろよ」
「『悪名高い二人の無法者は、キャッシュで8万ドルと、…50!…50万ドル相当の有価証券類を奪い去った。当局は西部における、銀行強盗史上最高の額と発表した。
ヘイズとカーリーの犯行と証言したのは、頭取のパワーズ氏だが』…」
「ウィンフォード・フレッチャーが、この証言を裏付けしてる」ヘイズは、手渡された新聞紙を受け取りながら、苦々しげに付け加えた。
カーリーはうんざりした顔で、「こうなると、恩赦とは確実に泣き別れになるよ。おまけに民衆の敵NO.1で、追手に熱が入る」
「察するところ、パワーズとフレッチャーが組んで俺達をはめやがったんだ。ま、相談がまとまったのは、俺達が降りた後だろうけど。
…だから、パワーズがよ、逃がした事は、一言も言ってねえだろ
「あまり驚いてないね」
「ないね。その代り怒(いか)っちゃったよ!こいつは何とかしないと、収まんねえよ!」
ヘイズは手に持っていた新聞を、壁に投げつけた。

夜更け。
皆が寝静まった頃を見計らって、パワーズのお屋敷に忍び込む計画を立てた二人。
外庭に面している窓の隙間に、ナイフを差し入れて、留め金をはずす事に成功し、そうっと窓を引き上げるヘイズ。
薄いカーテンを払いのけ、静かに家の中の様子を窺ってから、まずヘイズが窓枠を乗り越えて中に入る。カーリーが続く。誰も起きてくる気配はない。
暗闇の中、部屋を突っ切ったところにある扉に気づく。どうやら廊下に通じるドアらしい。 ヘイズが、静かにノブに手を掛け、内側に引く。
ギギギー…。シンとした部屋に、蝶番の軋む音が響き渡った。びくりとする2人。しかし、びびっている場合ではない。ヘイズは、上着の内ポケットからオイルを出すと、蝶番の要所要所にオイルを垂らしていった。
試すようにかすかにドアを開けてみて、音がしないのを確認すると、廊下へと進み出て行った。
奥の部屋から、灯りが洩れているのが見える。忍び足でドアまで来て、部屋の中を窺ってから、手に手にガンを構えて、一気に踏み込んだ…。

「あ〜、やっと現れたか、君たち。遅かったじゃないか」
書斎の中では、紅いガウンを着たパワーズが、ブランデーと新聞を手にソファに寛いでいるところで、乱入して来た二人を見て、ゆっくり立ち上がった。
「あん?」
「何だと?」
「三・四日前に来ると思ったのに、計画の進行が遅れたぞ。ま、楽にして」
ガンの狙いは離さずに、ヘイズは部屋の中程まで進み出て、
「余計なもてなしは結構だよ。それより何の事だい」
「ま、ガンを仕舞ってくれよ。私の味方だろ?」と、ブランデーグラスでガンを指すパワーズ。
「調子合わねえな」とカーリーが呟くと、
「ビジネスの話にしよう」と、パワーズは自分のグラスを置いて、新たに取り出した二つの空のグラスに、ブランデーを注ぎ始めた。
「いい取り引きの話は楽しいからな。関係者みんながいい目を見て、めでたしめでたし」
ガンを仕舞うヘイズに、ブランデーを勧めながら、
「これもビジネスの基本姿勢だよ。…いいブランデーだよ。やってくれ」
次にカーリーに渡し、「君もだ。ま、座って座って」
納得の行かない顔で、ソファに腰掛ける二人。
ヘイズはグラスを眺めて「うーん、こっちは苦境に立ってんだけど、これでいい目を見てんのかね?」
カーリーが継いで「そりゃまあ、西部の強盗史上最高って栄誉は賜ったけどね」
「でも、捕まらせはしなかったろ?」
「その他に?」と、たたみかけるようにヘイズが言った。
「それをこれから見せて、喜ばせるよ」
「パワーズ!ワイオミングの州知事は、俺達に恩赦をやってもいいと言ってんだ。
それより、嬉しい物を見せてくれるってのかい?」怪訝そうに、二人を見返すパワーズ。
「…恩赦?」
「恩赦。カタギ志願中なんだ」とカーリー。
「冗談じゃないよ!ヘイズとカーリーに恩赦なんて出してみろ。知事免職だよ」
ヘイズ「だから来週とは言わない。そのうちだよ」
「その前に捕まって、20年食らうって事もあるぞ」
「それを承知で賭けてんだ」カーリーも、自分を納得させるように言う。
「私の取引きの方が有利だな」
「何の取引きだ!」ヘイズが珍しく声を荒げた。
「ま、待ってろ」と悠然と、壁際に置いてある立派な机に向って歩いていく。ソファから立ち上がり、成り行きを見守る二人。
机の引き出しにパワーズが手を掛けたとき、カチャリと撃鉄の音がして、ヘイズがガンを構えた。
「ガンなんか、出さないように」カーリーは忠告した。
引き出しから出したものは、ガンではなく札束だった。両手にひとつずつの札束を持って、パワーズが戻ってきた。
「ひとり1万ドルだ。持ってけ」と言って札束を二つ、ソファの上に無造作に放り投げた。
呆気に取られながらも、右手で札束を掴んでみたヘイズは尋ねた。「2万ドルやるってのか?」
カーリーも、いまいち事情が飲み込めなかった。「何しろっての」
「もうしてくれた。銀行を襲って、命を助けてくれた。」
「じゃあ、8万ドルはどうなったんだよ?ああ、50万ドル分の証券もあったよな」とヘイズが、記事を反芻しながら言うと、
パワーズは「仕事の元締めの権利で、6万ドルはいただいとくよ。2万はそれだ。都合8万になる。
株と債権は、とっくに消えてる。証券類を担保にして相場を張ったが、暴落でパーだ。君ら知らんだろうが、この半年、経済界は不況なんだ」
「らしいね。スリも実入りが少ないって泣いてたよ」
「とにかく、こっちは息吹き返したよ。私の信用は無傷だ。落ちる心配はない。銀行は、再融資を受けて立ち直る。これも君らのお陰だよ」
「ところがね。乗れないんだな、この取引き」と、カーリーがあえて押さえた声で言った。
「乗るね。黙って乗るしか手がないんだよ、君たちは。事件当夜、町へ現れて消えてるだろ。
そりゃいいよ、保安官に駆け込むならどうぞだ。…私は、お悔やみ言うだけよ」
「そ!みんながいい目は見ないもんな。俺たちゃ、ムショ入りだ!」ヘイズは空しくすごんで、ブランデーを一口含んだ。
「そうなるな。だからこの金を持って、南米へでも飛んで、いい目を見るのさ。それでいいだろう?」
それを聞いて、カーリーは熱くなった。
「よくないね。南米なんぞへ出かける気は、さらさらないもんでね!向こうじゃ目立つんで、隠れるのが骨なんだ。 …それより恩赦だ!こんなものを押し頂いて、高飛びができるかい!!」
「恩赦なんて、夢のまた夢。フレッチャーみたいな奴にやられるのが落ちだよ。あの手の人間はうようよしてるぜ。 どいつもこいつも、欲の皮突っ張って、頭の回転はたるんで…」
「何でもいい、金は要らん。無実の罪さえ引っかぶらなきゃ、それでいいってんだよっ!!」
「ままままま、いいから待ちな」今にも飛び掛からんばかりにいきり立っているカーリーを、ヘイズは軽く右手で押さえて、 なだめるように
「…わめくこたねえよ。助けてくれようってんだ、それに噛み付く手はねえだろうよ」
笑みさえ浮かべているヘイズだが、目は決して笑っていない。
「俺も結構、頭は切れる方だが、パワーズさんの前じゃガクッて格が落ちたな」と言って、カーリーを指し、
「ああ、こいつにはよく言います。血の巡りはよくありませんがね、ええ。でも、俺の言う事だけは、よく聞いてくれるんで」
言うだけ言ってしまうと、ヘイズは札束を二つ小脇に抱えて、カーリーを促した。
「じゃ、行こうか。汽車の時間もあるから」

二人以外に誰もいない、貨物列車の中。ヘイズは外を眺めて思案中。カーリーは、そんなヘイズの動かない後頭部を見て、じりじりしている。
しばらく無言の後、カーリーが拗ねたように尋ねた。「よ。時間はあっただろ?」
「何のよ」
「考える時間さ。何で丸め込まれて、すごすご引き揚げるのよ」
ヘイズはカーリーを振り返り「待てよ。パワーズに会う前より、条件悪くなったかよ」
「…とは、言えねえな」
「良くなったろ?」
「2万ドル転がり込んだ事かい?」
「思いもよらない稼ぎだもんな。悪くねえよ」
「そう?あんまり、ほいほい喜ばない方がいいんじゃないの?只でくれるものには用心しろってね」
「うるせえな、考えてんだ…」再び、夜空を仰ぐヘイズ。
「いい思案がある?」
「なし!…でも、そのうち湧いてくる。湧くまで待とう」

またまた場面は変わり、ここはゴーストタウン。
かつては、金が出るとの噂に引かれて集まってきた労働者たちの宴で、盛大に賑わったであろう町も、今は人気も途絶え、枯れ草が球となって風に吹かれるままに漂っていた。
そんな町の一角にあるサルーンの廃屋では、ヘイズとカーリーに呼び出された地獄の穴一味が勢揃いしていた。
「だけど、取っ捕まっちまうよぉ・・・」一味の古参格、カイルが情けなさそうに訴えた。
安心させる口調で、ヘイズは「朝の3時に遊ぶんだ。心配はねえよ。ハリスタウンだ」
「けど、俺にヘイズを名乗れってのは、無茶な注文だい」ちょっと見、ヘイズに見えない事もない男が口を開いた。
続いて、金髪の巻毛を持った男も、「俺だって、キッド・カーリーなんか願い下げてえなあ。すげえ懸賞首だもんよー」
そこでカーリーは、取りなすように
「そうビビることはねえって、カイル!二人ばかり、酒場の女の子に飲ませておだ上げりゃ、明くる日まで覚えてるよ、な?」
カイルもしぶしぶと「ま、そりゃそうだ」
ヘイズは「後は、逃げてくりゃいい。明くる日、女どもは、ゆうべヘイズとカーリーが乗り込んで来たって、町中に触れて回るだろうよ!」
カイルは目を剥いて「カイルも来たって言う〜?」
「言う言う!カイルも来たって!」ヘイズも目を剥いて請け負った。
「・・・そのアリバイがどうしてもいんのかい?」
カーリーが言った。「俺達の恩赦がかかってんだよ。それもその日でないと駄目なんだ。10日の夜!」
それでも、まだ決め兼ねているように、カイルはうつむいた。
そこでヘイズは、ここで駄目押しとばかり
「もちろん手当ては出す。ひとり100ドル出させてもらう」
途端にカイルは顔を輝かせて「その一言で、やると決まった〜!はあ〜」

地獄の穴一味と、話を付けた二人は、再びこっそりとレッドギャップに舞い戻っていた。
夜更けて、人っ子一人いない、パワーズの銀行・・・。
カーリーが持つ、小さいじょうごが震えている。その中にゆっくりと、透明な液体を注ぎ込むヘイズ。少し粘った液体。ニトロだ。
じょうごの底には、細い管が付いていて、その先は銀行の大金庫に繋がっている。
じょうごは、小さなダムとなって、ニトロを静かに溜め込んでいる・・・。
長い沈黙を破ったのは、ヘイズの方だった。
「冷や汗かかないの。ニトロに関しちゃ、経験抱負だよ!」
「わかってますよ。・・・でも、運の尽きって事も・・・」
ニヤリと笑うヘイズ。
じょうごの9分目程まで、静かにニトロを注ぎ終えると、じょうごの底についてる栓をひねる。
すると、溜まっていた液体が、まるで吸い込まれるかのように管を伝わって、大金庫の中に入っていった。
一滴残らず、金庫の中に収まったのを見届けて、ヘイズは管を抜き、その穴に導火線を差し込んだ。
差込口のパテを念入りに指で固めて、カウンターの後ろまで導火線を引っ張り、そこで、二人隠れるように座り込んだ。
床でマッチを擦り、導火線の先におもむろに火を付けるヘイズ。
火は、獲物を狙う蛇のように、ゆっくりと大金庫に向って進んでいく・・・。
カウンターの端から、そっとヘイズが覗くのと同時に、火は大金庫に届いた!
札が宙に舞った・・・。

場面はがらりと変わり、フレッチャーの事務所。
パリッとしたスーツ姿になったヘイズとカーリーは、持参した鞄を逆さまにして、事務所の机の上に中のものをぶちまけた。
小山のような札束が、フレッチャーの目の前にできた。
ヘイズが、空になった鞄を仕舞いながら、
「フレッチャーさん。チャンスは二度訪れないって言いますがねえ」
机の端に腰掛けたカーリーも「特別に、二度目を持って来ましたよ。でも、これっきりですよ」と、札束を掌で指した。
「困るなあ、あんたたちの押しにも。そりゃ気持ちはわかるがね。事情は変わらんのだ。
私は、やっぱりパワーズが恐いんだ。前より恐いくらいだ」
「ところが、事情は変わったんだよ」落ち着いた声で、ヘイズは言った。
「パワーズの銀行は、またも荒らされた。但し、今度はヘイズとカーリーは、500KM離れた町で、ドンチャン騒いでるんだな・・・」
「じゃ、またあいつ自分の銀行を?嘘だー!そんなの」
「嘘だ」カーリーはあっさり認めた。「だけど、あんたの協力でやったことにできるんだよ」
ヘイズが続ける。「そうすりゃ、あの水ぶくれも、水漏れでしぼんじゃう訳よ。あんたも恐れる事はなしと、こうなる」
カーリーが引き取って「それでB作戦は成功」
ヘイズが、机上の金を指差し、促した。「数えてみな。あんたのものだよ」
有頂天で、札を数えるフレッチャー。傍らで、目配せする二人には、気が付きもしない。
フレッチャーは、一通り、札を数え終わると、満足そうに顔を上げて、
「やるやる!」と鼻を膨らませた。
「さーすが。勇気あるある御仁と見込んだだけの事はある」
ヘイズが、山高帽子を被りながら、フレッチャーを持ち上げた。
カーリーは、背広のポケットから、時刻表を取り出して、
「・・・それではっと。レッドギャップ行きは何時かな。・・・あ、一時間後に出る。じゃ、駅で待ってますよ。・・・お早くね」
そう言い置いて、二人が通って出ていったドアを、フレッチャーは不安そうに、いつまでも見ていた。

駅の待合室で、フレッチャーは動物園の熊のように、ぐるぐる歩き回っていた。
「ごめんなさいねー。時刻表、また読み違えちゃって・・・。木曜日に限って、一時間遅かったんだ・・・」
時刻表を手に持って悩んでいるカーリーの隣りに座り込んで、フレッチャーは
「しかし、考えてみるとうまく行きそうもないよ。こりゃあ」と、声をひぞめて言った。
「どうして?」
「だって、あたしが証言を翻して、真犯人はパワーズだと言っても、証拠がないじゃないか」
「はあ〜ん、B作戦、B作戦。
あんたは言った通りやればいいの。それで、すいすい行くんだ。・・・と思う」
「と、思う!?」
「そ!」と、やりあっているところへ、汽車の到着を窺っていたヘイズが、汽車が駅に着いたたと伝えに待合室に入って来た。
「あ、来た来た」
不審顔のフレッチャーの背中を押すようにして、三人は古びた汽車に乗り込んで行った。

深夜。再び、パワーズの邸宅に忍び込む二人。
前回と同じ窓から、同じ手口で侵入する。
この前と違うところは、各自一つずつ、大小はあるが、丈夫そうな鞄を持っている事。
この間、ひどく軋んで肝を冷やしたドアも、今夜はスムーズに通過して、忍び足で廊下へと踏み出した。
二階に通じる階段に目をやり、気配を確かめる。灯りがなくて真っ暗だ。
パワーズは、二階の自室で、既に就眠中であるようだ。
階段の横を通り、パワーズの書斎のドアを開ける。
ギギギー・・・。同時に、二人の目が二階を向く。
ベッドに寝ていたパワーズの目が、一瞬醒める。
が、辺りをちょっと見回した後、毛布を肩まで引き寄せて、また眠り込んでしまった。
二階の様子に、変化がないと見た二人は、ドアを閉めてそっと書斎の中に入った。

真っ暗な中、カーリーはパワーズの机に行き、引き出しを開けて、自分の持っていた皮の鞄を詰め込もうとするが、どうしても入らず諦める。
ヘイズは、ワイングラスの底にろうを滴らし、蝋燭を立てて燭台代わりにして、灯りを確保した。
ヘイズはサイドボードの扉を開き、中に麻の鞄を押し込めようとするが、こちらも無理。
蝋燭の灯りを頼りに、隠し場所を探しているうちに、暖炉に目が止まった。
「よ、あそこはどうだろう?」とヘイズが、火の消えた暖炉を調べ始めた。
ちょうど、排煙口の辺りに隙間があるのがわかり、ヘイズは暖炉の中にかがんで、二つの鞄を押し込んだ。
うまくいったと、大急ぎで部屋を立ち去ろうとした瞬間、鞄が落ちてきて、家中にかなりの音が響いてしまった。

今度こそ目が覚めたパワーズは、足元に置いてあったライフルを持ち、すばやくベッドから飛び起きた。
暖炉の中の鞄を拾い上げて、灯りを吹き消し、二人が慌てて廊下に飛び出たのと、パワーズが寝室から出てきたのと、ほとんど同時だった。
書斎に取って返した二人は、庭に通じる窓に突進した。
ライフルを手に、ものすごい形相で階段を降りるパワーズ。
窓の留め金が固くて、なかなか開かない。パワーズが階段を駆け降りる音が、耳の側で聞こえるようだ。
「開かねえよ!」あせるヘイズ。

バーンッ!!
ライフルを構えたパワーズが、書斎のドアを足で蹴り上げて入って来た。
…暗闇の中、人のいる気配はない。

ローソクを手に、辺りを慎重に見渡すパワーズの様子を、間一髪で開いた窓の外から見ている二人。
書斎に誰もいない事を確かめると、パワーズは、壁に懸かっている大きな絵に近づいていった。
その縦長の額縁に手を掛けると、隠しスイッチでもあったのか額が開き、中から壁に埋め込まれた金庫が出てきた。
ダイヤルを二・三度廻し、ハンドルを引き上げて金庫の扉を開けたパワーズは、中に異常がないことを確認すると、逆の手順で元どおりにしていった。
二人が、一部始終を見ていた窓のところへ、その留め金が外れているのに気が付いたパワーズが近づいてきた。
窓を大きく開けて、ライフルを構え直して、外を見るパワーズ。
…誰もいない。
生け垣の外で、二人は帽子を押さえながら、息を詰めるようにして隠れていた。
やがて、窓を閉じ、留め金を掛け直して、パワーズが書斎を出て行く音がした。

「ふ〜っ…」長い溜め息をついた後、ヘイズが言った。
「入れる場所は決まった」
「また、入るっての!?冗談じゃない!待ち受けてるかも知れんし…
ここまでやって駄目なんだ。諦めの手だよ。南米もそう悪くはないんだから」
「…かも知れね。でも、フレッチャーと保安官が来るまで頑張って、それからでも遅くはねえだろ」
頼りになる相棒の言葉に、すぐ頷く事もできずに、目を伏せるカーリー。

パワーズは、ベッドの中でもう寝息を立てている。
その頃、保安官を連れたフレッチャーの一団は、馬を駆って、パワーズの屋敷への道を急いでいた。

ヘイズは引き下がらなかった。「とにかく、もう一度潜り込んでみようや!これじゃ、諦め切れねえよ。 危ねえ橋でも、渡ってみなきゃよ!!後30分もすりゃ、フレッチャー先生が乗り込む。おたおたしてられねえよ!」
「30分で金庫開けられるか?ドアの向こうじゃ、パワーズが待ち伏せてるかも知れんしなあ…」
「ふうん…、開け方は覗いてたからいけると思う。やっつけようぜ!」
その言葉を合図に、二人はそろそろと立ち上がった。

ナイフの先を、窓の隙間に差し入れて、留め金を外すと、ヘイズはそろりと部屋の中に入っていった。
カーリーが窓を越えるのを助けたヘイズは、パワーズが出ていったドアを指し示した。
カーリーがガンを構えながら、ドアに近づいて、ゆっくりとそれを開けながら、二階のパワーズを窺う。
寝室では、パワーズが寝返りを打っていた。

馬に乗ったフレッチャーたちは、パワーズの家まで、あと少しのところに近づいていた。

灯りを持ったヘイズは、先ほどの絵に近寄り、パワーズがしていたように額縁に手を掛けた。
カチリ。右側のスイッチを押して、額縁を開くと、埋め込み型の金庫が鎮座ましましていた。
縦横50CM四方くらい、家に備え付けの金庫にしては、大きい方である。
帽子をちょっとずらして、カーリーを見やるヘイズ。
決心をつけて、ダイヤルに指を掛けて、金庫に耳を当てる。
ダイヤルを、右に左に何度か廻し、手応えを感じたか、金庫から耳を離した。
やったか?というように、ヘイズを見るカーリーに無言で答えて、ハンドルに手を掛けた。
カチャリ。静かに、金庫の扉を引き開ける…。

開いた金庫に、例の二つの鞄を押し込ようとした、…その時!!
ドンドンドン!玄関に、性急なノックの音がした。
「くそっ!」鞄を押す手に一層の力を込めるが、金庫の中に収まっている書類のために、なかなか入り切らない。

ノックの音に、またも眠りを妨げられたパワーズは、ライフルを手に持って、二階から叫んだ。
「誰だ!?」
ドアの向こうの声が応えた。「マクファーター保安官です!」ノックは続いている。

書斎では、二つ目の鞄を押し込めようとして、焦っている二人がいた。
「おかしいな、こらっ…」
玄関でのやりとりは、全部聞こえて来た。

パワーズが、二階から降りてきて、玄関を開けた。
「何だね、こんな時間に。パーティでもないだろう」と言って、見回した顔の中に、フレッチャーがいるのに気が付いて、
「…お〜や、こりゃどうだ。フレッチャーが一緒とはおもしろい。やっぱりパーティかな…」
訪問者の中で、一番の年長者が前に進み出た。
「パワーズさん。私はコリンズだ。州法務長官の補佐をやっている」
「こりゃまた、ご大層な肩書きで、いったい何だって言うんです?」

何とか鞄は入ったが、今度は金庫の扉が閉まらない。
「反対にしろ!反対」
今にも保安官達が、この書斎のドアを蹴破るんじゃないかと冷や冷やしながら、再度、鞄を取り出しては、上下逆さまにしたり、入れる順番を変えたり、かなり苦心惨澹していた。
「よしよしよし…」
「くく〜〜〜〜〜…」
「もういい、もういい、もういい…」
大汗をかきながら、ようやく扉を閉めた時、パワーズたちの声は、書斎のドアのすぐ側まで来ていた。

一同を引き連れたパワーズは、やれやれといった顔で、書斎のドアを開けた。
「ま、話を聞きましょう。今、灯りを」と、書斎の中ほどに進み出て、ランプに灯りを付けた。
改めて見廻してみると、州法務長官補佐のコリンズを頭に、7人の人間がいた。
レッドギャップの保安官、マクファーターも加わっている。
コリンズは、パワーズに書類を示して、こう宣言した。
「家宅捜索をさせてもらう。令状はある。全てはフレッチャーの証言による。宣誓の上の証言だ。 それによると、あんたはヘイズとカーリーの逮捕を妨害したそうだな。 わざと逃がして、このレッドギャップへ寄越した。そうなると、金庫破りはあんたの差し金と言う事になる」
パワーズは、フレッチャーの顔を睨みながら、
「何です、こんな嘘つき野郎信用して。言う事はくるくる変わるし。振り回されるだけですよ」
側から助手が言った。「家宅捜索はさせてもらうよ」
「ああ、どうぞどうぞ。捜索なら、山に資料小屋もあるから、良かったら、そっちもどうぞ」
「もちろん、山小屋も見逃しちゃいない。今ごろやってるよ」そういう助手の言葉に、パワーズの目に、初めて緊張の色が出た。
家の中を、捜索隊が散らばる。机の引き出し、暖炉の中、サイドボードも開けて調べるが、何も出てくる様子はない。
それらの作業を、窓の外から心配そうに見ている、ヘイズとカーリーの影があった。

「コリンズさん」パワーズは、上目遣いのフレッチャーの顔をライフルで指して、
「この顔みなさい。こんな奴が、本当の事を言ってるもんですか」
のけぞるフレッチャーの顔を見ながら、コリンズは答えた。
「ま、黙ってやらせておくんだね。何も出なければ、喜んで謝るから」
「ま、そりゃ結構。…で?こいつはどうなる」と、またもやライフルでフレッチャーの鼻の辺りを指して、
「別に。放免と決まっている」
コリンズのその言葉に、フレッチャーは勢いを取り戻して、胸を張った。
その時、絵を調べていたマクファーター保安官の、のんびりした声が飛んできた。
「この絵が動かないんだがね。何かあるのかね」
「ああ、それ。金庫だ。今、開ける」パワーズの言葉に、皆が集まってきた。
額縁を動かして金庫を披露すると、パワーズは無造作にダイヤルを廻し、ハンドルを持ち上げた。
「どうぞ」後は任せたとばかり、後ろに下がるパワーズ。
助手が、金庫の扉を開けると同時に、鞄が二つ、転がり落ちてきた。
思惑通りの展開に、窓の外で“やった!”とばかりに大喜びの二人。

思わぬ出来事に、慌てるパワーズ。
「な、何だ、この鞄は!…どうしたんだ。こんなもの見た事ないよ、俺は」
パワーズの机の上に、鞄の中身を広げると、大量の札束があふれだした。
コリンズ州法務長官補佐は、パワーズの顔を見ながら、
「ほ。二度目の金庫破りの獲物らしいな、これは。手付かずで揃っている」
パワーズは、必死で抗弁した。
「違う。俺じゃない!誰かが入れたんだ!」
助手が尋ねた。「あんたでないなら、誰だね」
「決まってるだろ!ヘイズとカーリーだよ!」
「奴等が、何でだね?」とコリンズが、露ほども信用していない口振りで聞いた。
「知らんよ!そ、そんな事は知らん!とにかく、俺じゃないんだから」
「そりゃ、最初のはヘイズとカーリーの仕業だろう。だが、二度目はここにいなかった。500KM離れた町にいたよ」
それを聞いて、嬉しそうなカーリー。
札束を調べていた助手が、顔を上げてコリンズの言葉を否定した。
「いや、最初のあれも違うんじゃないですか?あの時の金もありますから。この2万ドルです」
それを聞いて、たまげたのはパワーズではなく、フレッチャーの方だった。
「え!2万ドルですって!?」

二頭立てのの馬車を駆って、レッドギャップから、大慌てで事務所に戻ってきたフレッチャー。
階段を駆け登り、部屋に入るや否や金庫を開けて、中にしまってある布袋を取り出した。
その袋の健在に、一時はほっとしたフレッチャーだったが、中身の手応えの違いを感じ取って、さーっと顔色が青ざめた。
袋を逆さに振って出てきたものは、札束の代わりに、一枚の手紙であった…。
『フレッチャーさんよ。新型金庫を買った方がいいぜ。俺の相棒でも、楽に開けられたもんな』
…署名欄には『スミス』とあった。
全てを悟ったフレッチャーの顔は、以前、二人にしてやられた時の表情と全く同じだった…。

手錠を掛けられ、助手に脇を固められたパワーズが、邸宅から馬車で連行されて行く様子を、小高い丘の上から見ていた二人。
感慨深げに、カーリーは言った。
「ヘイズさんよ。パワーズの奴も、ひとつだけビジネスの基本は知らなかったな」
ヘイズは、ちょっと考えて「…犯罪は引き合わない?」
「違う!」と、カーリーは首を振って「人の専門を、真似するなっての」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…。
見交わす二人。次の瞬間、腹の底から楽しそうに、笑い出した。
「ハハハハハーーー!」
「フフフフフ…」
そして軽々と、連れていた馬にまたがり、次の町へと走らせる二人の姿があった。

*「危ない橋を二度渡る」完*
Review Compiled by kimyon